第十三話 〖均衡崩壊〗壱
〖屑が〗
頭の中で声が鳴り響く。
うるさい、黙れ。そう叫びながら逃げ惑う。これが世界を救った者の姿なのだ。
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数時間前……
世界切断直後、ENDが『サン』を復活させようとしたのを悠が阻止した後の話である。
まだこの時は悠を中心とした複数人の強大な戦士のみで『異世界警察』は運営されていた。なので、悠は自身のイカれている魔法の一つ、『探知』で自力で探知した危険世界にワープし、一つ一つ問題を解決していた。
だが、その日だけは少し違った。探知した危険世界のビーストは、まるでこちらが探知したことに気がついたように、魔力を消したのだ。
魔力操作が出来るとなると、相当の手練。放置する訳にもいかず、直ぐに悠は世界に飛んだ。
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「気味の悪い場所だ。私程の男には合わないな。」
ナルシストなのは今も昔も変わることは無い。
悠が周りを見渡して歩いていると、夜の暗闇の中で、光のついている電柱が立ち並ぶ通りに出た。
「文明は……ある程度はあるようだ。」
「た……助けて……」
電柱の通りを歩いていると、電柱の光の元で、布団にうずくまっている姉弟を見つけた。何があったのか、悠は聞くこともなく叢雲を取り出し、二人の体を真っ二つに切断した。
「その程度の「化け」で私を騙せると思うな。」
瞬間、その姉弟は「どろんっ!!」と音を立てて煙を出した。煙の中からは、切り裂かれた猫の姿が出てきたのだった。
「化け猫……『猫又』か。妖怪の類……」
何やら先程から感じている不気味な感覚は、何かのオーラというより、この妖怪たち全体の独特の雰囲気らしい。そうと分かれば恐れることなく、悠は突き進んだ。今更妖怪などに怖がりはしない。
その後も鬼や口裂け女など、よく知る妖怪から、見たこともないような妖怪までが襲いかかってきたが、難なく討伐した。
「大したことは無さそうだな……」
そう言った途端、辺り一帯の空気が一瞬で変わった。悠の全身の毛は逆立ち、背筋は凍てつくかのような恐怖。瞬間に確信した。魔力を消した例の手練のオーラはこれだと。
叢雲を握り直し、辺りを見渡した。暗闇で何処にも何もいない。思わず安心してしまったが、この後悠は後悔することになる。そう、何もいないのが問題なのだ。
そのまま歩いて行くと、突然辺りに浮かぶ炎が一つ、二つ、三つ……数え切れないほどの数の炎が浮かび始めた。
「『陰火』……上等だ……!来るなら来てみろ……!」
『陰火』。妖怪が出る直前に現れる炎。これほどの数が出てくる時点で悠は引き返すべきだったのだ。最も、引き返せるはずはないのだが。
進んでいくとどんどん陰火が増えていった。それと共に心臓の鼓動も早くなっていき、何度も立ち止まりそうになったが、挑発されているように感じた悠はどんどんと進んでしまった。
瞬間、「フゥッ」という音と共に、陰火が全て同時に消えた。その時初めて悠は気がついた。ここは人間の来ていい場所ではないと。全身の感覚は重く乗ってくるようなのに、神経が麻痺しているようで、全て感じるようで何も感じられない。
本能が上だけは見るなと、脳に直接叫んできた。周りを見ただけでも、大天狗、ぬらりひょん、土蜘蛛、山本五郎左衛門……と、名の知れた恐怖の象徴のような妖怪が並んでいる。
好奇心……いや、おそらく違う。恐怖から悠は上を見上げてしまった。その瞬間だった。自分の魂がどこにあるのか分からなくなった。それは恐怖とはまた違う、気持ちの悪い感情だった。
〖朝霧 悠……美味そうな魂だ……〗
骸骨……いや違う。そんな優しいものではなかった。とにかくその魔力が気持ち悪かった。まるで「死」そのものかのような魔力だったのだ。
〖餓者髑髏〗。埋葬されなかった死者の魂や怨念が集まり、骸骨になった姿。そういえばこの街には何も無かった。そう、保護対象の一般人すらも。
この街の市民全員がこの餓者髑髏になったとすれば。それが実現出来るほどの大量の妖怪たち……
「た……助けて!!死にたくない!!お願い!!」
思考を遮って、餓者髑髏の奥から声が聞こえてきた。腕や足を妖怪に食べられたのか、原型を留めていないような市民が二人倒れた状態で上半身だけを起こしてこちらに助けを求めてきた。
助けなければという理性に反して、本能が「今すぐ逃げろ」と叫んでいる。鼓動が早くなり呼吸が荒くなる。無意識の内に悠は後ろを向いて逃げ出していた。
〖屑が〗
頭の中で声が鳴り響く。
うるさい、黙れ。そう叫びながら逃げ惑う。これが世界を救った者の姿なのだ─────
第十三話 終
妖怪書くのめちゃくちゃ楽しいです。是非調べてみてください。やっぱり日本人には日本の物があってるのかもですね。




