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深夜の校庭に舞う花

この物語は、静寂に満ちた夜の学校を舞台にした、ある種の“儀式”にまつわる断章。

昼間は当たり前のように生徒が往来し、部活動の声が響く学園。しかし闇が降りてからの様相はまるで別世界。

桜の花びらが舞う中庭、旧校舎にまつわる噂、深夜に囁かれる不吉な言葉——。

ごく普通の学生生活の裏側で、何か得体の知れないものが動き出している。

そんな違和感に惹かれ、誰もが踏み込むべきではない領域へ足を踏み入れてしまった主人公。

その行き着く先は、愛か狂気か、それとも儀式の果てか。

ページをめくるたび、夜の静寂の向こう側にある秘密が、そっと幕を開けていく。

 校舎の窓には、かすかな月明かりが射していた。薄暗い廊下を抜け、私は人気のない中庭へと足を踏み出す。深夜の学校に残るなど、普通ならあり得ない。だが今夜はなぜか、どうしても“あの人”に会わなければと思ったのだ。


 足元には、夜風にかすかに揺れる落ち葉と白い花びらが散乱している。この学校のシンボルである桜の木は、既に季節外れの花びらをまとっていた。冬だというのに桜が散るとは……どこかこの空間自体が歪んでいる。


 私が通うのは私立・月影(つきかげ)学園。入学してからまだ数か月しか経っていないが、この学園には得体の知れない噂が絶えない。曰く、「裏庭にある旧校舎では奇妙な儀式が行われている」とか、「深夜の校庭で“誰か”の囁きが聞こえる」とか。どれも都市伝説のようなものばかりだ。


 しかし、まさか私がその噂に巻き込まれるとは思わなかった。あの日、あの人と出会った瞬間から……。


 校庭の隅には背の高い塀があり、外の街灯の光がわずかに差し込んでいる。そこに一瞬、人影を見た気がした。心臓が高鳴る。暗闇の中で見えるシルエット──あれはきっと、私が追い求める存在だ。だが、声をかけようとした瞬間、影はすっと塀の向こうへ消えていった。


 「待って……!」


 思わず小さく声を上げる。だがその声は闇に溶け、誰にも届かない。落胆を抱えたまま、私は校庭の中央にある桜の木を見つめる。この桜だけはなぜか散りきらず、季節外れの花を雪のように纏っているらしい。


 “あの人”と交わした約束が脳裏をよぎる。契り――そう呼ぶにはあまりに背徳的な響きがあった。普通の学校生活からはほど遠い、不吉で危険な儀式めいたもの。


 「こんな場所で、本当に行うの……?」


 自問しても答えは返らない。ただ、胸の奥にある妙な疼きだけが、私を突き動かすのだ。あの人にもう一度会うために、この夜の学校を彷徨うことを躊躇わない。


 そのとき、グラウンドに面した昇降口のあたりから小さな物音がした。私は期待と不安が混ざったまま、そちらへ向かう。もしそれが教員なら呼び止められるかもしれない。しかし妙な確信があった。そこにいるのは教員ではなく、あの人か、あるいは……。


 昇降口に近づくと、扉の隙間から弱い光が漏れていた。誰かが中で待っているのだろうか。夜の学校に広がる不気味な沈黙を破るように、小さく扉を開く。すると薄暗い廊下の先に、かすかな人影を見つける。


 「……来たね」


 低く囁く声。それは甘やかでいて、どこか嘲るようにも聞こえる。私はその声に聞き覚えがあった。いや、覚えているどころか、忘れられないくらいに執着している声だ。胸がぎゅっと締めつけられる思い。あの人がここにいる。


 「どうして……」


 声にならない声が出た。尋ねたいことは山ほどある。けれど言葉は喉に絡まり、うまく紡げない。ただ、目の前にいるこの人の姿に、私は安堵とも恐怖ともつかない感情を抱くのだった。夜の底で、歪んだ儀式の幕が上がる。そんな予感が私の背筋をひやりとさせる。

闇に沈む校庭や静まり返った昇降口が照らし出すのは、主人公の胸に潜む迷いや執着かもしれません。

夜の学園という閉ざされた舞台で生まれる静けさは、恐怖と同時にどこか美しさすら感じさせます。

この物語で描かれたのは、月明かりの下で繰り広げられる歪んだ契りと、消せない想いの断面にすぎません。

もし、読み終えたあとに不思議なざわめきや切ない余韻が残ったなら、それは夜の学校という非日常の空間がもたらす魔力のせいでしょう。

どうか、この“闇の教室”で起こりうる秘密の行方を、それぞれの読者の想像で紡ぎ続けていただければ幸いです。

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