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第10話

「ふぁー」


 フローラが起きると隣で寝ていたはずのレイラはもういなくなっていた。


 シーツを触ると冷たく、かなり前にレイラか去ったことを物語っている。


 太陽が空の高いところで燦々《さんさん》と輝く。


(レイラはお嫁さんになったんやもんねぇ。早起きだなぁ)


 客観的に見ると、どちらかといえば、フローラの起きる時刻が遅すぎる。


 昨夜、正確には今朝までレイラと話し込んでいたのだから、仕方がないが…。


 レイラは仮眠でもとっていたのだろう。


 そうでなければ、バケモノだ。


 赤みがかった薄いベージュに見える髪を手櫛てぐしで少しすいてベッドから降りた。


 トボトボ歩いてダイニングに辿たどり着いた。


「「「「「「お誕生日おめでとう」」」」」」


(ふぇっ)


 フローラは一斉に言われてやっと目が覚めた。


 金色の目をパチクリしている。


 ダイニングテーブルには美味しそうなご馳走が並んでいた。


 作りたてなのだろう。


 野菜スープからは湯気が立っていて、トウモロコシやニンジン、パパイヤが浮いている。


 メインはココナッツミルクで長時間かけてしっかりと煮込んだ鹿肉。


 これには炊きたての米が添えられていた。


 デザートは米粉にココナッツミルクを混ぜて、ピンク色に着色したもの。


 他にもオレンジジュースは外せない。


 秋にこの家で作ったものだ。


(うひょー)


 全てフローラの大好物だ。


 朝食にしては多すぎるが、時間的にはブランチといったところか。


 随分、奮発したに違いない。


 パパイヤなどは王都ではあまり見かけない食物だ。


「昨日できなかったやろ、誕生会」


 父さんがフローラの肩を叩いてテーブルに促した。


「フローラの望みは?」


 母さんがケーキにロウソクを刺していた手を止めて尋ねてきた。


 この家では、家族からの誕生日プレゼントとしてなんでも一つ叶えることがてきる。


「みんなで、みかん狩り!」


 なぜか一人残らず笑ってる。


(子どもぽかったかなぁ)


 ゴツゴツとした枝の上を地面から離れているスリルを味わいながら進むのが大好きだ。


 取った蜜柑はそのまま食べても良し。


 後にジュースに形を変えるのも良し。


 ジャムにして長期保存にするも良し。


 “みんなで”というのがより楽しいことになるポイントの一つだ。


「そういうと思って準備しといた」


 父さんが苦笑しながら、席に座る。


「とりあえず、食べる!」


 フローラはドカッと席に座った。


 〆〆〆〆〆〆


 食べ終わって支度し、みかんの木に向かう途中でのこと。


「フローラ、はい、お待ちどう」


 レイラがフローラにスカーレットのリストバンドを渡した。


 フローラはレイラが毎年何かしらくれるのを楽しみにしていた。


「わぁ、可愛い」


 フローラが普段使っているのとは違ってレースが縫い付けられていた。


 お店では見たことがないデザインだったので、レイラの手作りかもしれない。


「今度使うわ」


 フローラは目を伏せて、ポケットにリストバンドを入れた。


 普通、プレゼントはその場で付けてほしいものだ。


 フローラは若干気まずい様子で顔を上げた。


 レイラはその金色の眼で大丈夫よと訴えかけてくれる。


 ここで付け替えない理由をきかないレイラは優しい。


 フローラは隠していることがバレているかもしれないと思っている。


「フローラ、恋の相談はいつでも待ってるよ~ん」


 レイラはフローラの両頬を包んで親指で泣きぼくろを触った。


(うちもめっちゃ頼りにしてるで)


「レイラも木登りしてみかん取ろうや」


 フローラはレイラの手を強引に引っ張った。


「ちょう、あたしはやらんって」


 そんなことをいいながら、レイラもちゃんと支度を済ませていた。


 レイラもフローラから逃げられないと分かっているのだ。


「今日はうちの誕生会やから、ゆうこと聞いてもらうで」


 フローラはいたずらっ子のような笑みをうかべた。


「「ねーちゃーん」」


 赤毛の頭をした二人のおチビが手を振っている。


 ニーナはベン兄に肩車されて得意げにみかんを一つ手にしていた。


 普段は大人しめのニーナには意外と野性的な一面もあるらしい。


 十中八九フローラの影響だ。


 フローラはみかんの木までレイラを連れて走り出した。




 森の奥で鼻をクンクンさせて蜜柑の匂いを嗅ぎ取ったものがいた。


 そのお腹がギュルっと大きく音を立てる。

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