第十七話 紫煙
『登場人物』
「朝霧 悠」
この物語の主人公。世界最強であったが、『世界切断』という事件を経て弱体化してしまった。昔自分にかけた魔法によって数千年という時を生きている。使う武器は『叢雲』で、58364個もの魔法を使用できる。
「ウルグ・ハース」
悠の相棒。常に冷静で、表情筋を使ったことないのではないか、という噂がたったことがある。
「ココロ・シンリー」
皆にはココと呼ばれている。異世界警察では珍しい女性の警察官。基本的にピストルを使用して戦う。
「魔王」
悠やウルグ達と同じ特別警官。『創造破壊』の能力の強さで昇格した特例。気弱な性格。
悠が叢雲の『紅蓮』を強めると、おとろしは思わずその熱に手を離してしまった。触れることは出来ず、物理攻撃は効かないものの、魔法による攻撃が効かないわけではなさそうだ。
「とはいえ近距離に持ち込んだら勝ち目がないな……」
力比べならおとろしに勝つことはほぼ不可能だろう。単純な腕力に上乗せして妖力で畳み掛けてくる。
ピストルで応戦したい所だが、悠は拳銃が下手なので使うことが出来ない。それに、そもそも森の中でピストルなど障害物が多すぎる。
「ココ、『反発』は?」
「これだけ障害物があると、何処に飛んでいくか予想がつきません。撃っても恐らく変な方向に行ってしまいます。というか、そもそもピストルも物理攻撃なので効かないと思います。」
悠も、ウルグも、ココも何も出来ない状態。最早手段は一つしかなかった。瞬間、三人は同時に魔王の方を向いた。
「……え、僕ですか……?」
そんな話をしている間、おとろしは何もしてこなかった。プリキュアの変身のように待ってくれていたはずはない。何をしているのか、視界に入れた瞬間に悠は目を逸らした。
おとろしはがごぜの魂を喰らっていたのだ。それはあまりにもグロテスクな光景で、気色が悪いという言葉では済まないほどだった。だが、時間が経てば経つほどにおとろしはがごぜの魂を吸収していき、妖力は強まる一方だった。このままではまずい。それを分かっているからこそ、魔王に頼るしかなかった。
「なんかないのかよ!ロケットランチャーみたいなの!」
「そ……そんなこと言われても見たいことがないですし……」
「かといって物理攻撃系のものじゃ意味が無いからな……」
火炎放射器でも使用したいところだが、森が火事になるのが関の山だろう。なにか作って効果がありそうなものは……
「俺達があいつに触れられないように、あいつも俺達に触れられない。その代わり、魂を介して触れられ、更に『不死』の理を突破して俺達を死んだ状態にできる。なら、俺達も魂を通してなら攻撃が可能と考えるのが自然だろう。」
「つまり……どういうことですか?」
理解できていなさそうなココはそう聞いた。すると、ウルグは呆れて、要点だけをまとめて話した。
「つまり、魂を攻撃するってことだ。そう考えると……『塩』なんかが有効じゃないか。」
「塩?除霊的な意味でってことか。」
「えと……魔王さん、『塩』は作れますか?」
「塩くらいなら……」
すると、タイミングが良いのか悪いのか、おとろしはがごぜの魂を完食して起き上がった。ウルグは魔王の目を見て、アイコンタクトで「頼んだ」と何となく示し、おとろしに突っ込んでいった。
ミスばかりするような魔王でも、これくらいは分かった。ウルグは隙を作りその間に、魔王に塩を飛ばさせようとしているのだ。
〖ぐぉおぉおおおぉッ!!!!〗
おとろしは言葉に出来ないような奇妙な叫び声を上げてウルグに突撃していった。ウルグは瞬間、ポケットの中から縮められた黒い袋を取り出してそれを広げた。
すると、中からは大量の水が吹き出し、おとろしに直撃した。何の効果も無いものの、おとろしは一瞬怯んだ。
最高の隙。絶好のチャンスが魔王に舞い降りた。魔王はおとろしに向かって走り出して、構えた。
「『創造破壊』!!!」
瞬間、魔力は爆発するように魔王の手のひらに集まり、手のひらから塩が放出された。極小量の塩が。
パラパラッと降りかかった塩を嘲笑うかのようにおとろしは無視して、ウルグの腹に一撃をぶち込んだ。
「ぅっ……!!!」
そのままウルグは吹き飛ばされ、岩肌に直撃して戦闘不能の状態になってしまった。
「くそっ……!」と悠は呟いて、おとろしの事を叢雲の鞘で攻撃した。おとろしは吹き飛ばされ、木に激突して、その木は倒れてしまった。
「はぁ……はぁ……ウルグ!!」
「問題ない……魔力でガードしたから致命傷にはなってない。」
「あぁ……また僕が……足でまといにしかならない……それぐらいなら……」
またそんなことを言っている魔王に悠は近づいて、胸ぐらを掴んだ。
「お前のそういう態度が魔法にも出てるんだよ!!そうやってマイナス思考をするから、魔力の消費が激しくなるんだろ!!」
溜まっていた怒りを悠が吐き出すと、魔王は何も言えずにいた。
「強くあらなきゃってプレッシャーに押しつぶされてんのか知らないけど、そりゃお前は弱いからだろ!!強くある必要はねぇよ、自分を愛せ!!自分を大切に出来ない奴が、市民のこと大切にして守れるわけねぇだろ!!」
そう言うと悠はため息をついて魔王の服を離した。悠は怒りを抑えておとろしに向かっていった。そして振り向くと、魔王に向かって話した。
「お前、強くあらなきゃなのは力じゃなくて心だよ。」
そう言って悠はおとろしに向かっていった。一方の魔王はというと立ち上がって、悠に着いて行った。
「……無理に戦わなくてもいいんだぞ。」
「ウルグさんの分の働きくらいはしないと……ここに来た意味がありません!」
魔王は何かが変わったのか、そうはっきり言い切った。するとおとろしは起き上がって悠に飛びかかってきた。だが悠は動じずに、叢雲をおとろしに向けて、息をふーっと吐いた。
「『紫煙』」
瞬間、悠の姿は誰にも見えなくなった。気がついた時には、悠はおとろしの背後に立っており、おとろしの魂は真っ二つに切り裂かれていた。
「覚えとけ、踏んだり蹴ったりの失敗も玄人にとっちゃ一級品なんだよ。」
第十七話 終
ストーリーとは全く関係ないですし、全然僕の話じゃないですけど、魔王みたいなキャラがいる創作物ってその作者が叩かれがちですよね。なんでやねん。




