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「あんた、本当に猫先輩の事が好きだよね」
そう言う友人に脇目も振らず、ベンチで談笑しているであろう
猫先輩こと猫田白音を見つめ続ける。
いつも友人に囲まれている猫先輩は、今日も5人ほどで昼食を
とっているらしかった。その中に男がいるのが気になるが。
日差しの強い日なので、猫先輩が日焼けしないか心配である。
「そんなに好きなら話しかけたら良いのにさあ」
分かってる。そんなことは。
でもそれをやろうとしてもできないのが乙女心なのだ。
私は少し不貞腐れる。
きっとこの友人なら気さくに話しかける事が出来るだろう。
私があの人と話したのはただ一度だけ。
入学式の日、入学祝いの造花を胸に飾られた時以来だ。
桜並木の下で新入生に花を飾る彼女は、何よりも美しい『華』だった。
その華に心惹かれたのは私だけでは無いはずだと強く思う。
黄金に輝くその瞳は少し吊り目で猫を彷彿とさせた。
『入学おめでとうございます』
そう女神のように微笑む彼女に、私は一言も返すことができなかった。
それから1年3ヶ月、話せそうな機会は何度かあったものの話しかけることは
ない。
「私なんかが話しかけたら女神が汚れちゃう」
「うわきも!!!」
友人は心底ドン引きしたような顔でそう言った。
良いのだ別に。
彼女が私のことを認識していなくても、死ぬまで一方通行の
思いでも、私は彼女のことを好きでい続けたい。
全てにおいて美しい彼女を、死ぬまで目に焼き付けて
いたいのだ。
その為なら、たとえ彼女がどれだけ難関な大学に行こうが、
大企業に就職しようがついて行こうと思っている。
彼女は相当優秀だからやさしい道では無いだろう。
今から勉強頑張らないといけないな、と自分に喝を入れた。