第三十三話 ラストボス
『登場人物』
【朝霧 悠】
この物語の主人公。世界最強であったが、『世界切断』という事件を経て弱体化してしまった。昔自分にかけた魔法によって数千年という時を生きている。使う武器は『叢雲』で、58364個もの魔法を使用できる。
『叢雲』の魔力を借りる『〆桜』を使用する。
【ウルグ・ハース】
悠の相棒。常に冷静で、表情筋を使ったことないのではないか、という噂がたったことがある。
【ココロ・シンリー】
皆にはココと呼ばれている。異世界警察では珍しい女性の警察官。基本的にピストルを使用して戦う。
【魔王】
悠やウルグ達と同じ特別警官。『創造破壊』の能力の強さで昇格した特例。気弱な性格。
【キル・アストラ】
自己陶酔という言葉が似合う男。悠に勝るナルシストっぷり。一言一言が名言と言われている。
【END】
世界最悪のビースト。悠の全盛期と張り合える程の実力があり、『世界切断』当時からの唯一の生き残り。様々な世界を徘徊している。
【スペード】
四天王こと【獄牌覇王四ノ虚】の1人。魔力操作を得意とする。見た目は子供。
【ダイヤ】
【獄牌覇王四ノ虚】の1人。侍の見た目の老人。
【ハート】
【獄牌覇王四ノ虚】の1人。おかめ面を被っている女。
【クローバー】
【獄牌覇王四ノ虚】の1人。水色の美しい髪に似合わぬほど性格が荒々しい。
『世界の種類』
【純世界】
ビーストがおらず、保護対象だけが存在する平和な世界。異世界警察が出動する必要はない。
【純正世界】
純世界に加え、『理』の異常が存在しない世界。異世界警察署本部があるこの世界のみが発見されている。
【危険世界】
ビーストと保護対象が存在する世界。
【超危険特別処理世界】
ワンク5の世界。パトロール中の特別警官は全員出動する必要がある。
【空世界】
ビーストも保護対象も存在しない世界。数年もしないうちに世界の存在自体が消滅してしまう。
落ちていく───
まだまだ下へ───暗い闇へ───
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ENDは地下深くの『無限牢獄』に捕らえられ、くじらぐもも殲滅され、市民への被害は0に終わった。
MBUの隊長達が脱獄した件は一旦保留とされた。ちなみに、隊長達が捕まっていた地下の牢獄は『無限牢獄』よりも厳重では無かったそうだ。
ENDによる襲撃も終わり、一件落着となったので、悠達は情報共有をすることになった。
最後に集まったウルグはワイングラスの中の氷をカラカラと動かすと、悠が座る高級そうなソファに座り、アストラを睨んだ。
「さて、聞かせてもらおうか、お前のことを。」
「別にボクは何も隠してないし、大して言うこともないさ。特別警官、「キル・アストラ」の名に誓ってね。」
一言一言、常に名言を吐くような言い方をするアストラはなんとなく悠の鼻につくような男だった。というか、全員から「めんどくさいヤツ」という認識をされていた。
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遡ること数時間前。悠が窓を破ってENDと戦い始めた直後、ウルグも向かおうとしたが、突然異世界に向かうエレベーターが開いてアストラが現れた。
「お前……誰だ!?」
「ボクはキル・アストラ。君たちと同じ特別警官だよ。それとも、ボクの伝説を一つ一つ聞きたいかな?」
「な……何なんですかあなた……??」
ココは思わず困惑してそう言ってしまった。ENDが上で暴れそうになっているというのに、何を悠長に話しているのだ。
「多分だけど、君たち3人の力を合わしてもボクには到底及ばないからさ、一旦服従の印に土下座してもらっていい?」
「ふざけてるんですかこの人は……?」
あまりキツイ言葉を使わない魔王ですらそう呟いてしまった。とにかく自意識過剰な男であることだけは伝わってきた。ウルグはキレようとしたが、怒りよりも困惑が勝った。
「ま、とにかく十星に呼ばれてボクがお出まししたんだ。さっさとENDを片付けよう。『時は金なり』だけど、金で時は買えないからね。」
そう言うと、アストラは一人で屋上へゆっくりと登って行ったのだった……
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「で、お前一体誰なんだ。」
