放課後の旧校舎
昼間の学園は、いつもと変わらない活気と喧騒に包まれている。しかし一度夜の帳が下りれば、その華やかさは嘘のように霧散し、不気味な静寂が校舎を覆う。
そんな相反する二つの顔を持つ学園で、主人公が辿り着いたのは「旧校舎」──立ち入り禁止の貼り紙や埃まみれの廊下、そして血と呪いを連想させる赤い文字。
普通なら遠ざかるはずの場所へ、主人公は“あの人”との契りという後戻りできぬ思いを胸に、歩を進めていく。
果たして、この廃れた和室に散りばめられた奇怪な道具は何を意味するのか。ここで見つかる“秘密”は、愛か呪いか、それとも深い闇への入り口なのか──。
翌日、いつも通り昼間の学校が始まった。廊下も教室も人であふれ、昨夜の不気味さなど幻だったかのように感じられる。ただ、私の中では依然として、あの人の囁きが頭を離れない。
昼間のうちに何事もなく授業を終え、放課後になると周囲のクラスメイトたちは部活や寄り道の話で盛り上がっていた。私は一人、鞄を抱えて校舎の奥へ向かう。あの人との“契り”に関わる鍵が、旧校舎にあると聞いたからだ。
旧校舎は使われなくなって久しいらしい。もともと学園創立当初から建っている木造の建物で、耐震基準を満たさないだとか、安全性の問題だとかで立ち入り禁止になっている。しかし生徒の間では、あの旧校舎に「秘密の部室」や「謎の資料室」があるという噂が絶えなかった。
立ち入り禁止のはずの旧校舎。しかし、どういうわけか扉は完全には施錠されておらず、ひょいと押すだけで中に入れてしまう。埃っぽい匂いが鼻を刺し、薄暗い廊下には張り紙が飛び交っていた。そこにはどこかのおどけた落書きとともに、「この先危険」「儀式禁止」と赤字で大きく書かれている。
「……儀式、禁止?」
思わず呟く。詳しく知っているわけではないが、あの人の言葉を思い出すと不吉なイメージが膨らむ。まさかここでやるのだろうか。夜に行われるという“契り”。
廊下を奥へ進むと、ほとんどの教室は机や椅子が散乱し、黒板には意味不明の文字が残っている。中には踏み入りたくない雰囲気の教室もあった。窓ガラスが割れ、剥き出しの木枠から冷たい風が吹き込んでくる。まるで廃墟だ。
すると、ふっと足元を小さな白い物体が横切った。ネズミかと思ったが、よく見ると花びらのようにも見える。昨日、校庭に落ちていた花びらと同じ……桜? それがなぜこんな旧校舎の廊下に?
追いかけるように奥へ進むと、正面に古びた扉が現れた。扉には古い張り紙が重ね貼りされ、真っ赤なインクで「立入厳禁」「血の契約」と書かれている。動悸が激しくなる。思わず手のひらの汗を拭い、扉に手をかけた。
――カタン。
予想以上にあっさり開くと、その奥は小さな和室だった。畳はところどころ剥がれ、天井からは何かの装飾がぶら下がっている。部屋の中央には丸テーブルのようなものがあり、その上に無数の紙片が散らばっていた。
近づいてみると、それは血文字のような赤いインクで書かれたメモやノートの切れ端だった。「愛と呪い」「心臓を捧ぐ」「夜の桜」といった不穏なフレーズが目に飛び込む。私の胸がざわつく。この学園には、想像以上に恐ろしい秘密があるのかもしれない。
ふと視線を上げると、ぶら下がった装飾はお守りのような紙片やロウソクの欠片、それに紐で結ばれた植物の根……いずれも奇怪なもので、まるで儀式の道具のようだ。やはりここは“契り”の舞台なのだろうか。
私は寒気を覚えつつも、どうしても目が離せない。あの人との約束、それがたとえ禁忌だとしても、私は知りたいのだ。この場所こそ、私が探す答えに繋がるように思えた。
白昼の喧騒と、夜毎に現れる不気味な噂。まるで二重のベールをまとった学園という舞台で、主人公は儀式の真相に近づいていきます。
旧校舎の和室で見つけた血文字のメモや奇妙な装飾は、不穏な秘密を物語る鍵にすぎません。
“あの人”との約束が、果たしてどんな形で主人公の運命を変えていくのか。桜の花びらが場違いなほどに舞う空間で、次に目にするのは救いか、それともさらなる闇への扉か。
ここから先は、契りに導かれるように深まる謎と狂気の先を、どうぞご自身の想像で覗いてみてください。