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Happiness  作者: 遠藤 敦子
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 「相手は元旦那と同じ職場の既婚者で子持ちだったんですけど、『好き』『愛してる』『早く一緒になりたい』って言ってる割には肉体関係を持った証拠がちっとも出てこなくて。でもある日突然、『真優子、ごめん。好きな人ができてその人と結婚したいんだ。だから……離婚してほしい』って離婚を切り出されたんです」

 遊佐さんの元夫の自分勝手さに呆れると同時に、また茉拓のことがフラッシュバックしてしまった。もう未練などないはずなのに。

「あ、ごめんなさい。今の話重かったですよね。もう忘れてください。喋ってるうちに着いちゃいましたね」

遊佐さんは先ほどのシリアスな雰囲気から打って変わり、気丈に振る舞う。なにしろ会社から徒歩圏内だったので、すぐに着いてしまったのだ。

 僕が室内の設備について説明している間、遊佐さんは丁寧にメモを取っている。

「こんな説明いきなりされてもわかんないと思うんで、最初は『ふーん、そうなんだ』って適当に聞いてもらって大丈夫ですよ」

そう言うと、遊佐さんはメモを取るのをやめてスマホで設備の写真を撮り始めた。今1人暮らしをしているけれど、他のマンションに行く機会はそうそうなかったので新鮮だそうだ。

 帰り道、僕はポツリと「遊佐さんの元夫、なかなか最低ですね……。あ、嫌な想いさせてしまったらごめんなさい」と先ほどの話の続きをしてしまった。離婚の話なんて地雷になりうるデリケートな話題なのに、そう言ってしまったことを反省する。

「全然大丈夫ですよ、むしろ小野関さんだから話せるんで……。『妻の私より肉体関係がない女の方が良いってこと?』ってなって、『離婚なんて絶対にしない! どうしてもその女と一緒になりたいって言うなら死んで償ってほしい』ってさんざん罵倒したら元旦那は出て行きました。それだけなら良いんですけど、警察から電話があって『元旦那が浮気相手の女と屋上から飛び降りて亡くなった』と……。元旦那だけが亡くなって相手の女は意識不明の重体になりました。ちなみにこれ、昨年の年末の話です」

遊佐さんの話は想像を超えるほど重い話だった。浮気だけでも辛い目にあっているのに、元夫が浮気相手と心中して亡くなり相手は意識不明の重体というさらに壮絶な人生を歩んでいて、かける言葉も見つからなかったのだ。

「もうかなり壮絶ですね……。そんな中で1人暮らししながら仕事されていて偉いですよ……僕なら無理です」

としか言えなかった。

「この話には続きがあるんですけど、また今度にしますね」と遊佐さんが言い、会社に着いた。

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