第四十五話 出動
「『魔ノ國』……!?なんですかそれ……!」
「そういえば……アストラさんに聞きました……」
ウルグに背負われている魔王はそう呟いた。アストラは自分の話を聞いてくれるのなら最早カカシにでも話しかけるほどなのだ。良くいえばお喋り好きである。
「一度入ったら最後、ビーストに追いかけ回されて最終的には骨も残らない……今回の場合そもそもビーストすら見つかりませんけど……」
「ビーストの方向は『探知』で殆ど分かっている。全く動かないのが奇妙だが……」
そう言いつつも、先程からそれ以上に奇妙な事を悠は感じていた。上空を烏が飛び続けているのだ。それも、全く鳴き声すら出さずに。悠が『探知』の能力を常時使用していなければ気が付かなかったかもしれない。
「いっその事、この街ごと破壊したいところだが、『地球』が余計なことをしてくれたせいで、そんな事は出来なさそうだ。」
「おい、朝霧悠。」
ウルグは悠の話など耳に入ってこないかのように無視してそう言った。
「魔王の顔色がどんどん悪くなってる。魔力も弱くなってる。少し休憩させてやれないか。」
「……悪いが私は止まる気はない。止まるのなら貴様ら三人で待機していろ。」
「止まってやるとか優しさはないのか。」
「歩いて行ってやる。感謝しろ。」
そう言うと悠はスタスタと歩いて行ってしまった。気に食わない態度にウルグは舌打ちして、その場に魔王を寝転がらせて、ウルグも座り込んだ。
「ココ、休憩はしても警戒は解くなよ。今の俺たちが奇襲をされても気がつけない。」
「はい。……そういえば思い出したんですけど、悠“さん”が失っていた記憶って、今の悠“様”にはあるんでしょうか?」
「アストラの事は覚えていたみたいだしな。しかも、ENDの話をした時にも『死』の能力は覚えていた。ただ、『十星暗殺』の件はどうなんだろうな。」
ウルグは自身の『廃品回収』で回収してあった水のペットボトルを出すと、魔王に飲ませて、落ち着かせた。
「魔王、気分はどうだ。」
「はぁ……はぁ……ビーストに近づけば近づくほど、魔力に圧迫される感覚がして……周りの物の魔力を感じられません……」
そんな時、半壊状態のビルの窓を突き破って三人の男が現れた。
「あぁ、変な『規制』がかかったせいで登場する時くらいしか物壊せねぇ……!」
「兄さん、俺らはいつでも自分の殻を壊して限界を突破していくものさ。」
「兄貴達下がってな、俺が全員蹴散らしてやる。」
……と、言っていたものの、ウルグ達は「誰が兄で誰が弟なのか」全く分からなかった。出てきた三人は全員覆面を着けて、同じような黒いコートを着ていたのだ。
精々違いといえば、覆面から「出ている場所」だった。
初めに出てきた、恐らく長男と思われる男は『左目』を出している。
その次に出てきた、恐らく次男と思われる男は『右目』を出している。
最後に出てきた、恐らく三男と思われる男は『口』を出している。
「……三男だけなんか不憫!!」
ココは思わずそうツッコんでしまった。三男だけ何も見えないのだ。すると長男が怒って口を開いた。
「なんだと……!覆面が薄いから見えてんだよ!ホラ、そっちからも微妙に顔見えるだろ!」
「じゃあ覆面の意味ねぇじゃねぇか!!」
思わずウルグまでツッコんでしまった。
話が進まないと思い、ココは三男に向かって走っていった。
「仝々さんとの修行で……私は遊んでいた訳じゃないんです!!」
そう言うと、ココは三男に触れて『反発』を使用した。瞬間、三男は吹き飛ばされてビルの壁に激突した。
そして、ココは地面にも『反発』を使用し、一気に三男との距離を縮めた。
「これが新しい二つの能力。そしてあと二つは……」
そう言うと、ココはピストルを取り出して、地面に向かって発砲した。だが、弾丸は地面に激突するよりもっと前に「空気」に『反発』した。そしてココはその勢いで空中に舞い上がった。
「空気への『反発』……そしてこれが最後です!!」
そう言うと、空中からココは三男に向かって発砲した。三男は覆面で前が見えなかったものの、熟練の勘で弾丸を感じ取って避けた……はずだった。
寸前で避けたココの弾丸は突然軌道を90度変え、三男の腹に直撃した。
「ぅぐっはぁっ……!!」
三男は撃たれた腹の血を手で抑えて何やらしゃがんでいた。そんなに痛かったのか、と思いココは少し心配になってきた。殺すつもりはなかったのだ。
だが、耳を澄ますと、何やら「ペチャペチャ」という液体の音が聞こえてきた。
「美味い……」
三男の上げた顔は、恐ろしく、おぞましかった。先程の音は、なんと「血液を舐める音」だったのだ。自身の血液を舐めた三男の前歯の隣の歯は、小さな牙のように変形している。
「三男が能力を解放したのか……」
「油断するな。」
ウルグはそう言って、三男の方を向いている長男に切りかかった。『廃品回収』で準備していた短刀で切りつけると長男は避け……なかった。
「ッ痛ええええぇぇぇえ!!!てめぇ、何しやがる!!」
「……あ!?お前俺たちと戦いに来たんだろ!?」
「くそ……!なんて卑怯な奴だ!」
ウルグはイライラしてきて、準備してあった手榴弾を早々に使ってしまった。
「手榴弾」はマズイ、そう思ったのか長男は流石に走って逃げ……なかった。「まっずぅうううぅいっ!!」と叫んで手榴弾を上空に放り投げた。
「ふぅっ、危機一髪だ。」
「くそ……なんなんだこいつ……!ふざけやがって……!」
ウルグは舌打ちをすると、辺りの大量の瓦礫を『廃品回収』で回収した。そして、回収した黒い袋を長男に向かって投げつけた。
「ムッ!?この程度の袋、弾き返してやるさ……」
「いや、時限爆弾だ。」
ウルグが投げた袋は、長男にぶつかった瞬間破裂して、瓦礫は爆発するように辺りに飛び散った。
「何かにぶつかった瞬間、爆発する。袋が消えるのが難点だが。」
「んなっ……ものを回収するだけの能力じゃないのか!?そんな事ができるはず……」
「『信じる力』だよ。」
ウルグはニヤリと笑って、自信ありげにそう言った。魔法の強さとは自分をどれだけ信じられるかなのだ。
故に「世界の英雄がナルシスト」なのだ。
第四十五話 終
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