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第4話

 置いていかれたような感じに、しょげていたフローラの元に間髪入れずにやってくるものがいた。


「大丈夫か、ローラ」


「わっ、おどろかさん…驚かさないでくださる?ベンジャミン殿」


 フローラはベン兄にむくれ顔をして言った。


 ベン兄とフローラは気心知れた仲なのだ。


「なんかめっちゃ違和感…。」


 息を切らしたベン兄は露骨に顔をしかめた。


 普段のフローラしか知らなかったら、妥当な反応だろう。


 フローラの「貴族風の話し方せんで貴族の視線怖ないの!?」という無言の訴えに、ベン兄はその黄色みの強い金髪をワシャワシャしつつ、言った。


「はぁ、大丈夫ですか?フローラ嬢」


「大丈夫ですわ。心配してくださり、ありがとうございます」


 フローラは「それでいいのよ」という笑みを浮かべながら言った。


「一曲、私と踊ってくださいませんか?フローラ嬢」


 ベンがフローラの手をとった。


 フローラは少し意外だという顔をした後、偽りなく微笑んだ。


 ベン兄の心遣いが素直に嬉しかった。


「喜んでお受けします!」


 〆〆〆〆〆〆


 ダンス中、3回目に自分のドレスを踏みそうになったときフローラはしみじみと言った。


「あの、今思い出したんですけれど、私すごくダンスが下手みたいなんです」


 そもそも『弱冠の鬼才』として忌避されてきたフローラはダンスに誘われることはほとんどなかった。


「自分から言う人なかなかおらんて。口調いつも通りで大丈夫やで。ダンス中はひっそりと話せば人に聞こえんから」


 ベン兄は苦笑しながら言った。


「そっか、でも、コテコテはやめとく」


「だいぶマシ」


「何が!?」


「なんか貴族風装うの大変そうやったから。ワインのとき他の女の人と踊ってて助けられへんくてごめん」


「気にせんで。ベン兄が助けてくれる気はしてたと思う」


「絶対、俺の存在忘れてたな… 」


(かっんぜっんに、忘れてたわっ)


 ベン兄に悪いなと思ったフローラは全力で誤魔化した。


「えっと、女の人って仲良いの?」


「………。ダンスは曲が変わりそうな時に話してたら、誘わないといけないっていう礼儀作法あるから」


 その事実は初耳で、先ほどの茶髪の男の人も仕方なくポーレット嬢を誘ったのかもしれないと一瞬、妄想する。


 それよりもベン兄の意味ありげな沈黙にフローラは大変驚いた。


(ベン兄、ついに…ついに…)


 ベン兄の母親でもあるかのように嬉しくなった。


(これはメアリー小母おばさんに報告するべきやろか)


 フローラは意気込んで尋ねる。


「なーんか、怪しくない?どーれだ?」


 フローラが首を左右に動かしてみせると、ベン兄は焦った。


「ローラ、頭になんか付いてんで」 


 今度は、フローラが焦る番だった。


「えっ、またー。ベン兄、取って取ってー」  


「冗談やって」


 揶揄からうように笑うベン兄にフローラはムーとふくれる。


「もうー、嘘ついたらあかんよー」


 ベン兄の焦りように、まだ見逃してやろうと寛大な気持ちになったフローラはその話題を掘り返すのを止めた。


 フローラは、頭に蜜柑みかんの葉っぱをつけながら、おばあに占ってもらった時も今くらいの季節だったと思い出す。


 おばあには「セキガンはダメ」と強く言われた。


 王立学園に上がってからその意味を調べた。


 セキガンに“隻眼”と“赤眼”の2種類があって困惑したものだ。


 (おばあ、眼が片目なん、それとも眼が赤いんどっちやねーん)


 おばあはセキガンが多義語であることに気づいていなかったのかもしれない。


 痛恨のミスである。


 だんだん、ダンスに慣れてきたフローラは辺りを見渡す余裕が出てきた。


 キョロキョロしていると、なんとなく視線を感じて、ベン兄の肩越しにあるものを見た。


 フローラはまるで幽霊を見たとでもいうくらい、いや、もしかするとそれ以上に驚愕して体中に衝撃が走った。


 同時に、塩と砂糖の両方を入れた料理を食べていると知った時の目からうろこが落ちる感覚を味わった。


 ベン兄によれば、その時のフローラの表情はいつまでも忘れられない傑作だったらしい。


 彫像のように固まったフローラをダンスしているように見せるのはさぞかし苦労したことだろう。


 フローラが見たのは…



ーー緋色の眼に漆黒の眼帯をした男性ーー



 だった。

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