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第0話

 ある夕方、誰もを包み込むようなオレンジ色の西陽がおばあの部屋に差し込んでいた。


 そこに女の子が息を切らしながら入ってきた。


 光のあたり方でその色を変える髪は今は薄い赤髪に見える。


「おそと、さぶぅ」


 雪が積もった外はそうとう寒かったのか、女の子のほっぺは真っ赤になっていた。


 畑仕事を手伝っていたのだろう。ドレスにはたくさんの土のついた跡があり、おまけに頭にはミカンの葉っぱが乗っかっている。


「まあまあ、そんなに急いで。どうしたんだい、フローラ」


 おばあは編み中のマフラーから顔を上げて少し驚いた感じで言った。


 走り込んできた割にフローラはおばあの向かいにちょこんと座って少し下を向いて黙り込んでしまった。


 言い出しにくいのかしらねぇと思って、あったかい紅茶を入れてフローラに出してあげた。


 カップを置くコトンという音で顔を上げたフローラはその金色の眼を輝かせてゴクリと飲みきった。


「あったかー」


 ほうと息をついたフローラはよしっと気合いを入れて言った。


「おばあぁ、うちにも“うらない”してやぁ」


 おばあが占いの名人だと誰かから聞いたのだろう。


(やっぱおカネ、いるんかなぁ)


 なかなか返事をしないおばあを前に、フローラはもじもじしている。


 おばあはその可愛らしい様子をいつまでも見たかったが、そういうわけにもいかないので微笑んで言った。


「いいわよ、1回だけね」


 フローラは顔一面が満開となった。


 おばあは後ろの戸棚からカードの束を取り出してきて、シャッフルしたり、並べたりと忙しなく動いた。


 フローラはおばあにきかれた質問にハキハキ答えてワクワクした様子で待っている。


 6枚のカードが出揃ったとき、おばあは真剣な顔になって言った。




「フローラ、あなたはセキガンに近づいてはダメよ」




 おぼあのピンと張った声にただならぬものを感じてフローラは前のめりになった。


「せきがぁん?なぁにそれ?」


「フローラが大きくなったら分かるわ」


 おばあはフローラを怖がらせないためか、少しばかり表情を和らげた。


「ふーん、どうしてあかんの?おばあぁ」


 フローラは母さんに編み込みのおさげをしてもらった髪をくるくるしながら首を傾げた。


「カードが教えてくれたわ。フローラにとってセキガンは危険と」


 おばあは謎めいた感じの表情でカードをなぞる。


 黄昏たそがれ時の優しそうだった陽射しがおばあの顔を照らして神秘的な陰影をつくっている。


「せきがんこわぁ!」


 おばあが作り出す謎めいた雰囲気にちょっと怖くなったフローラは恐怖を振り払おうとするかのように叫んだ。


 急にドンと立ち上がって真面目な顔でボムボムと空に拳を突き出す。


 フローラは真剣なのだが、眺めていたおばあはフローラの頭に乗ったミカンの葉っぱが落ちそうで落ちないのが何だか可笑しく思えて吹き出した。


「なあにっ?」


 笑いものになってると思ってフローラはほっぺを膨らましてプンプンしている。


おばあはニコニコしながら、ローラに近づいてしゃがんで葉っぱを取ってあげた。


 おっきな葉っぱを見て金色のお目々をまん丸にしているから、葉っぱが付いていることに全然気が付かなかったのだろう。


「ゆってよー、もう」


 怒っているのも可愛らしくフローラのほっぺを摘んでおばあはつぶやいた。


「可愛いねぇ」


 おばあが心の底から言っているのが分かって、フローラは怒りが吹っ飛んでフンと胸を張った。


 笑いの発作が引いたおばあは先ほどの占いのカードが目に入って、嫌な予感がした。


「おばあの占いは本当によく当たるのよ。だから、絶対、セキガンはダメ。分かった?」


 おばあの真面目な顔にキリッとしたフローラは胸に両手を当てて宣誓する。


「あい、ちかうっ」


 そんな愛らしいフローラを見ておばあはギュッと抱きしめた。


 フローラもおばあの背中にそのちっちゃな手を回した。


 フローラはあったか~いものを感じて今なら外に出ても寒くないのではないかと思った。

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