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第四十四話 『魔ノ国』 

「向かうとしよう。」


 そう言うと悠は、どんどんエレベーターに向かっていった。ウルグ達も少し気に食わなかったものの、悠に着いていった。


「研究班の情報だと、この世界、相当特殊らしい。」

「……ワンクは?」

「“ない”。異常なのが……空世界だと言うのに、何故か世界が消失しないと言う。普通は二、三年で消えるはずが、十年経った今でも消えないとの事だ。」

「興味深い。」


 そう言うと悠は山本五郎左衛門から悠(力を失った状態)が受け取ったハチマキを引きちぎって地面に投げ捨てた。


「妖力があまりに強すぎる。不快だ。」


 ウルグは荒々しい行動よりも、その発言に驚いた。この「朝霧悠」にとって「不快」と思うほどの実力、改めて山本五郎左衛門の恐ろしさを感じた。


「さて。」


 そう言ってエレベーターに入ると、大量に設置されているボタンの隅に、他とは違う黒色のボタンがあった。

 そう、黒色のボタンこそが『空世界』、数個ある中から、情報通りのものを選んだ。


 エレベーターが『ウィーン』という音を立て、移動して少しすると、扉が開いた。瞬間、エレベーター内に侵入してきたのは血(なまぐさ)い、いや、血の臭いだった。


「世界全体に血の匂いが広がってるんですか……!これが空世界……!」

「ビーストも保護対象も死んでいるんだ。全世界の保護対象が死ねばこれほどの臭いにもなるだろう。」


 何事もないかのように悠は歩いていった。ウルグ達はハンカチで鼻と口を覆って、慎重に進んでいった。


「……この魔力……只者では無さそうだ。私の足元に及ぶ……いや、カカトにかする程度の実力はあるようだな。」

「え、魔力なんて感じますか?異様な雰囲気は感じますけど……」

「高すぎる魔力で貴様らは感知できないのだろうな。」


 そんな中、一人魔王は冷や汗をかいてガタガタ震えていた。流石にまだ悠に怯えているはずはない。先程までは普通に歩いていたはずだ。


「シガール・オウマ、貴様感じることが出来るのか。」

「……はい。」


 魔王は消えてしまいそうな程、細く小さな声でそう答えた。

 そう、以前言った通り、魔王の魔法は魔力操作が肝心になる。そのため、魔力の感知が過敏な目があるのだ。


「極寒の地じゃ、自分の体の感覚がなくなって……存在するのか分からなくなる……それと同じです……自分の魔力を感じないほどの狂った魔力……」


 ウルグは歩くことすらままならない魔王の腕を肩に回して、無理やり歩かせた。


「ならば私の魔力は感じるか?」

「……感じません……」

「それが『格差』だ。」


 その悠の言葉は、今までの「朝霧悠」からは考えられないほど頼りになった。


 だが、それにしてもどこもかしこも異常な雰囲気ばかりだった。街は破壊しつくされ、地面は原型を留めていない。魔王は、「ヴァイレントが暴れてもこうはならないだろう」と思った。


「うわっ!」


 そう叫んでココはその場に転んだ。足場が悪いが、きちんと注意していたはず、ココが振り返ろうとすると、悠が突然「やめておけ」と言った。


「見ない方が良い。」


 だが、ココは見られずには居られなかった。後ろを振り返ると、地面にはココが躓いたであろう“肉塊”が転がっていた。


「っ……ここの保護対象の一部ですか……!?」

「いや、“全て”だ。」


 瞬間、ウルグの脳内には一つの最悪な思考が過ぎった。するとウルグは迷うことなくココの目を手で覆った。


「死んでないのか……!!」

「あぁ。」


 ココは何か異様なことが起こっているのは分かったが、知らないでいた方が良いと思い、そのまま立ち去った。

 何者かの能力なのか、この世界の保護対象は全て生きたまま“肉塊にされている”のだ。そのため、保護対象が生きていてもこの世界は『空世界』として研究班に探知される。


「研究班が世界を探知する機械は私が作ったものだ。「世界そのもの」に宿る魔力を探知した後、「保護対象とビースト」の魔力を探知する。()()()()の保護対象の魔力を探知するのは難しいだろうな。」

「ビーストの魔力はレベルが高すぎて感じ取ることが出来ない……だから空世界と判断されたのか。」


 あの状態では、悠と言えど治癒することは出来ない。感情を表に出さない悠は静かに怒りを感じていた。


────────────────────────


「どれだけ歩いてもビーストが見つからない……それに、『理』の異常も見当がつかないですし……」


 体力がないココと魔王は既にフラフラだった。およそ100キロは走っただろう。だが景色はいずれも荒地ばかり。


「体力を回復させること魔法では出来ない。ウルグ・ハース、貴様の魔法で小さくすることは出来るだろう。」

「人を仕舞うのは時間がかかるほど、魔力が激しく消耗されていく。それに、お前がもし攻撃してきた時に3対1の方が有利だろう。」

「攻撃などするものか。虫ケラが徒党を組もうが興味が湧かない。」


 ウルグは頭にきて怒ろうとしたが、ウルグも疲弊していたので怒る気力すら残っていなかった。


「ウルグさん……じゃあおんぶしてくださいよ!悠様でも良いから!」

「自分で歩け。私に触れてきた瞬間に消し炭にしてやる。」

「じゃあなんか『理』の異常とか予想無いんですか?」


 なにか話していないと気が遠くなってしまう気がして、ココはそう聞いた。すると、悠は少し空を見て考えたのち、口を開いた。


「チャン・チーの世界は覚えているな。」

「?覚えてます。」

「あの世界に……俗に言う『都市伝説』があったのは知っているな?」


 そう、その都市伝説とは「向かった警察が腕だけ帰ってくる」というものだった。


「この世界も同じく、『都市伝説』がある。」


 向かえば人生の終わり、だがその世界に終わりはない。

 地獄が延々と続く世界。その名は……


「『()(くに)』。」


第四十四話 終

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