第十六話 魔王
悠達一行は、暗闇を進んでいるうちにいつの間にか森に入ってしまっていた。
「俺の運が悪いのか……妖怪のいる世界は常に暗いんだな。たまたま夜に来ちゃってるのか……」
「恐らく妖力で俺たちの視界が壊れているんだろう。魔力を目だけに集中させると、少し明るく見える。」
悠が早速実践してみると、一瞬朝のように明るくなった気がしたが、一秒経たないうちに元に戻ってしまった。
「この暗くなってるのは妖力の影響か……」
「!静かにしてください……」
ココはそう言って話す悠を止めた。ココは地面に目を向けると、じっと地面を見つめた。
「魔力の残滓……何者かがいます……」
そう話している途中に、森の中を何かがガサガサ走り回る音が聞こえてきた。
「完全にこっちの事を意識してる……一人……二人……三人……いや、そんな数じゃない!!!大軍だ!!!」
「落ち着け悠!」
焦る悠をウルグは止め、三人ともその場に留まった。警戒していると、森の中からこちらに向かってきたのは人間ではなく、ネズミの群れであった。
「なんだ、ネズミだったんですね。」
そう言った瞬間、タイミング良く上空から何者かが降ってきて、ココの首の肉を「ズパッ」と斬った。
「ココ!!!」
「へっ……ぎゃぁぁぁぁ!!!!」
悠には何が起きているのか理解できなかった。突然、ココを斬った男は目を見開いて叫び始めたのだ。
そのまま困惑して、ウルグも「??」という表情で見ていると、男は「またやっちゃった……!!」などとブツブツなにか話し始めた。そんなことをしている間にココは『不死』の理で復活し、男の首を掴んだ。
「あなた……この世界に来てる特別警官じゃないですか!名前は!!」
暗闇の中なので近づいてみると、悠やウルグ、ココと同じ警察の服を着ていた。警察の帽子の下から見える単発の赤毛が暗闇の中で目立っていた。
そんな男にぐんぐんココは詰め寄っていくので、ウルグが流石に可哀想になったのか、一旦二人を引き剥がした。すると、男はビビりながら話し始めた。
「ぼ……僕の名前は『シガール・オウマ』です……『魔王』って言えば知ってるかも……」
「『魔王』……!?」
悠はピクッと反応して少しオウマ、魔王から距離をとった。そして警戒して叢雲を鞘から少し抜き出した。
「『魔法の強さ故、フイジカル一切関係なしに特別警官に入れられたという、異例の警官』……一時期話題になってたあいつか!」
「そ……そんなすごいものじゃないです!今だってこうやって間違えちゃって……周りの人達に追いつけなくて……」
「実際、魔法はどんなものなんだ。」
ウルグがそう聞くと、魔王は「大したことないんですけど……」などと謙遜をしてから説明をし始めた。
「『創造破壊』っていう魔法で、見た事あるものを作り出すことが出来ます。作るものの大きさによって魔力の消費量が変わります……だから、あんまり大きい物は作れないかも……あと、小さいものでもめちゃくちゃ魔力を消費するし……小さくても、記憶があんまり無いものだと魔力を多く使います……うぅ……やっぱり僕は……」
そう言ってまた魔王はブツブツと自分を責め始めた。魔王という名前に全くあっていないと思いつつも、三人は何も言わずにいておいた。
「とにかく進もう。」
「そ……そういえばあっちの方に神社がありました。そこにビーストがいるかも……」
「お前もビーストとなる妖怪が一人いると思っているんだな?」
「はい……」
何を言うにも自信なさげにボソボソ言うだけで、自己肯定感が低いらしい。
「向かおう。とにかく戦うしかない。」
全員で森の中を注意して進んでいくと、魔王の言う通り神社が現れた。先程からどこを見ても暗闇だったので、明かりがあったのは嬉しかった。
「見……見てください……神社のしまってる扉……明らかに異様なオーラが……」
そう言ってビビりつつ魔王は近づいていってしまった。そのあまりに強大すぎるオーラに、集中していなかったのかもしれない。神社の屋根から突然魔王に向かって妖怪が飛んできたのに、魔王は気がつくことが出来なかった。
「魔王!避けろ!」
悠がそう叫んだのも虚しく、魔王はその妖怪に腕を噛まれて、倒れそうになった。
「うっ……うわぁぁぁぁっ!!!」
「まずい……魂ごと食べられてる!」
あの妖怪は「がごぜ」。人喰い鬼の一種で、骨をも噛み砕くと言われている。あのまま食べさせていれば、魔王の腕は噛みちぎられてしまう。三人が同時に止めに走った。
魔王はそのまま『がごぜ』に押し倒され、神社の狛犬に勢いよくぶつかった。
「あ」
その一言が神社に響き渡った。瞬間、狛犬の石像は倒れて地面にぶつかり、粉々になってしまった。
「逃げろぉっ!!!!!!!」
瞬間に顔を青ざめさせて悠はそう叫んだ。言われなくても全員がそうした。なぜなら、辺り一帯の森がざわめくほどの気味の悪いオーラが一瞬の内に湧き上がったからだ。
神社の鳥居から湧き上がる妖力。思わず悠は見上げてしまった。
そこに居たのは、「気味の悪い」という言葉が完璧に似合う妖怪だった。長髪が顔を隠し、鳥居に捕まるその姿は恐怖そのもののようだった。
「『おとろし』……」
瞬間、おとろしは魔王に襲いかかった。目にも止まらぬ早さ、だが悠がひと足早く走り出し、魔王が襲われる前におとろしの事を『がごぜ』ごと蹴り飛ばした。おとろしはそのまま森に吹き飛ばされ、木にぶつかった。叢雲を持っているだけでも、妖怪に触れられるようだ。
「あぁ……またやっちゃった……!!!やっぱり僕は警察なんか……魔法も使えなかった……」
魔王の感嘆に付き合っている暇もないので、さっさと叢雲を抜いておとろしに追撃しに行った。
「『紅蓮』」
今使える攻撃魔法を考えたところ、これが最も強力であった。『紅蓮』。ただの炎ではない。鎮火不能の炎。常人が使えば『焔』という魔法になってしまうのだが、ナルシストな悠だからこそ、その自信で魔法が強化されたのだ。
紅蓮を刀に纏わせて、おとろしに切りかかると、おとろしは叢雲を片腕で軽く止めると、悠の腹に妖力を直撃させた。
「悠!!!」
「叢雲だけは……離さねぇよ!!」
吹き飛ばされそうになったが、叢雲をおとろしが掴んでくれていたのが逆に良かった。
「反撃開始だよ!!」
そう言って悠はもう一度『紅蓮』の火力を高めた。これが反撃開始の合図となったのだった。
第十六話 終
「魔王」は僕の前作(悪役にだって勝ちはある!)のゲストキャラみたいな感じです。ちなみに「ウルグ・ハース」も他の前作(こちらは廃棄物回収業者です ~ご家庭で不要になりました貴族、大王の処分をしております~)の主人公です。別に同一人物ではなくて、平行世界のキャラみたいな感じです。




