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第9話

「「「「「「お誕生日、おめでとう。フローラ」」」」」」


 ベン兄とレイラ、サムズ、ニーナ、母さんと父さんが一斉に言った。


「おおきに」


 フローラは素直に嬉しかった。


「今日はいろいろあったやろ。身体拭いてレイラちゃんと早くベッド入りーな」


 母さんが優しい声で言ってくれた。


「えー姉ちゃん、もう寝ちゃうの?」


 地団駄を踏んでサムズが残念そうにしている。


 サムズもニーナも普段はもう寝ている時間だ。


 フローラにお祝いの言葉を伝えるために起きていたのだろう。


「こら、サムズ。ローラは疲れてるんや」


 サムズを小突きながら、父さんは言った。


「サムズ、ニーナは俺と遊ぼな。今晩は俺もこの家泊まるから」


(ベン兄、任せた)


「ローラ、おかえり」


 美しい銀髪を下ろしたレイラが奥で手を振っている。


 もう寝る支度を済ませているのだろう。


「レイラぁ、いっぱいあんねん、話したいことー」


 フローラはレイラに抱きついた。


 〆〆〆〆〆〆


 フローラは動きづらいパーティードレスを脱いで簡素なドレスに着替えた。


 深紅のオペラグローブを外して両手首にリストバンドをつける。


 髪の毛もほどいてサザンカを大事そうに窓辺に置いた。


 支度を終えたフローラはレイラのいるベッドにダイブして、言った。


「前に言ってた、茶髪の人覚えてるー?」


「ああ、鼻が高いとか、唇の形が綺麗とか」


 フローラはレイラにだけ憧れの人について語っていた。


「そうそう、名前はデイビット様らしい」


「うおー、話したん?」


 レイラは興奮したように身体をフローラの方にガバッと向けた。


 フローラは勢いよく頷いた。


「何かね…」


 パーティーであったことの一部始終(セキガン男云々は除く)をレイラに生き生きと語った。


「礼儀作法が綺麗なの。仕草とか、話し方とか」


 言いながら、ふと、アレックは仕草と話し方の礼儀正しさが正反対だったなと違和感がした。


フローラはどうでもいいことだっと頭を揺らして、雑念を振り払った。


 この違和感をフローラが再び思い出すのは少し後のことである。


「よかったじゃん。いい感じや~ん」


 レイラがフローラの右目の下にある泣きぼくろを左手の親指でこする。


 これはレイラがフローラを可愛がるときによくすることだ。


 くすぐたかったフローラは仕返しにレイラの泣きぼくろを右手の親指でグイッと押す。


「レイラもそう思う!?」


 既婚者のレイラがそういうと、かなり説得力があるものだ。


 〆〆〆〆〆〆


 絢爛豪華けんらんごうかな一室のこれまた贅沢な装飾を施した長椅子に寝そべっている女がいた。


 サイドテーブルの上に飾られている紫色のアネモネが印象的だ。


 お香を焚いたばかりなのだろう。


 灰白色の煙がかすかに漂い、それに甘さとスパイシーさの匂いが後を追う。


 その部屋の金で縁どられた扉がコンコンッとノックされた。


「あら、こんな夜更けに何かしら?」


 女性にしては低い威厳のある声で言った。


「例の女の子の年齢をもう一度教えてくださいませんか?」


 扉から入ってきた男性が膝を折って女に尋ねた。


「あなたの一つ年下だから…17歳かしら」


 この答えを聞いた男性は心なしか安堵した様子だ。


「見つけたの?例の女の子を」


 女は素早く体を起こして迫った。


「いえ、見つかりません。やはり、亡くなっている可能性はないのでしょうか?」


「無いわ。占い師が言っていたのよ。彼女が私の糧になる、と」


 その女性は足を組み直しながら、鋭く深紅の目を光らせて断言した。


「それに彼女の死体は確認されていない」


 女は語気を強めて言った。


 男性はもう何度も聞いた言葉だ。


 そして、何度聞いても信じられない言葉だ。


 やるせなくなり、男性はあかね色の唇を噛んだ。


「少しでも、条件に当てはまる女の子を見かけたら報告しなさい。この件に関しては間違いを許しましょう」


 これは報告を怠ることは許さないという忠告。


「はっ。重々承知しております」


 男性は低頭しながら、傷痕きずあとうずくのを感じた。




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