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「いやそもそも遊佐さんが来たのも俺が人材強化チームに異動になるからだし、すでにイケメン彼氏いると思うよ? 俺みたいな奴が本気で相手にされるわけないから」
僕は郁大の発言をあしらった。星野さんは1ヶ月前に彼女ができて仲良くしているので、遊佐さんへの興味は郁大ほど強くはなかったのだ。その後、星野さんは僕のパワハラ疑惑での炎上の件に話を移し替える。
「しかしさーあのTwitter意味わからんよな、翠のあの音声がパワハラになるなら逆に何がパワハラじゃないんだって思うわ。連絡なしの遅刻が度重なって注意しただけであんな大ごとになるって」
「あれでパワハラ扱いになって左遷とか、逆に翠かわいそうじゃないっすか? 別に怒鳴ったりとか人前で注意とかしてないし、少しだけ言葉強めに注意しただけなのに」
星野さんも郁大も僕の味方になってくれて心強かった。僕は人材強化チームに異動になるけれど、部署が変わっても時々ランチしようと2人に言う。
昼休み明け、遊佐さんは少し疲れた顔をしていた。何かありましたかと僕がTeamsでメッセージを送ると、案の定女性陣から質問攻めにあったそう。今何歳かとか好きなことは何かとか前職で何をしていたか、とか常識の範疇のことであれば訊かれても構わないけれど、それ以外のことまで訊かれたらしい。結婚しているか彼氏がいる前提で話をされるので、独身で今は彼氏はいないと言うと「なんで?」「何があったんですか? 男性恐怖症とか?」などと興味本位で詮索されて少し怖かったのだという。「じゃあ気分転換にコンビニでも行きましょう」と口頭で誘うと、それは良いですと断られてしまった。
それならばと、僕は電話対応のOJTを行うことにする。室内修繕の部署なので、お客様からの電話の内容は「室内の○○が壊れたので修理してほしい」という電話が8割を占める。そういう場合は「工事業者を手配させていただきますので、お名前・ご連絡先・マンション名・部屋番号をお伺いしてもよろしいでしょうか」と言うと良いと教えた。またわからない内容を聞かれたら保留にして僕に確認することや、他部署の内容ーー騒音や共用部についての相談、解約申し出、家賃支払いについての相談などーーを言われたら「こちらは室内修繕の窓口になりますので、該当部署に確認して折り返しします」と回答するよう伝えている。
早速電話が鳴り、遊佐さんが電話に出た。元接客業ということもあり、電話対応のしかたに問題はない。事務が初めてとは思えないほど堂々としている。ただ一件だけクレーマーで有名なおじさんからの電話を遊佐さんが取ってしまい、声が震えているように見えた。