歪んだ最終儀式
この夜、闇に包まれた学園の桜の木の下で、主人公は“契り”の終着点へと歩を進る。
あの人の求めるものが血だけでなく、心臓そのものだと気づきながらも、突き動かされるように行動してしまう。
危険だとわかっていても、想いが止まらない──愛と狂気が交錯する一瞬が、夜の闇と桜の花びらに彩られていく。
この儀式は救済か破滅か。優しくも冷たいあの人の声が、主人公の運命をひそやかに決定づけていく。
その瞬間、あの人と主人公の絆が、永遠とも呼べる深い暗闇に繋がってしまうのかもしれない。
深夜。私はあの人とともに、桜の木の下にいた。月は雲に隠れ、学校全体が闇に包まれている。遠くで風に軋む校舎の音が聞こえるだけで、人の気配はない。こんな時間に敷地内へ忍び込む自分に呆れつつも、後戻りはできない。
あの人は桜の幹にそっと触れる。その指先から、ほんの少し血が滴ったように見えた。桜の木が呼応するかのように花びらを揺らし、まるで月の光でもない不思議な淡い光を放つ。
「あなたを手に入れたい。……それが歪んだ願いだとしても」
あの人の声が耳に焼き付く。私は震える手で、あの人の肩に触れた。契りに必要なのは血だけじゃない。もしかすると、心臓そのものを捧げるのか……そんな恐ろしい想像が頭をかすめる。
「もうやめよう。こんなことしても、救われないよ」
止めようとする気持ちもある。けれど同時に、あの人に求められるなら何でもしてしまいそうな自分がいる。感情がぐちゃぐちゃに絡み合い、訳がわからなくなる。
あの人は私の背をそっと押し、桜の木の幹へと近づける。ふいにナイフの鈍い光が月明かりに反射し、私の胸のあたりへ向けられた。
「心臓を捧げる……そうしないと、契りは完成しない。わかってるんだろ?」
瞳の奥に狂気を宿したあの人。私は後ずさるが、背後は桜の幹で退路がない。花びらが嵐のように舞い散り、視界を塞ぐ。
「でも……あなたがそれを望むなら……」
声が震える。けれど、拒絶できない。まるで操られるように、私はあの人のナイフを受け入れようとしてしまう。熱と寒さが同時に押し寄せ、頭が真っ白になる。
暗闇の中で舞う花びらと、ナイフを向けられた胸に実感する恐怖と興奮。
夜の学校という非日常の舞台で芽生えた背徳的な愛は、ついに最も危うい形で頂点を迎えようとしています。
ここまでの道のりで、儀式に取り憑かれた者たちの執着や狂気は、すでに引き返せないところまで主人公を巻き込んでいました。
あの人のためなら何でも捧げられるという想いは、果たして歪んだ愛の成就か、あるいは別の何かを生むのか。
この先の展開は、まるで嵐のように激しく吹き荒れる花びらと共に、二人をさらなる深みへ誘っていくことでしょう。