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「君の人柄を見ているとパワハラするような人にはとても見えないから、虚偽の内容だろうとは思っていたよ。でもね、1回でもSNSで炎上してしまうと周りからの信頼も一瞬で底に落ちてしまうんだ。長くなるけど、僕の話聞く?」
松宮さんから聞かれ、僕は「ぜひ聞きたいです」と返す。すると松宮さんは5年前のことを話し始めた。
「息子もいて仲良くやってたのに、元妻から『好きな人ができたので離婚してほしい』って言われたんだ。元妻の横にはホストがいて、そいつが土下座してまで元妻を譲ってくれと。じゃあ息子の親権はどうするんだって聞いたら、親権は譲ると。子どもを捨ててまでホストの男とイチャイチャしたいんだなって思って、ブチ切れて追い出したんだ」
松宮さんの経験が、僕と茉拓が別れた時と重なってしまう。「なかなかの修羅場ですね……。僕と同棲してた元カノが別れた時の状況と似てて驚きました」と僕が言うと、松宮さんは続きも話してくれる。
「元妻に『離婚届もらってきました。俺の分は書いたからまた送る。届いたら連絡して』ってLINEしたけど、1週間経っても既読がつかなくて……。そしたら警察から電話が来て、大阪のホテルで元妻が刺殺されたと。犯人は不倫相手のホストで、そいつはホテルの屋上から飛び降りて亡くなったんだ……。土下座してまで元妻と一緒になりたかったはずなのに、結局守り抜く気はなかったと思うとそいつにも怒りが湧いてしまって……。元妻の件が全国ネットで取り扱われるようになったら、まとめサイトとか掲示板にあることないこと書かれてしまったんだ。それこそ今の小野関くんみたいに」
松宮さんは過去についてこう語った。掲示板やまとめサイトには松宮さんへの誹謗中傷ーー「モラハラDV野郎」「遊びまくりのチャラ男」「どうせこいつモラハラだけじゃなくて浮気もしてたんだろうな、知らんけど(笑)」などーーだけではなく、個人情報ーー名前、住所、勤務先、息子の年齢ーーも書き込まれたそう。弁護士や担当刑事に相談してまとめサイトや掲示板は即座に削除されたけれど、会社でも松宮さんに関するクレームの電話が鳴り止まなかったらしい。そこで今の部署に異動せざるを得なくなったという。
「松宮さんも大変だったんですね……」
僕がそう言うと、松宮さんは
「転職も考えたけど息子は当時3歳だったし、大学に行かせることを考えると大手勤務というステータスを手放すのが不安だったんだ。それでずるずると5年もホッチキスしてる。でも小野関くんはまだ若いし、ホッチキスするのにやりがいを見出せないなら転職考えてみても良いんじゃないかな?」
と転職に関するアドバイスをくれた。「松宮さん、ありがとうございました。僕も前向きに転職について考えてみます」と松宮さんにお礼を言い、2人で会社に戻る。




