第十四話 〖均衡崩壊〗弐
襲いかかってくる妖怪達を離れさせようと、大量の魔法を放ち、とにかく冷静になろうとするが、魔法は妖怪に触れることなく、全てが透けてどこかへ行ってしまう。その度に悠は焦って更に意味の無い魔法を連発するのだった。
走って逃げる悠を一瞬の内に捉え、土蜘蛛は尻から糸を発射して、悠の足に絡ませた。そして自身の8本の足で糸を伝って高速で悠に向かってきた。
「来るな!!!!」
悠はそう叫び、『爆弾魔』の能力を発動した。『爆発』の二段階ほど上の能力で、超巨大な爆発を連発で起こす。
糸は物体なので爆発させることが出来たものの、土蜘蛛には一切のダメージを与えられなかった。また逃げだした悠を追って、今度は妖狐が走ってきた。
魔力、妖怪で言うところの妖力を飛ばして、波動のようなものを発射してきた。いつものように冷静なら簡単に避けられた攻撃もその時は背中に直撃して、地面に突っ伏した。
そんな時、目の前に何か巨大な生物の足が現れた。「なんだこれ……」と思わず絶望して見上げると、その生物は巨大な僧侶のような姿だった。
見上げれば見上げるほど大きくなっていくようで……いや、違う。本当に大きくなっている。ぐんぐん大きくなっていき、ついには雲に頭が着くほどになっていた。
「や……やめろ!!!!」
その僧侶のような妖怪は一歩を踏み出して、悠の事を踏み潰しそうになった。踏み潰されれば、文字通り跡形もなくなって骨すら残らない。何か対策があったはずだ。頭をフルに回転させてとにかく考えた。
「見越した!!!見越した!!!」
そう悠が叫ぶと、その僧侶は悠を踏み潰す寸前で停止し、暗闇に消えていった。「見越した」、「見抜いた」などと叫ぶと居なくなる、「見越し入道」という妖怪だったのだ。あと数秒遅れていれば、悠の姿は無くなっていただろう。
一安心している間に目の前には『百目』が立ちはだかっていた。
「くるな……!」
そう叫ぶ悠のことなど気にしないように、百目は悠の腹を蹴って吹き飛ばした。肋骨が「ミシミシッ」と音を立てて折れたのがわかった。
「ぁっ……」
声にならない叫び声を上げて、悠は森の中に吹き飛ばされた。森の中は暗すぎて数メートル先も見ることが出来ない程だった。
それよりも悠は回復魔法を使う事に必死だった。肺が潰され、呼吸ができない程の状態だった。そんな時、追い討ちをかけるかのように森の四方八方から何かの足音が聞こえてきた。
もう抵抗出来るほどの魔力は残っていない。近くの木を掴んで、体を起こしてその場に座った。
「餓者髑髏……」
〖諦めたのか……〗
その時ようやく悠は冷静になることが出来た。餓者髑髏のみ会話が可能である。なら、会話を試みよう、そう思った瞬間にその願いは叶わないことが確定した。
〖頂きます。〗
そう餓者髑髏が呟いた瞬間に、悠の魂は餓者髑髏に吸い取られていった。
「ぁ……」
どんどん魂が食べられていく。魂、と言うよりも魔法そのものが食べられているような感覚だった。思考は完全に停止し、体を動かすことなど不可能だった。
そんな時、餓者髑髏の背後から複数人の人間が魔法で妖怪達を退けながら向かってきた。異変に気がついた餓者髑髏達はすぐさま森の暗闇に消えていった。
妖怪達をなぎ倒して現れたのは、数少ない異世界警察のメンバーであった。悠が戻ってこない事に違和感を感じて手助けに来たのだ。
「悠!しっかりしろ!」
「……」
悠は虚ろな目でどこかを見たまま応答する様子が無かった。そして、悠が応答するのは実にこの数年後となる。
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「う……ここは……」
「え……悠!!起きたのか!?」
悠が目を覚ますと、目の前には見慣れた仲間の異世界警察官がいた。その仲間は、他の仲間を急いで呼んでくると、全員が泣いて喜んでいた。
だが、悠は不思議な感覚であった。記憶は全てあり、全て覚えている。なのに、自分が朝霧悠ではない気がしてならないのだ。
「一旦医師を呼んでくるからな。まだ寝て待っとけ。」
悠からすれば、少し眠っていた程度の感覚だった。だから、仲間が全員少し老けている事に驚いた。それに、服装も全く違い、前まではそれぞれがそれぞれの好みの服を着ていたのに、今では全員が同じ警察のような装いをしている。
医師によって体の隅々まで検査をされた結果、医師は信じられないことを告げた。
「今の悠様を仮に「Y」様として説明をします。Y様は……言うなら、悠様から漏れだした力を受け取った器というのが正しいでしょう。悠様はあまりの力の大きさに、悠様自身の器に力を収めきれなかった。その溢れ出した力を収めていた器が今のY様なのです。つまり、Y様と悠様は、記憶を共にする別の人格なわけです。」
そう、つまり現在世間で知れている朝霧 悠は、本当の「朝霧 悠」ではないのだ。
第十四話 終
虎杖悠仁とは言わないでください。図星です。




