Chapter2-3
どぉぉぉん!!! と激しい音が鳴り響いたのはリリアンが図書館で調べ物をしていた時だった。
音が鳴った直後に城が揺れたので地震が起きたのではと最初は思った。
図書館にいる人達が騒めいている様子を見れば、皆んなを安全な場所に連れて行かなければと外に誘導する。
(中は危ないかもしれない、場所が開けた何も無い場所‥!)
物が倒れてこないような安全な場所を思い出したリリアンは皆んなに向かって叫んだ。
「練習場に向かいましょう!」
皆んなを練習場に連れて行った後、取り残されている者が居ないか確認するためリリアンは城の中を歩き回る。
(地震は一時的なものかしら、あれから全く揺れないし……外も一応確認しましょう)
念の為にと城のエントランスに向かえば、遠くから騒がしい音がしてくる事にリリアンは気付き、思わず誰かが怪我をしたのかもしれないと急いで外に飛び出した。
「なっ……!!」
しかし、扉を開けた先は戦場だった。魔法や魔術が飛び交うその光景はリリアンが予期していなかった状況だ。
あちこちで起きている戦闘を見つつ自分に向かってくる魔術を相殺しながら、訳が分からないままリリアンは自国の兵に加担した。
「ドリュー!!」
契約精霊を呼び出して植物の蔦で敵の動きを封じ込めている間に、魔術で敵を炎で攻撃する。
「火よ燃える矢となりて敵に降り注げ!!」
幾つかの火が矢となって敵に向かっていく、唱えた魔術が敵に当たったのを確認し、近くにいた兵士にリリアンは話し掛けた。
「これは、どういう状況ですか!?」
「恐らく帝国が攻めてきたのかと思われます!」
話しかけられた兵士が敵を見ながら答える。攻撃してくる相手が着用している服の左胸には、帝国を象徴する虎のエンブレムが掲げられている。
「貴方たち帝国の目的は何ですか!?」
「………………」
リリアンは攻撃する手を止めずに聞くが相手は何も答えない、敵も増え続ける一方だった。
(これじゃキリがない!)
さっきの大きい音と揺れは、地震などでは無く攻撃された音だ、そして既に敵は城まで攻め込んできている。
「なんで、ここに他国の奴らが!」
自国の兵が叫ぶ、その言葉は自分も最初から疑問に思っていた事だった。
何故帝国の者が城に攻め込んでいるのか、そもそもこの国に侵入できている事事態が可笑しいのだ。
リザレス王国には結界が張られている、今日まで他国に侵略されずに長い歴史を守ることができたのは、そのお陰でもあった。
精霊師以外の、リザレス王国の国民以外この国に入る事はできないのだ。他の国の者がこの国に入る時はリザレス王の許可がないと入る事ができない。
(お父様が国を裏切ることは絶対に無い! となると結界が破られた!?)
あらゆる事を考え想像するが、既に起こっている事を後から考えても仕方が無い。
練習場にいる者達も街の皆んなも心配だ。それに
(お父様、お母様、レオン、ティア!)
家族の安否が気になる。
「私は、城内の者達の避難を呼び掛けます! ここは任せました!」
周りにいる物達に指示を出し、少しでも被害を出さない為に、リリアンは再び城の中に消えて行った。
*
レティシアが姉の部屋の前に辿り着き、扉を開けようと震える手を伸ばす。ガチャっと扉を開けた先には誰も居なかった。ホッとした感情と焦りとごちゃ混ぜになった色んなものが自分を急き立てる。
(ここに、姉様はいない!!)
扉を開けっぱなしにして、レティシアは兄の部屋へと向かった。
ガシャン! ドゴッ!
兄の部屋の扉の前に着いた時、中から激しい音がしているのをレティシアの耳が捉えた。
「!!」
確実に中に誰かがいる、それが誰なのか分からなかったが、レティシアは扉を勢いよく開けた。
バァン!!!
「お兄様っ!」
部屋の中に飛び込めば兄が2人の敵と対峙している。
「ティア!!!」
突然部屋の中に入ってきた妹の姿にレオネルトは驚いた。
妹の存在を確認できた為に安堵したのは一瞬で、レオネルトは直ぐに敵と向かい合う。妹には戦う術が無い、2人を相手にしてレティシアを守りながら戦うのは避けたかった。
「ティア!! 部屋から出てるんだ!」
この部屋の状況を見たレティシアは、黙ってこくんと頷くと直ぐに部屋から出て行った。
妹の姿が消えたことに一旦ホッとして、再び自分は敵と対峙する。
1人の男がレオネルトに向かって攻撃をしかけ、もう1人の男は妹が出て行った扉に向かおうとしていた。
「っ! エリアス頼む!! 地よ壁となり彼の者を阻め!」
自分に向かってくる攻撃を精霊の魔法で相殺し、妹に向かおうとしていた敵の前に壁を作る。
「行かせるわけないだろう、お前達が何か吐けばと思っていたがもう待てないな、倒させてもらう」
「…………」
そう言葉を言い放つが敵はやはり何も言わない。
レオネルトは魔術を使おうとした。
「……!?」
しかしレオネルトは信じられないモノをその目で見る。
何も言わない敵の横には、白と黄色の交じった虎が存在を放っていた。