依頼終了
一週間後
あれから毎日魔法を教えている。二人とも魔法の腕がメキメキ上達しているため、教えることがもうほとんどない。
今日は模擬戦闘を行うけど、負けないか心配だな。二人には火属性と風属性しか使えないってことにしてあるし、強い魔法は使えないから……そう考えているうちに模擬戦闘の準備が終わる。まずはナナからだ。
「いきます! 火球!」
ナナがファイアボールを俺に向かって放つ。ナナも陽真もファイアボールとは言わなくなり、他の魔法も日本語で使えるようにしていた。二人曰くまだこっちの方がマシ、恥ずかしいって……俺だってそう思う。でも最初に魔法を発明した人がそう名付けて、この世界の人にとってはそれが普通。俺の嘘がバレないようにするためには変えようがない……少し心が痛くなった。
「ファイアボール」
俺はファイアボールで相殺する。ファイアボールは光を放って消える。
「蟻地獄! 氷塊!」
「くっ! ファイアランス!」
発生した光に気を取られていた俺は蟻地獄に足を取られる。俺は飛んでくる氷塊をなんとかファイアランスで割って溶かす。
ファイアランスはそのままナナに向かって飛んでいく。
「きゃあ!!」
ナナは悲鳴を上げてうずくまって避ける。
「身体強化。はい、ナナの負け」
チャンスと思った俺は身体強化をして素早く近づき、ナナを取り押さえる。
「負けた……」
「回避がちゃんとできれば、勝負はわからなかったよ。じゃあ、次は陽真だ」
俺は落ち込んでいるナナを励ましながら陽真に声をかける。
「了解」
陽真と俺は向き合う。今まで教えていて、ナナよりも陽真の方が強いのは明らかだった。正直今の状態ではかなりギリギリだと思う。
「よーい、スタート!」
ナナの合図で模擬戦闘は始まった。始まった瞬間に陽真は走り出した。
「ウインドカッター!」
身体強化もせずに向かってくる陽真に何か作戦があると思い、警戒して下がりながらウインドカッターで牽制する。
「鎌鼬、身体強化」
陽真はウインドカッターを相殺し、身体強化で急に加速して俺に近づいてくる。
「ウインドウォール」
俺は落ち着いて、向かってくる陽真の前に風の壁を作って進路を塞ぐ。
「ロケットブースト! 突き抜けろ――!」
陽真はさらに加速して突っ込んでくる。
「は? ぐはっ!」
ウインドウォールは簡単に突き破られ、俺はそのまま突っ込んできた陽真にラリアットをされて吹っ飛ばされる。俺はそのまま壁にぶつかり、気を失った。
「ん? 痛っ!」
「星火、大丈夫?」
目が覚めると、陽真が心配そうに俺を見ていた。
「大丈夫。どれくらい気を失ってた?」
まだズキズキと痛む体に鞭を打って起き上がり、質問する。
「五分くらいかな」
「そうか。勝負は俺の負けだな。はぁ、もう教えることはない!」
「ハハ! 冗談言うなって。それよりもう一戦しよう」
「無理無理。まだ体痛い。……それに本当にもう教えることはないよ」
俺は改めて言う。これ以上はもう実戦経験を重ねた方が強くなると思う。それにもうそろそろ冒険者活動に戻りたい。
「そっか。今までありがとう」
陽真は俺に手を伸ばす。俺はその手を掴んで立ち上がる。
「こちらこそ。楽しかったよ。ナナもね」
俺は陽真の手を離してナナに握手を求める。
「ありがとう。またね」
ナナは握手をしながらそう言った。
「星火様、今よろしいですか?」
二人との別れの挨拶を終え、訓練場を後にしようとすると、走ってきたメイドに呼び止められた。
「はい。どうかしましたか?」
「王様がお呼びです。応接間までお願いします」
メイドは息を切らしながら言う。そんなに緊急な用事なんだろうか。俺としては二人に教えることがなくなったから冒険者に戻ることを王様に伝えたいため、丁度いいタイミングだ。
「わかりました」
とりあえず俺は応接間に向かう。二人はメイドに連れられて急ぎ足で別の場所に向かった。これは何かあったのかもしれないと思い、気を引き締める。
「失礼します」
俺は応接間の扉を開けて中に入った。