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第15話

「食べますか?」


 デイビット様がバスケットの上に被せていた布を取る。


 黄金のとろっとした蜂蜜が塗られたワッフルが山のように積み重なっていた。


「コンテストの練習として作ったお菓子です」


(えっ、デイビット様が作ったやつ!?)


 貴族でお菓子作りをするのは珍しい気がする。


 専属のシェフが各貴族にはついているはずだ。


 ワッフルを取るために、手袋を取る。


 貴族社会で手袋はマナーであり、この学園の制服の一部だ。


 手袋の下にリストバンドをつけていた上、アライグマの傷をテーピングしている無様な腕があらわれた。


 デイビット様は心配そうな顔をしていたが、ふれないでいてくれた。


 フローラは聞かれてもあまり気にしなかったかもしれないが…。


「ありがとうございます」


 フローラは一番上に乗っていたものを取ってかぶりつく。


 彼女は何時も遠慮しないのがモットーだ。


 まだあったかく、モッチリしていた。


(美味しいっ。あまっ)


 エネルギー不足に陥っていたときに、思わぬ救世主だ。


 デイビット様は、ニコニコして食べるフローラを見つめていた。


 その形の良い口元は嬉しそうに緩んでいる。


「コンテストとは…なんでしょう?」


 食べ終わったフローラは思い出したように尋ねる。


「三月に開催されるお菓子の味を競うものです」


「そんなものがあるんですの」


 そんなものがあったような気もしたが、フローラは参加したことがない。


 デイビット様は何か考えた様子を見せた後、言った。


「失礼ながら、おいくつですか?」


「十五になったばかりです」


「若いですね。異名も頷けます」


 デイビット様はいくつなのだろうか。


 第9学年に属しているということは二十歳前後なのだろう。


 飛び級できるといってもなかなかに難しい。


 この学年に十五歳は規格外で、若くともせいぜい十八歳くらいだ。


 目の前の美少年は、額を出して長い前髪を斜めに流し、緩く首の付け根で茶髪をまとめている。


 長い睫毛の下から濃い青色の柔らかな瞳がのぞいてる。


 先がカクンっと曲がった高い鼻は正面からでも綺麗だ。


 少し笑みを作っている唇はなんと魅惑的なのか。


 その天使のような容貌を見て、何歳でも構わないっとフローラは思う。


「いやですわ、あの異名はただの嫌味です」


 フローラはどちらかといえば、『弱冠の鬼才』を嫌っている。


 この異名は賛辞ではなく、皮肉だと理解しているからだ。


(鬼とか全然、可愛くないしなぁ)


「俺はカッコいいと思います」


 デイビット様はフローラを真っ直ぐに見つめて、静かに言った。


(あんたがカッコいいっ)


 濃い青色の眼を見れば、お世辞でないことがはっきりと分かって心が動かされた。


 次、この異名を誰かに言われても、前ほど傷付かないだろうと思った。


 それどころか、今日を思い出して真っ赤になってしまうかもしれない。


 外面的にはフローラは微笑むに反応をとどめた。


「話を戻しますと、十五歳ならばコンテストに出れますよ」


 デイビット様はお酒を飲めないフローラが何歳なのか判断しかねていたようだ。


「そうなのですね」


(この机、邪魔や)


 せっかく話しているのに講義を聞くための机の幅がかなり広く、遠い。


 机を一睨みした後、顔をあげると、デイビット様と目が合う。


(ずっと、見られてた)


 会話中なのだから当然だ。


 頬を染めるフローラはデイビット様が楽しそうに笑っていることは気が付かない。


 これ以上近距離だとたくさん奇行をしてしまいそうだと思い直すことにした。


「ノバック殿は毎年出られてますの?」


「デイビットとお呼びください」


「では、デイビット様…と」


(どこでもデイビット様と叫べるな)


 内心、フローラは舞い踊る。


「俺は毎年出ています。男性はかなり小規模で苛烈さはありません」


 コンテストは女性と男性で分かれているのだろう。


「女性は苛烈なのですね」


 女性の方がお菓子作りに誇りを持っているのだろうか。


 フローラは他人事のように相槌を打つ。


「女性は苛烈ですね。なんでも、毎年、優勝者の恋が叶っているとか」


 デイビット様は心なしか後半部分を一際、強調させる。


(なぬっ)


「私も出ます。出ますわ」


 バッと立ち上がって、フローラは袖をたくし上げた。


 といっても、五分袖だから肘から脇までだが。

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