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精霊師  作者: 雪飴
第四章 始まりの物語
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Chapter4-3

「……ん」


 いつの間にここに来たのか、気づけばレティシアはベッドの上で丸くなって寝ていた。

 身体を起こして部屋を確認する。壁紙は薄い緑色、所々に花や植物が飾られており、机の上は綺麗に整頓されていた。


 (ここは、姉様の部屋だわ)


 木の契約精霊を持つ、花や緑が好きな(リリアン)らしい部屋の中でレティシアは目を覚ました。


 知らず知らずのうちに、姉の部屋に入ったんだろうなとレティシアは思う。整理がつかないぐしゃぐしゃな心の中で安心する場所に逃げたかったのかもしれない。


 (姉様の匂いがする)


 スンッと鼻から空気を吸い込む。

 何の匂いかは分からないが、花の香りがする姉の部屋はレティシアを安堵させるのに充分だった。ベッドから出るのを名残惜しく思いながら床に足を付け、部屋を出る為に扉へと向かう。


「ありがとう姉様。またくるね」


 部屋の主がいない中、姉に向けて伝えた言葉は返っては来なかった。


            *


「胸糞悪いな」


 図書館の中でひたすら本を読み(あさ)っていたノアは、誰にも聞かれる事のない言葉を吐き出す。


 (本当に()()()は胸糞悪い。帝国で()()()事をする奴は1人しかいない)


 ノアの頭の中では、1人の男が思い浮かんでいた。自分の欲望の為なら何でもする奴の考えは、ノアには理解不能で、理解したくもない。


「っクソ!」

 

 ダァン!!とノアは、右手を握りしめて床に叩きつけた。思い出したくない過去が溢れそうになる、でも決して忘れてはいけない過去だ。


 強く叩きつけた手は赤くなっていたが、痛みは然程(さほど)気にならなかった。


《自分の身体は大事にしないと!》


 脳裏に声が聞こえた気がしてハッとなり、ノアは思わず赤くなった手を見つめる。

 

 いつもそうだ、殺してやりたい男の姿を思い出せば、それと同時に愛している()()()の姿も思い出す。


 できる事ならば過去に戻りたい。戻った所で弱い自分では何も出来ないだろうが、それでも()()()を逃がす事はできたんじゃないだろうか。


「馬鹿だな、過去になんて戻れる筈ないのに……」


 図書館の床にゴロンと仰向けに寝そべり、天井をジッと見つめる。側から見たら行儀が悪いと怒られそうだが、生憎(あいにく)と行儀の悪さを叱る人物はここにはいなかった。


 (安心しろよ、お前の代わりに俺があの姫様を護るから)


 目を閉じた自分の脳裏には、笑顔を魅せる女性の姿が見え、その顔を思い出しながらノアはゆっくりと眠りについた。


          *


 私達(精霊師)私達(精霊師)以外何が違うのか、そんな事など訊かれても分からない。レティシアにとって精霊師とは日常の一部であり、当たり前の事だった。

 感覚としては、"何故人は息をするのか?"と問われる事と同じで、そんな事など知る由も無い。だから"水中で息が出来ないのは何故か?"と聞かれたら、"人間だから"と答えるだろう。


 そう、"精霊師だから"精霊と契約でき、"精霊師だから"精霊を使役できるのだ。

 

 【リザレスの歴史】【精霊とは】幾つかの本を手に取って中身を確認するが、これといって目ぼしい内容は見つける事ができない。【人体の構造とは】なんて図鑑を見てみたが、人の骨の絵が出てきた位で知りたい情報は無かった。


 こんな事なら、モーン先生に精霊師についてもっと詳しく聞いておくべきだった。と過去の自分を恨めしく思う。


 リザレスに来てから丸一日が経ち、ニ日目の今日もやる事は変わらなかった。レティシアとノアは図書室でひたすら本を漁るのみ。

 レティシアは所々休憩を挟んでいるが、図書館に入るたびに常にノアが居るので、もしかしたら休まずに調べ続けているのかもしれない。


 調べて始めて一日。まだ一日しか経っていないが、レティシアにとってはもう一日が過ぎてしまった。


 焦る気持ちでは見つける物も見つけられない。そう思ったレティシアは気分転換のつもりで何気なく、童話の絵本を読み始める。


【始まりの物語】

 それはレティシアの一番好きなお伽話(とぎばなし)だ。幼い頃によく母に何度も読み聞かせてもらい、今では文章を記憶している為、本を見なくとも一言一句間違えずに言える程だ。


 本に影響され「精霊王達に会いに行く!」と駄々(だだ)をこねて父や母達をよく困らせていたらしい自分は、その頃から好奇心旺盛(こうきしんおうせい)で、居るはずの無い精霊王達を探しに、城中を探検して迷子になる事も多かったそうだ。


「それは、始まりの物語か?」


 椅子に座り、本を開きながら物思いに(ふけ)っていると、レティシアの右隣から急に声が聞こえた。


「え? あ、そ、そうです」


 意識が飛んでいたので、いつの間にか自分の横に座っていたノアに気付かず、レティシアは(ども)ってしまう。


「なんで敬語なんだよ、昨日は敬語使ってなかったくせに」

「昨日は、動揺していたので思わず…」


 顔をしかめるノアに対して肩をすくめれば「今後敬語は要らない」とはっきりした口調で告げられ、レティシアは困ってしまう。さらに名前も「さん付けは気持ちが悪い」との事で、有無を言わさず呼び捨てで呼ぶ事が決定した。

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