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第四十六話 三兄弟 

「シガール・オウマ君!人間っていうのはね、自分の周りに成長を抑える『殻』があるのさ!さぁ、君も……」


 そう言うと、次男は大きく足を振りかぶって、倒れている魔王をもう一度蹴り飛ばした。抵抗出来ない魔王はその場に這いつくばることしか出来なかった。


「『殻』を破ってみせるんだ!!さぁ、立て!!シガール・オウマ君!!」

「はぁっ……はぁっ……ゲホッ……!!」


 魔王は立ち上がって抵抗しようとしたものの、傷が深すぎて、吐血してその場に倒れ込んでしまった。





「はぁ……はぁ……何なんだお前……!?なんでまだ立ち上がる……!?」


 ウルグが戦闘中の長男は、既に戦闘不能状態だった。二度目に投げた手榴弾をモロに食らい、その後もウルグからの攻撃を受け続けていた。

 だが、それでも絶対に倒れずに、何度もゾンビのように立ち上がってくる長男に、ウルグは嫌気が刺していた。


「俺は……絶対に倒れられない理由があるんだ……!!ロット様のおられる『スラガロク』には……絶対に行かせない!!」

「お前の理由なんて知ったことでは無い!!どけ!!」

「俺は……ロット様を守る使命があるんだ!!行かせない!“悪党”め!!」


 そう言われた瞬間、ウルグは動きを止めてしまった。

「『悪党』?何を言っているんだ、悪はお前たちだろう。」

 そう言いたかったが、ウルグは言葉に詰まってしまった。長男は真剣な眼差しでこちらを見ている。

 この三人が攻撃ではなく、仮に『防御』するために襲撃に来たとしたら?ロットという人物を守りたかったなら……


「悪いが、その手には乗らない……いや、乗れないんだな……」


 心が揺らぎかけたウルグだったが、ウルグは下を向いたまま、短刀を二本持って両手でクルクルと回した。


「悠に……『異世界警察はヒーローじゃない』って釘刺されてるんだよ……お前達が正義を掲げようが、何をしようが知ったことじゃ無い。」


 すると、長男は地面を這うようにして逃げた。


「はぁっ……ロット様を守らなければ……まだこんな所で……やられてたまるかよぉ!!!」


 長男は涙を浮かべてそう叫ぶと、地面の砂利をウルグに向かって投げつけた。ウルグの足に当たったが、ウルグはビクともしなかった。


「三男……次男!!」


 先程から地面を這い回って逃げていた長男は、三男と次男の姿が見える場所まで移動すると、笑顔になって言った。


「先に行っとくからな。」


 ウルグが振りかざした短刀は、静かに長男の心臓を貫いた。叫び声も呻き声も上げずに、長男は全身の力を失った。


「あ……兄貴……」


 次男と三男は状況を理解できずに、目を見開いて放心状態になってしまっていた。


「……ココ!!魔王!!」


 ココと魔王もまた、状況を飲み込むことができていなかったが、ウルグがそう叫んだことで、我を取り戻した。


「特別警官の名のもとに……悪は絶対始末だ。」


 ココ達はようやく整理がついたのか、武器をきちんと握り直して敵に向かい合った。


「はぁ……はぁ……テメェらが正義を名乗るなんて……絶対間違ってる!!」


 三男は怒り心頭でそう叫んだ。


「兄貴が……兄貴が殺されて……そんなんは正義じゃねぇ!!」

「誰かを守るために相手を殺すのは……私達も貴方達も一緒です……掲げた正義が対立してるんです!!恨むなら自分の正義を恨んでください!!」


 ココは半ば自分自身にそう言い聞かせると、ピストルを三男に向けた。

 三男は口しか出ていない覆面の下で涙を流して、歯を食いしばった。


「ヒーロー気取りの……クソッタレが!!!人が死ぬのがそんなに愉快かよ!!」


 三男は枯れた声でそう叫ぶと、乱心の状態でココに向かって走り出した。まともに走ることすらままならず、よろつきながら走っていった。


「最初から……ヒーローなんかなった気はありません!!」


 次の瞬間、辺りにはピストルの発砲音が広がったのだった。


────────────────────────


「兄さんも……殻に潰されちゃったのか……」


 次男は悲しいのか、下を俯いてそう呟いた。


「はぁ……はぁ……悲しいんですか……!」


 魔王はボロボロの身体を無理やり起こして、次男と向き合った。


「っ……ふっ……はっはっは!!面白いこと言わないでくれよ!!シガール・オウマ君!!僕が好きなのは兄さんじゃない!!ロット様だけだよ!!兄弟が何人死のうと知ったこっちゃない!!」


 辺りの廃墟には次男の悪魔のような高笑いが響いた。次男は笑いを落ち着かせると、魔王を見て話し出した。


「でも、見透かした気になられたのは不快だ。可哀想だけど死んでもらおう。」


 そう言うと、次男は自身の武器である、落とした鉄パイプを拾い上げて、魔王に向かって一歩ずつ歩いていった。


「はぁ……僕が怖いんですか……」

「?そんな訳ないだろ。死に損ないの子犬に怖いなんて思わないよ。」

「人って……『怖い時』に怒るんですよ。」


 魔王は先程までなかった余裕を見せて、不敵な笑みを浮かべた。次男は激怒して、鉄パイプで魔王の腹を殴り飛ばした。


「あぁ!!ブチギレてるな!!でもこれのどこが恐れてるんだ!?言ってみろよ!!」

「心を見透かされるのが怖いんですよね。」


 そう言うと魔王は『創造破壊』を発動しようとした。だが、その時緊張の糸がほどけたかのように魔王は、その場に嘔吐してしまった。先程から刺激が強すぎる魔力に当てられて、魔王は限界だったのだ。


「ぶっっっっっっっっ殺してやるよ!!」


 次男はそう叫ぶと、魔王の顔面を鉄パイプで殴りつけようとした。だが、ウルグが間に入って止めた。


「殺してみろ。」

「ウルグ・ハース!!ロット様に聞いた!!確かランクは『II』だった!!」

「お前はランク外だ。」


 瞬間、ウルグは次男の顔を掴むと、片足で、次男の足を払い上げ、背中を地面に付けさせた。


「俺たちは正義のヒーローではない。あくまで任務を全うする『警察』だ。保護すべき人を守るためなら何人でも殺してやる。」


第四十六話 終

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