「だから、特別警官だって……」
「そういうことじゃない!」
悠がそう言うと、何故か質問された側のアストラが、驚いたかのように目を見開いた。
「悠サン……いや、悠様本当に覚えてないのかい?」
悠は何の話かすら分からなかった。「覚えてない」と言っているが、アストラは初対面かつ、名前を聞いたこともなかった。
「ボクは……悠様が全盛期の頃、あなたの右翼として支えていたんだ、忘れたはずがない!」
アストラは飄々としたあの喋り方も忘れて動揺していた。悠も何も理解できずにいた。そんな時、悠の頭にある可能性がよぎった。
全盛期時代の記憶が無くなっている───
だが、そんなはずは無かった。均衡崩壊以前の事も、大体は覚えている。ましてや右翼となる人物など忘れるはずがない。しかしアストラが嘘をついているようにも見えない。
「どういう事だ……!?確かに特別警官なら名前を小耳に挟んだことくらいはあるけど……」
すると、全員の困惑を破るようにウルグはグラスのワインを飲み干した。
「悠の記憶の話は何を言おうと変わらないだろう。とにかく、お前は何者なんだ。」
「それもそうだね。ボクは何の変哲もない特別警官さ。で、悠クンも聞いたろう。君はこれからMBU隊長なんだ。だからボクがその補佐として……」
「ちょっと待て。そもそもなんで俺がMBUになるんだよ。誰が決めたんだ?」
悠は目を細めるようにアストラを睨んだ。すると、アストラも悠に向かい合う椅子に座って悠を見た。
「そりゃ十星さ。でも、殆どは悠クンを気に入った坂本慎一が手を回したんだけどね。」
「あの人……何をやってんだ……!」
悠は呆れてため息をついた。だが、悠は眉をひそめて何か気になることがあるようだった。
「悠クンとか悠様とか……どっちだよ。」
「ん?君は悠クンだよ。全盛期の君は悠様。それだけの違いだよ。」
「アストラさん、何が言いたいんですか?」
ココは眉をピクッと動かして反応した。アストラは「しつこい」とでも言いたいかのように、少しココを睨んで口を開いた。
「「朝霧 悠」が強かったのは過去だけだよ。過去は過去。今の君に魅力の欠片も感じないね。」
アストラの発言にココは怒り、腰のピストルを抜いてアストラの脳天を狙った。ココはアストラを睨んだが、アストラはニヤニヤと薄気味悪いような笑みを浮かべていた。
「撃ってみなよ。ホラ。」
そう言うとアストラは撃ってほしいかのように両腕を広げた。ココは激昂して引き金を引こうとしたが、何かに気がついたウルグが「やめろ!」と叫んで止めた。
「っ……でも……」
「アストラだったか……お前何をした?」
ウルグはそう言ってアストラを睨んだ。だがアストラは飄々とした笑みを浮かべているだけだった。
ウルグがピストルを誰もいない方向に発砲すると、ピストルは中で爆発し、そのまま壊れた。
「ふふ……良く分かったね。」
「魔力の残滓が微量だが残っていた。なんの魔法だ?」
「信用してないのは君たちだけじゃないんだ。魔法なんて明かすわけがないよ。」
「それもそうだね。」
バチバチなアストラとウルグを穏やかにする為に、悠はそう言った。
「アストラ、お前も情報を言うつもりは無さそうだし、俺はちょっと用事がある場所に行ってくるね。」
「……どうぞ、悠クン。」
すると悠はソファを立ち上がってどこかへ向かっていった。アストラもまた、悠のことを面倒くさいとして認識していたのだった。
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「何の用だ?朝霧 悠。」
その男は地下の階段の歩く音だけで、歩いてくる悠の存在を見事に言い当てた。
「遊びに来てやったんだよ、END。」
とても囚われの身とは思えぬほど、堂々と段差に腰掛ける男は“END”であった。両手に鎖を繋がれ、全身に『魔力封じの刀』を刺されているのに全く囚われているような雰囲気がせず、座る段差は玉座のようだった。
「せいぜい頑張りたまえ、何をしても最早無意味だ。」
ENDのその声が牢獄内に響いた。恐ろしいほど透き通るその声に籠っているのは、怒りでも悲しみでもない、一点の濁りもない純粋な“悪意”であった……
第三十三話 終
最後のENDのイラスト、個人的にお気に入りです。




