第六話 『ル・センス』
ビーストが街の中に紛れている、そう聞くといやでも警戒して歩いてしまう。
そんな時タイミング悪く悠は背後から話しかけられたので、思わず叢雲を鞘に収めた状態ではあるが向けてしまった。
「え?」
「あ……すいません!反発的に……!」
その人……いや、子供と言った方が良いのだろうか。二、三等身程で、まるでキョンシーのような服を身にまとった少年……いや少女なのか?分からん。とにかく、その子供は不思議そうに叢雲を見て微動だにしなかった。
「全然いいよ!」
子供はニッコリと笑うとそう元気よく言った。だが何かと申し訳ない。悠は何か借りを返さなければいけないと思い、近くのパフェの売っているレストランに向かった。この世界は暑いので季節にピッタリだろう。
「しばらくはゆっくり出来そうだね。」
「はい。」
そんなことを子供の背後でコソコソと話していると、その子供は誰かを発見したようで、入店直後だと言うのにその「誰か」に向かって突進して行った。
「あ……お席はあちらでよろしいでしょうか……?」
「はい!すいません!」
困惑する店員を置いて、子供の方へと半ば走るように向かっていった。ココは子供の世話に何故か慣れているようで、笑顔で子供に話しかけた。
「誰か居たんですか?」
「これ僕の師匠!ルミーゼ!」
そのルミーゼと言う師匠は少し戸惑いつつも、何となくこちらに挨拶をしてきていた。セーターを来て、ボブぐらいの長さの水色の髪の毛の女性だった。
「この子は弟子なんですか?」
「まぁ……そんなところです。」
詳しく話を聞くと、色々なことを教えて貰えた。この子の名前は『チャン・チー』だそうで、昔に仲の良かった兄を火事で亡くしているそうだ。その火事の時に親も亡くなり、一人で居たところをルミーゼが拾ったそうだ。今はそれでも元気でやっているらしい。
「あなた方は……異世界警察さんですよね?この世界の理の異常は『重力』です。でも、少し身体が重くなる程度で皆さんの世界とは、ほとんど変わりないかと思います。」
「確かにそうですね……言われなければ気づきすらしませんでした。……あれ、そういえば何でこっちの情報まで?」
「この世界は研究技術が良く発展しているんです。なので、あなた方の世界くらいの情報は得れているんです。」
思わず感心して「へ〜」と声が出てしまった。だが、先程も言った通り、それが問題なのだ。これだけ技術が発展するのをビーストが見過ごすとは。ワンク『ZERO』の例の世界は、『END』が悠のことを待っていたので暴れる必要性がなかったが、この世界のビーストはどんな理由で身を潜めているのだろうか。
「あ、そういえば異世界警察さん方は衣食住が整ってないですよね?」
「そういえば……通貨は共通なので使えますが、全然持ってきてませんでした。」
「実はチャンと私ははぐれていたんです。それを見つけてもらった恩もあります。是非お二人さんのホテルを予約しておきます。」
「そんな……!」と遠慮したが、ルミーゼも譲る気はなさそうなので、申し訳ないがホテルに止めて貰うことにした。
ホテルは街で一番高級そうな見た目の、綺麗なホテルだった。名前は『ル・センス』と言うらしい。
「一応スイートルームを取ったので今日一晩泊まっても不自由ないと思います。」
「ふわぁっ……!!」
ココは目をキラキラ輝かせて、近くのソファに飛び込むように座り込んだ。
「ふかふかぁ……沈みます……」
そのままココは眠ってしまいそうだったので、寝ないように急いで起こした。
数時間後、全員が夕食を食べ終わり、最後に悠もお風呂に入った。サウナも作られており、景色を一望できる風呂まであった。
「ふぅーっ……あったかかったぁ……」
お風呂から出ると、もう電気が消えて三人とも眠ってしまっていた。チャン・チーの寝相が悪すぎることだけはとりあえず分かったので、違う布団を引いて眠った。そういえばビーストは……
頭の中で考えている途中で眠ってしまった。
「ふぁ〜。よく寝た。」
悠が周りを見た時にはもう三人ともおらず、洗面所ではココが警察服を整えている最中だった。
「あ、起きたんですね!ルミーゼさんは今あちらの部屋で朝食を食べてますよ。」
そう言われたので、ボサボサの髪の毛を軽く整えつつルミーゼの元へ悠は向かった。すると、朝だと言うのにもう綺麗に服を来て、清潔感溢れる見た目で朝食をとっていた。
「あれ、チャン・チーさんは?一緒に食べているのかと思ったんですが。」
「チャンは朝風呂に入っていると思うのですが……」
瞬間、悠の全身には雷が落ちたようだった。ココの居た洗面所は風呂場の隣だ。なのにも関わらず、風呂場は電気もついていなければ、音もしなかった。それはサウナも同様だった。
急いで走って洗面所に向かおうとすると、ココが不思議そうに玄関の扉の前に立っていた。
「あれ〜……?」
「どうしたんだ?」
「なんか……扉が開かないんですよ。」
嫌な予感がして、無理やりこじ開けようとしたが、開かなかったので、最終手段、魔法を使って扉ごと壊そうとした。だが、扉はビクともしない。
「チャンの姿を……起きてから一度でも見たか……?」
「……?一度見たあと、朝風呂に入るって言って風呂場に行きましたよ?」
やはりだ。風呂場を確認しても誰も居ない。嫌な予感は的中してしまったのだ。
「このホテルは……獲物をおびき寄せて、じっくり殺す……チャン・チーによって作られた超巨大な罠だったんだよ……!!!」
そう、悠達三人はもうこのホテルから抜け出せなくなってしまったのだ。チャン・チーの手によって。
第六話 終
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