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これはどういうことだろう、と頭をかかえる。
一体どういう状況なのだろうか。
木造の狭い古屋のようなところに誰かと閉じ込められている。
ここに来るまでの記憶は一切ない。
最後の記憶は、彼女を見つめながら友人と会話していたあの
昼休みだろうか。
異常な頭痛と倦怠感を感じながらも、私は隣にいる人間を覗き込む。ふわりとした長い薄金色の髪は誰かを彷彿とさせた。覚えのある香りがする。
「猫、先輩……?」
いや、正確には猫先輩に似た誰かだろう。
少し、その、胸囲が私の知っている先輩とは違うし、顔つきもかなりメイクが濃く普段ノーメイクの先輩とはかなり違う。
ぱちり。
私が先輩に似た彼女の顔を覗き込んでいると、彼女は起きた。
そうすると彼女は驚いたような顔をする。
彼女は怪訝そうな顔になり周囲を見渡していた。
キョロキョロ、という効果音がつきそうだ。
『なんっで、私と貴女がこんなところに閉じ込められているんですの!?』
彼女は私をきっと睨みつけながら叫んだ。
怒る先輩の顔など見たことがないのでとても新鮮だ。
「えっと、確か誘拐され、て」
そう気づいたら口から出ていた。
そうだ、思い出した。ここは西洋風のファンタジー世界。
私と彼女はこの世界の住人で、学園の昼休みに一緒にいる所を
何者かに誘拐されてしまったのだ。
私の脳にこの世界で生きた15年分の記憶が一気に流される。
さらに激しい頭痛が私を襲い、倒れ込んでしまった。
『‥‥助けませんわよ』
そうだ、この世界の猫先輩によく似たこの女はかなり性格が悪いんだった。
確か名前はマリー・フォン・アヴェーヌ。
庶民上がりで上級魔法学院に転院してきた私を執拗にいじめてくる悪女だ。
猫先輩とは似ても似つかない。
『大丈夫です。アヴェーヌ様のお手を煩わせる訳にはいきません。』
容姿端麗、頭脳明晰、清廉潔白、まるで女神な猫先輩なら迷わず私に手を
差し伸べる事だろう。容姿端麗さと地位以外には何もないのがこの女だ。
彼女の婚約者である王子との親密さでも成績でも魔法でも私に抜かされて
しまったくらいで、私をいじめ抜くこの性悪女のことはせいぜい黒猫先輩
と呼んでやろう。
『さて、そろそろ出ましょうか黒猫先輩。』
『なっ、出られるわけないじゃない!この小屋には闇魔法の強固な結界が‥‥
って、黒猫先輩って』
『そうですね。』
私はそういうと、魔法詠唱を行う。戻ったばかりの記憶だがよく覚えていた。
今回使うのは光属性魔法。この世界に光属性の魔法を使えるのは2人しか
いない。まったく、現代にいた頃のモブな私とはかなりかけ離れた人物
らしい。
ものの数秒で結界を解除するとドア前に複数人の気配を感じる。
騎士団だろうか。なるほど、誘拐犯の連中を捕まえたは良いものの
結界を突破できずにいたのだろう。
『私が光属性の魔法師ということをお忘れですか?
さ、黒猫先輩。出ましょう。』
そういうと私はドアの方へ向かう。
黒猫先輩には目もくれず。
『‥‥そう、だったわね。』
彼女はそういうと私に続いて、この古びた古屋を出た。