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第13話

(うおおおぉぉ)


 フローラは森の中を前傾姿勢で走っている。


 木に登って周りを見渡す。


 これは夢ではない、現実だ。


 トレーニングも兼ねて雪姫を探している。


(デイビット様は何考えてんねんー)


 ただ、鬱憤うっぷんを晴らしに来ただけかもしれない。


 雪姫を愛でて心を落ち着かせようという魂胆だろう。


 実際、雪姫はその姿だけで心を和ませるような愛らしい見た目をしている。


 今のフローラには雪姫が必要だ。


 ここシルウァ王国は大森林の真っ只中にある。


 フローラの住む王都は王国の東の端にある。


 つまり、樹海に面しているのだ。


 フローラの家の隣にあるのはその樹海だ。


 走っている場所もその中というわけだ。


 猟師などの特別な職業でない限りこの深い森に入るような命知らずはいない。


 フローラはタダの農家の娘で学生だが、森での生き方を知っていた。


 《《《


 見回す限り同じような濃い緑だ。


 前方を睨んでもどの方角か全く見分けが付かない。


 キョキョキョっと時鳥ほととぎすの呑気に鳴く声が聞こえる。


 歩き疲れたフローラが地面に大の字になる。


 今朝方からぶっ通しで歩き続けたのだから無理もない。


 フローラはまだ十にも達していない女子おなごなのだ。


「おばあ、ここ、どこやー?迷子なったかー?」


 フローラは少し焦り気味におばあに尋ねた。


「確かに迷子よ」


(た、たよりにしてたのにぃ)


 調子に乗っておばあについてきた事を後悔しそうだ。


 フローラはどこもかしこも同じに見える森が不気味に思えた。


 もう家に帰れないのではと不安になる。


「えっ、まだ死にたくないー」


 熊でも出てきそうなデカい声を発した。


 別の意味で不安を感じたおばあはフローラを黙らせる。


 おばあはフローラのほっぺをムギュッと掴んで諭した。


「迷子になっても生きられるようにするの」


「森に恋をすると、自ずと分かることも多い」


 おばあも分かりにくい説明をするもんだ。


「ふーむ」


 フローラは顎に手をあてて、一丁前に分かってそうなポーズを取る。


 たぶん…フローラには何も伝わっていない。


「たくさん知るの」


 分かりやすい説明に切り替えたらしい。


 おばあの森に関する知識は確かにズバ抜けていた。


 今考えると、何処でそのような豊かな知恵を手に入れたのかは大いなる疑問である。


 占い…ではないだろう。


「まず、時間と方角ねぇ。昼は太陽、夜は月と星」


 おばあは、ほぼ真上で激しい主張をしている太陽を指した。


 《《《


 今、太陽は目の前にある。


 ちょうど朝日が出てきたところで、ずっと先の方は黄から橙のグラデーション。


 頭の上の方は星という宝石がうっすらと散りばめられた紫色だ。


 東の奥深くに分け入っているのだが、雪姫は見当たらない。


 シルウァ王国は温暖な気候で冬といっても雪は滅多に降らない。


 葉のついていない茶色の木に茶色の地面の組み合わせの中、真っ白な雪姫は分かりやすいはずなのだが…。


 フローラのズボンのポケットはぷっくりと膨れている。


 雪姫へのお土産としてリンゴを持ってきたのだ。


 もう一度木に登って辺りを見回す。


 左の視界に白いものがチロリと見える。


 雪姫はちっこいのだが、流石に白の面積が小さすぎるといぶかしむ。


 フローラから雪姫を遮るように、立ちはだかっている者がいた。


 その人はフローラが見たことのない赤みの強い褐色の肌をしていた。


 ウェーブのかかったすみれ色のボブだ。


 顔が見えないので男か女かは分からない。


 服も今まで見たことのないものだった。


(なんだか、すごく、動きやすそう)


 その服を染めるウッディな茶色も森に溶け込みやすそうで実用的だ。


 雪姫に近づくときに持っていた袋から何か出そうとするのが見えた。


 凶器に違いない。


 フローラは雪姫の危機を探知して躍り出た。


「ちょっと、待ったー」

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