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第八話 「まさかのそのまさか」

 「バンッ!!」というココの発砲音がホテル内に響き渡った。チャンは急いでホテルと同化し、違う場所から身体を出した。

 

「無駄ですよ。」


反発バウンド


 そうココが唱えると共に、壁に激突するはずだった銃弾は壁を跳ね返り、バウンドを繰り返した。跳ね返った弾を更にチャンが避けると、弾が停止しないことに気がついた。

 それに加え、弾はずっと同じ挙動をしているのだ。


「ここは正方形の部屋だからな……ひし形に反発し続ければ確かに止まることはない。」

「そんなに呑気にしていて良いんですか?」


 どういう事だ?と思うと同時に、体は本能的に弾丸を注視していた。そう、弾はバウンドする事にスピードが増していくのだ。


「バウンドとする度に元のスピードがプラスされていくんです。つまり、初めのスピードを1とするなら、1回のバウンドで1+1、2回のバウンドで1+2……という要領で増えていくわけです。」


 そんなことを話している間に、銃弾は目で負えない程のスピードになってしまっていた。


「追加のもう一発ですよっ!!」


 そう言うと、ココは更にもう一発の弾丸を打った。その銃弾は、ひし形にバウンドする銃弾の少し上を、斜めに分断するようにバウンドした。

 つまり言うなれば……テニスコート!!


挿絵(By みてみん)


「あの状況で、数ミリの狂いもない弾を撃つなんて……!」


 チャンは驚愕し、思わず相手への敬意の念すら湧いていた。だが、この程度で追い詰められるほど弱くは無い。


「ははは……ははは!この技は諸刃の剣だよ。朝霧 悠を離れさせてくれてありがたいよ!」


 そう言ってチャンはビルに潜った。まさか。


 瞬間、チャンは悠の背後にいた。


「死ねぇぇぇっ!!朝霧悠!!」


 だが、悠はチャンのことを見向きもせずにチャンの背後からの攻撃を避けた。


「チャン・チー……」


 思わずチャンは悠にナイフを突き刺そうとした体勢のまま停止してしまった。悠のあまりの覇気に体が動かなかったのだ。


「この本はなんだ……!!!」


 数分前、ココから離れた悠は、何か脱出に役立つ物がないかと、チャンのバッグを漁った。すると、中から深淵よりも黒い本が出てきたのだ。

 悠はこの本を見た事があった。だが、一応確認したのだ。その中身には、色々な欄があり、上から様々な項目があった。



人魂操作(ソウルオペレーション)】Lv ★★★☆☆

  人の魂を操作し、自在に操ることが出来る。代償

 として腕に呪いの文様が刻まれ、数ヶ月分の寿命を

 失う。

地形支配(ワールドコントロール)】Lv ★★★★☆

  地形を支配し、「魂を込める」、「地形を変える」な

 ど、様々なことが出来る。代償として、大地に魔法

 陣を描き、自身の血肉を捧げる必要がある。


 そして、一番下に書いてあったのは、目視することすら嫌な文章だった。


死者蘇生(ゾンビ)】Lv ★★★★★

  死者を蘇生することが出来る。代償として、大量

 の死体を魔法陣を通して悪魔に捧げる必要がある。



 そう、この本は()()()()()だったのだ。しかも、死者蘇生の欄にはペンで二重丸を付けられていた。

 そんな時、背後からチャンは襲ってしまったのだ。恐ろしく感覚が過敏になっていた悠を襲ったチャンの判断不足であった。



 そして現在に至る。悠にナイフを刺そうとした体勢のまま動かないチャンは、冷静になり悠にもう一度ナイフを突き立てようとした。だが、悠は「クッ」と体の向きを変えてチャンの腹に強烈な一撃を放った。

 チャンは覇気でビルに戻ることも出来ずに吹き飛ばされた。


「「人間とは芸術品である」……俺の昔の部下の言葉だ。戦死した時の遺言だ……」


 チャンは戸惑いつつも、その話に耳を傾けていた。


「人が芸術品だと言うなら……完成とは死だ!!死者蘇生とはその芸術品を上書きすることだ!!まさか貴様は……兄を黒魔術で蘇らせようとしていたのか!!答えろ!!この本はなんだ!!」


 そう聞くと、チャンはニヤリと笑って「ハハハ……!」と奇妙な笑いを始めた。


「まさかのそのまさか。」


 瞬間の出来事だった。悠が1歩を踏み出したと同時に、ココが横から銃弾を発砲した。悠には世界がスローで動いているように見えていた。

 気がつくと、ココの撃った銃弾は悠の視界の片隅にあった。そう、チャンがホテルを形ごと変え、銃弾が悠に当たるように動かしたのだ。


 銃弾が数ミリ悠の頭にめり込む。悠はこの弾から逃れる術を持っていた。本来手から放出する『波動(ウェーブ)』という魔法を全身かは放出すれば簡単に防御可能である。

 だが、体力を消耗した悠は魔力が少ない。つまり、防御と攻撃を()()()()()()()()()()のだ。

 ギリギリまで銃弾を耐え、チャンに当たる範囲内まで近づく必要がある。


 チャンの誤算は、これほどまでに悠がイカれていたことであった。何が起きているのかを思考している間、チャンの動きは停止してしまっていたのだ。

 チャンがその場を離れれば、悠の頭を銃弾が貫いていた。だが、チャンが動かなかったことで、波動のリーチ内に入ったのだ。


「『波動(ウェーブ)』!!!」


 瞬間、チャンの視界は光に包まれた。チャンは銃弾と共に波動に消し飛ばされたのだ。


「ようやく……終わった……」


 頭蓋骨に当たらない程度で停止した銃弾は致命傷にはならなかったものの、出血多量により悠の体が動かなくなる程度の怪我にはなったのだ。


第八話 終

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