第百一話 兄弟じゃないのに
「『|暗い日曜日《Gloomy Sunday》』」
凜奈は横笛を演奏した。が、囂叫應異魂に耳がついているのか、その有無関係なく、とにかく囂叫應異魂にこの技は通用しなかった。
この術が通用しなければ、殆ど凜奈に勝てる術はない。凜奈にあるのはこの技と、人よりは上回っている身体能力程度。しかし、囂叫應異魂に対抗できるかと言えば当然不可能である。
囂叫應異魂の轟音で圭太は目を覚ました。
「凜奈。目つぶってろ。」
「えぇっ……」
いつにない荒い言い方だったので、凜奈は驚いたが、大人しく目を閉じた。
「『月欠』」
瞬間、目を閉じていても分かるほどの光に当たりは包まれた。凜奈が圭太を抱えていたはずが、気がつけば圭太が凜奈を抱えて、右手には炎の刀を持っていた。
ひと振りすると、一気に炎の斬撃が飛び、囂叫應異魂の体は次々に真っ二つになっていった。
〖菊池圭太ァッ!!〗
土星は圭太の名を叫ぶと、眼光を輝かし、目に火柱を立てた。
「凜奈、待っててくれるか。今行ってくる。」
圭太はそう言うと、月欠を握って土星に大きく振りかぶって切りかかった。
月欠は間に入ってきた囂叫應異魂に阻まれたが、勢いを止めることはなかった。圭太は阻んだ囂叫應異魂を踏み台にして、飛び上がって切りかかった。
が、囂叫應異魂の遺体のせいで視界が遮られており、その隙を突かれた。
土星は口で技を溜めて、『レーザー』としてそれを一気に放った。圭太の体は吹き飛ばされ、壁に激突した。
「お兄ちゃん!!」
「まだ……大丈夫……!」
そう言って圭太は立ち上がろうとしたが、片足に力が入らず、バランスを崩して膝から崩れ落ちて転倒した。
土星はその隙を見逃さず、確実に仕留めるために攻撃を溜め始めた。
「凜奈……逃げろ……!!」
「お兄ちゃん、耳を塞いで。」
Gloomy Sundayが、土星にも囂叫應異魂にも効果が無いことは先程分かったはず。だが、緊急事態。藁にもすがる思いと言う訳では無いが、凜奈に助けを求める気持ちで耳を塞いだ。
「『魔王』」
凜奈はそう唱えると同時に、横笛に一気に息を吹き込んだ。指の動きは、一本一本が跳ねるように動き、細かい動きで音を響かせた。
『魔王』。作曲はフランツ・シューベルト。馬を走らせる父と、その息子が魔王に襲われる物語。見えない魔王に息子は襲われ、気がついた時には命の灯火は……
凜奈の魔王は、辺り一帯に響き渡った。凜奈の術は、耳に聞こえることが絶対条件だが、距離が遠かったり、ほんの少し聞こえる程度では効果がない。
基地内にも、外にも響き渡ったその音楽は、全ての人間に届いた。激しく、恐怖の音楽。だが、それが兵の力を駆り立てた。
〖なんだ……貴様。〗
瞬間、森はざわめき始め、空は暗くなってきた。しかし、土星は大きく表に出すほど動揺することは無かった。
十星であり、餓者髑髏。妖怪が怨霊や幽霊的な物に畏怖するはずが無い。土星は嘲笑するように鼻で笑った。
が、その時突然土星の耳には低く細い女の声が聞こえてきた。
『貴方が居るんだから呪いもあるのよ。』
空耳か、幻か。だが、土星の意識下では確実にその声は聞こえた気がした。
妖怪という存在がいれば、怨霊も呪いもあっておかしくない。それが、自身の力を破ってくるほどの効果があれば。土星はゾッとしてしまった。それが命取りだった。
魔王の演奏は次第に荒々しくなっていき、土星は心臓が揺さぶられるような衝撃を覚えた。
瞬間、突然大雨が降り始めて、土星の全身を雨が打ち始めた。
〖はぁっ……はぁっ……〗
妖怪であるはずの土星は、いつの間にか「有り得ないはずの存在」に恐怖して、息が上がっていた。
だが、凜奈の演奏は突然停止し、当たりは静まり返った。
「あぁ。凜奈良かったよ。」
圭太は目を開くと、月欠を右手でしっかりと握りしめ、大きく振りかぶった。片目ずつ違う色の眼光は土星の心を睨んだ。
「『破壊の焔』!!」
月欠の先から放たれた破壊の焔は、雨に打たれて火が消えないように、土星にぶつかる、その一瞬だけ最大火力を放出して土星の肉体を真っ二つにした。
「ようやく……終わりだ……!!」
同時に雨は止み、圭太はその場に倒れた。凜奈が駆け寄ると、圭太はぐっすり眠っている様子だった。
凜奈はパーカーのボタンを押すと、さっそく連絡をした。
『こちら菊池圭太と橋本凜奈、土星との戦闘に勝利……』
切った。切断面がくっつくことは無いし、確実な手応えはあった。いくら餓者髑髏の怪物でも、体が真っ二つになれば肉体を保つのは不可能なはず。
だが、切断面からは、1人の人間が現れた。いや、それは人間ではない。
服は身にまとっていなかった。だが、そんなことはどうでも良かった。頭部だけが土星の骸骨。おぞましい見た目に凜奈は言葉に詰まってしまった。
〖兄弟じゃないのに仲良いんダネ!!〗
機械音にも似た、不快音で土星は言った。凜奈は目を見開いた。そこにある感情はなんの曇りもない、「怒り」ただひとつだった。
第百一話 終
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