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心覚の拾集家  作者: しば
第一章 砂漠の森
3/4

旅人が探すもの

 「シュウシュウカ?」

「そう、拾集家」

勝手に名乗ってるだけなのだけど、と付け加えた。

「だれかの思い出を拾い集めているんだ。だから拾集家」

「ふーーーん・・・?」

サフィはむずかしそうな顔で首をかしげる。

クリスは慣れた手つきで馬を馬房に入れると、パンパンに膨れたバックパックを肩にかけた。

「家はどっちだい?ご家族に挨拶しないと」

こっち、とサフィが再び右手をつなぐ。

少し離れたテントで、女性がこちらを窺っている。


 ヤール族はオアシスを頼りに生活しているため、いつでもその拠点を移せるよう、テント状の家屋で暮らしている。

これまでも砂嵐や干ばつ、数か月もの間続く大雨によって、いくつものオアシスが生まれては枯れた。

アウスの北端に位置するこのオアシスも、そうして生まれた比較的新しいものだ。

木々はまだ若く、大小2つの池をテントが囲むようにして建っている。


 「ああもうサフィったら、旅の方を困らせないようにと言ったでしょう」

木綿のワンピースの腰にストールを結び、革製のシューズを履いている。

ヤール族の伝統的な衣服だ。

サフィも同じような恰好をしている。

「クリスです。泊めていただけると伺ったので」

「ええ、ええ、もちろん。馬をお貸しする際に、じゅうぶんすぎる食料をいただきましたから」

サフィの母は、ターラと名乗った。

「お疲れでしょう、お湯を沸かしてありますので、どうぞ」

ターラはテントの裏手を指さした。

人がふたりは入れそうな浅い木桶が置いてある。

「ありがとう、ではそうさせてもらいます」

サフィの手をほどき、砂にまみれた身体を洗うため裏手に向かった。

「夕飯の支度を手伝ってちょうだい」

先ほどまでクリスとつないでいた手をとり、テントの中へ入った。




「お湯をありがとうございました。・・・身体を拭いた布が砂で真っ黄色になってしまった」

身ぎれいにしたクリスがテントに入ると、そこにはすでにたくさんの料理が並んでいた。

「コロニーに旅人さんが来るとごちそうなんだって。わたし初めて!」

スープの鍋を危なっかしく運ぶサフィは嬉しそうにしている。

テーブルに所狭しと並べられたもてなしの数々に、思わずクリスも破顔した。

「ねえ、クリスさんはどこからきたの?これからどこにいくの?何を探してるの?」

「サフィ、食事が先よ」

ターラは拳の背で軽く小突くと、クリスを椅子へ促した。

母娘ふたりの暮らしにしては、手に余るサイズのテーブルだ。

ヤール族の伝統に則り、食事の前に祈りを捧げる。

放牧の家畜が増えすぎるとオアシスは枯れてしまう。

そのため各家庭の家畜は生活に必要な最低限の数を残し、新たな命が生まれると、同じ数だけ家畜を間引く。

羊は上質な羊毛を与えてくれ、牛は農耕の助けとなり、いずれも皮は手工芸品の素材となる。

そしてやむなく間引かれた家畜は食肉として生命の糧となる。

ヤール族の生活に欠かせない存在として、感謝の気持ちを捧げるならわしなのだ。

 

 和やかな食事が済むと、コロニーの男衆が酒を持って訪ねてきた。

クリスは下戸を理由に断ると、代わりに革製品を見せてもらうよう依頼する。

各家庭から様々なの革の装飾品が持ち寄られ、そのいくつかを買い取った。

歓迎の宴は夜更けまで続き、やがてそれぞれの細君から大きな呼び声がかかる。

―――ヤール族は、どちらかというと女性のほうがたくましい。

賑やかだったテントは、外の風の音がわずかに聞こえるくらいになった。

「すみません、私のせいで騒がしくなってしまって」

「いいえ、こういう性分ですもの。私も小さい頃は、次はいつ旅の方が来るんだろうと楽しみにしていましたよ」

手際よく食器を片付けるターラを手伝う。

サフィはとっくに夢の中にいるようだ。

「あの、お二人で暮らしているのですか?」

「ええ、今は。夫はこのコロニーで作った製品を、よそに売りに行っているんです。半年ほど経ちますが、いつ戻るのやら・・・」

「失礼、立ち入ったことを聞きました」

ターラは首を振り、気にしていないといった素振りをした。

「サフィから聞きました。思い出を探している、と。どうしてここに?」

洗い終えた食器を拭きながら、ターラが訪ねる。

「森を探しているんです」

「森?」

「砂漠の森」

最後の一枚を拭き終えたクリスはそう言って、バックパックを漁りはじめた。



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