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第14話

「ちょっと、待ったー」


 大きく手を広げて雪姫をかばう。


 不審者は髪と同じすみれ色をした瞳を持った女の子だった。


 年の頃はフローラよりも少し上くらいに見える。


 何故、こんなところにこの子がいるのか。


 そんな単純な疑問を描くほどフローラには余裕がなかった。


 というよりは、フローラの中では森は近所の野原と同じレベルなのかもしれない。


「あんた、雪姫に何するつもりや」


 フローラは菫色の人物を睨みつける。


「あたきは、ただ、ニンジンあげようとすっと。この白ウサギに」


 確かにその手には丸ごとのニンジンが無造作に握られていた。


 そう、雪姫はフローラが可愛がっている白ウサギだ。


 雪のように真っ白で女の子だから、雪姫。


 安直な名前だ。


 フローラがこの白ウサギと出会ったのは、三年ほど前だったか。


(初めて聞いた喋り方や。変やな)


 確かに、焦げ茶色の服を来た女の子の話し方は、王都の庶民の間では聞いたことのないものだ。


 フローラに変だと思われるのは癪に障るだろうが…。


 本当に何処から来た人なのか。


「雪姫~、怖かったやろ。うちが来たさかいに、もう大丈夫やー」


 フローラは勘違いを誤魔化すかのように危険人物と思われていた存在を無視することにする。


 振り返ると、愛らしい白ウサギがちょこんとお座りしている。


「やけん、あたきは不審者ちゃうっちゅう」


 いらついた声が冬枯れの森に響く。


 フローラが雪姫を抱きしめようとすると…。


 人気者の白ウサギは、なんと、ニンジンにかぶりついた。


(なにー。浮気かー)


「雪姫~、リンゴあんでー」


 フローラはポケットから短冊切りしたリンゴを取り出して振った。


 雪姫の大好物だ。


 恨めしきニンジンから離れて、リンゴに飛びついてくれた。


(ほんま、かわいいなぁ)


 リンゴを持ってきて正解だった。


「あんたやなくて、リンゴが好きったい」


 赤色の肌をした人が、立ったままで、ボソッと言った。


「何やってー」


 フローラも言い返して緊張が高まる。


 一触即発とはこの事だ。


「「ははっ」」 


 どちらからともなく、しょうもなさに笑いがこみ上げてきた。


 ああ、喧嘩にならなくてよかったものだ。


「アホちゃうか」


「バカっちゃん」


 互いに肩を竦める。


「雪姫に一回だけ触らせたる」


 フローラは雪姫を抱えて変な喋り方する子へ向かって突き出した。


「おおぅぅ」


 奇妙な声を出しながら何度も撫でるので、フローラはムズムズしてきた。


「触りすぎやっ」


 フローラは雪姫にみだらに触れる手をバシッと叩いた。


 〆〆〆〆〆〆


 不思議ちゃんとは穏便に切り上げてフローラは第一王立学園まで駆けた。


 早朝に森へ発ったとはいえ、雪姫を探すのに時間がかかり、さらに思はぬハプニングがあったので時間が押していた。


 服はチュニックにズボン姿から制服のドレスへと着替えている。


 第一王立学園は庶民と貴族の両方が通うので制服が一律にそろえられている。


 庶民と貴族とでは、貧富の差が洒落しゃれにならないほど激しいからだ。


 実は、学費に関しても、庶民は免除されている者が多い。


 特待生になるには、その分、入学試験が難しくなるのだが…。


 難しいと言っても学力だけが測られるのではない。


 入学試験で測るのは才能と容姿だ。


 貴族がわざわざ庶民を学園に入れる主な理由は二つ。


 才能のある者を利用するため。


 容姿の良い者を結婚相手に迎え入れるため。


 フローラはもちろん、前者の試験を受けた。


 今、受けていたのは歴史の授業。


 朝からの過激なエネルギー消費によりほぼ意識がなかった。


 フローラは歴史を苦手とする。


 眠いからだ。


 授業終了後に覚醒すると、何やら後ろから美味しそうないい香りがして釣られて後ろを向く。


「食べますか?」


 低い穏やかな声がして、魅了されてしまう紫紺の瞳とバチッと目があった。





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