13
まずは田川さんからの指示通り、エーラーニングにてハラスメントに関する内容を受講する。この部署内で、パワハラ中の音声がSNSで拡散されて新入社員を休職に追いやった男というレッテルが僕に貼られているからだ。俺はパワハラなんて断じてしてないのに……! なんでこんなの受講しなきゃいけないんだ? 心の中でそう思いながら、何がハラスメントにあたり何が正当な注意かという内容をパソコンで読み進めた。やっぱり俺のしたことはパワハラじゃないじゃん、なんて考えながら。
エーラーニングを受講した後は、他部署から届いた書類をホッチキスで留めていく。自主退職待ちの社員が集まる部署なので和気藹々とした会話などなく、パチンパチンというホッチキスの音だけが虚しく響いた。毎日これが続くんだろうなと考えただけでも頭がおかしくなりそうだ。
11時30分になり、僕は1日の目標数分の書類を留め終えた。
「田川さん! 全部終わりました! 次は何をすれば……?」
田川さんに次の指示を仰ぐと、「じゃあ小野関さんは定時まで座って待っていてください」と言われる。周りが黙々と作業している中、僕だけボーっと待っているのも心許ない。かといってスマホをいじるわけにもいかない。
「じゃあ、前の部署で手伝えることないか聞いてきます!」
僕は引き継いだことについて遊佐さん、郁大、星野さんが困っていないか様子を見に行くことにした。僕が異動してから、遊佐さんは堀内チーフの横に座っている。どうやら少しだけ席替えしたらしい。遊佐さんに何か困っていることはないかと訊くと、今のところは大丈夫ですとのことだった。
星野さんはタバコ休憩に行っており、一時的に席を外している。郁大はお客さんに「もしもし、エスポワールひがし205号室の中井様の連絡先でお間違いないでしょうか。私、マンション管理会社ハーモニーハウジングの菅田口と申します。ご相談いただいていたエアコンの修理の件で、まだ業者から連絡がないとのことで申し訳ありません」と電話している最中だ。今は誰も困っていることはなさそうだと判断し、自席に戻ろうと歩き始めた時、郁大から呼び止められた。
「なあ翠、エスポワールひがし205の人からエアコン修理の進捗について聞かれてるけど、あれってどうなってる?」
「ちょっと待ってな。その件、親和ビル管理の木下さんとやりとりしてたと思う。……今部品取り寄せてて、届き次第またお客さんに連絡して日程調整するって。届くのが明日か明後日くらいになるって」
郁大に工事業者・親和ビル管理の木下さんとのやりとりの内容を伝える。
「ありがとう、お客さんにも言っとくわ。……ーー大変お待たせいたしました。エアコン修理の進捗状況について確認したところ、現在部品を取り寄せており明日か明後日くらいには届きそうとのことです。部品が届き次第また業者から日程調整の連絡があるかと思いますので、それまでお待ちいただけますでしょうか。ご迷惑をおかけしていますけれども、よろしくお願いいたします。では、失礼いたします」
郁大は僕にお礼を言い、電話の保留を解除してお客さんに状況を説明した。最初は少し温度感が高かったけれど、説明すると了承されたという。郁大の問題が解決したので、僕は自席に戻る。




