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Happiness  作者: 遠藤 敦子
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4

 仕事を終え、僕は重い身体を引きずりながら退勤する。ふと空を見上げると、デパートの立体駐車場から誰かが下を覗き込んでいるのが見えた。もしかして飛び降りようとしているのだろうか。もしそうであれば、早めに阻止しなければならない。勝手に体が動き、僕はデパートの階段をダッシュしながら登った。周りの買い物客から、あの男は何をそんなに急いでいるのかという目で見られているのを感じる。それでも構わず立体駐車場へ向かう。

 立体駐車場へ到着した。まだそのひとは下を覗き込んでいる。僕はギリギリ間に合ったようだ。そのひとは髪の長い、大学生くらいの若い女性だった。彼女は柵から身を乗り出し、今にも飛び降りそうに見える。

「何してるんだ! 危ない!」

僕がそう言うと、彼女は振り返って座り込み、こう話す。

「何って、見ればわかるでしょ? もう死のうって思ってるんです」

「死ぬなんてダメだ! お姉さん多分学生さんでしょ? まだ若いのに! ご家族が悲しむって。俺で良かったら話は聞くから……」

彼女を説得しようと目線を合わせながら僕は言った。すると彼女は涙を流しながら話し始める。

「実は……1年間片想いしてた人に彼女ができて、何も言わずにFacebookをブロックされました」

彼女はその男の彼女のものと思われるインスタグラムの投稿を僕に見せてきた。そこには男と彼女が抱き合っている動画やキスをしている動画などがある。どこからどうみても外国人だった。

「が、外国人……? すげえな、どうやって知り合った?」

僕が尋ねると、彼女はその男と知り合った経緯について話し出す。

 昨年ーー話の流れで21歳の大学3回生と判明。つまり彼女が留学していたのは20歳の頃ーー1年間アメリカに留学していた頃、日本人の女友達に半ば無理やり連れていかれたクラブでその男と知り合ったという。金曜日の夜で人の多さに困惑していた彼女を、男が抱き寄せて「俺が君を守るから」と言ったそう。その後は連絡先(電話番号とFacebook)を交換してやりとりしていたが、「今シングルだけど、彼女とかはいらない」と言われたことと男が彼女の留学先から車で3時間の距離の場所に住んでいたことから、これ以上は踏み込まないでいたのだという。また彼女本人も勉強で忙しくしており、男に会いに行く時間を確保するのが難しかったとのことだった。

「いま21歳でしょ? まだ若いし、これから恋愛とかたくさんできるって。何も言わずにいきなりFacebookをブロックするような性格悪い奴と縁がなくなって良かった、って考えてみたら?」

と言葉をかけるも、彼女にはあまり響いていないようだ。

「こんなに好きになったひと他にいないし、私女子大に行ってるから出会いないんですよ……。片想いしてた1年を返してほしいし、私が死ぬことでそいつに復讐できたら良いのに」

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