魔法少女は退屈
サクラは決して口がうまい方ではない。感情を表に出すことが苦手だからか言葉に説得力がかけているきらいがあるのだ。だがここは説得力のあるセリフを吐いて欲しいものだ。
しかし先手はモミジとカタクリだった。
「ねえサクラ、いつになったらなんとかパワーとかなんとかアターックとかできるの? 私飽きてきちゃったし、何のためにしてるのかもわからないわ」
「ウチもなにか目標みたいなものがないと続けられなそうよ。サクラは何ができるの?」
「アタシも今のところは同じ基礎練習だけですよ。流石に体が大事っスからね。でも飽きちゃうのはわかりますからこれ貸してあげます」
いよいよ俺様の出番がやってきたようだ。サクラは俺様を外してまずはモミジへと渡す。
「いいですかモミジ、自分の指先を見ながらさっきと同じようにやってみてください。うまくいってるときには指の間に緑っぽいもやもやが出てますからね」
「ホントだ! 納豆みたいに糸引いてるよ。カタクリの左腕には赤いもやもやが見えるんだね。サクラは…… 全身青いけど大丈夫なの?」
「ま、まあそこは気にしないでください。魔力の出る場所には個人差があるみたいっスから。次はカタクリさんの番ですね」
「すごい…… 本当に魔力が見えるなんて不思議な眼鏡ね。私の場合は手のひらから湯気が出てるみたい。サクラもやってみてよ」
「わかりました、二人で片方ずつ覗いててください。それじゃ行きますよ」
サクラの魔力制御は二人とは比べ物にならず、手のひらの上にドッジボールよりも大きな青い球体が出たと思ったらすぐに小さくなり色が濃くなっていく。こいつの才能は本当に素晴らしい。さらに時間が経ち指先程度の大きさになったまま球形を保ち続けている。
「どうっスかね。見ないでやるのは久し振りなんでうまくできたか不安です」
「すごいわ! サクラったら魔法使いだったのね。それにこの眼鏡、いったいどこで買ったの? ウチも欲しいからパパにお願いしようかしら」
「いや、それは小さいころにお父さんが古美術品屋で手に入れたらしいです。同じ物が存在するかはわからないですねえ。だから大人に取り上げられても困るので絶対に秘密にしてくださいね。これはお父さんも知らないことなんですから絶対ですよ!」
「わかったわ、私たちだけの秘密ね! なんだかワクワクしてきたわ。サクラはこの練習をどれくらいやってるの?」
「アタシは五歳のころから一日数時間はやってますねえ。でも一時間くらいで充分ですよ」
「ま、まいにち…… ウチ、早くもめげそうよ」
「カタクリが弱音吐くなんて珍しいじゃないの。たった一時間でいいのよ? 楽勝楽勝」
「ウチ、学校の後三時間以上は剣技の訓練してるのよ? 週の半分はもう二時間魔法の練習だしねえ」
「乗り気じゃないならやめときますか。アタシも魔物と戦うのは怖いっスから」
「ちょっとサクラ? 今なんて言ったの? 魔物と戦うってウチらで?」
「なんでそんな物騒な話になってんの? 今の世に魔物なんていないよね?」
「あれ? カタクリさんも知らないっスか? 士族から選抜された討伐隊が人知れず倒してるらしいんですけど……」
「嘘でしょ!? そんなの聞いたことないわよ? お父さんや叔父さん、それにお爺ちゃんだって警備隊だったわ」
「うーん、そこまではわからないっス。でも魔物がいるのは間違いないですよ。しかもこの学校内でうろうろしてるんです」
「ちょっとサクラ、それ間違いないの? もしかして魔力が見える眼鏡と関係ある?」
お、裁縫屋の娘だと言うのに士族の娘より勘が働く。勉学はいまいちでも頭の回転や柔軟性には優れているのかもしれない。
「実は魔力をまとった蛇を見たんです。しかも数日の間になんか大きくなってきてて…… きっともっと大きくなったら暴れ出すんじゃないですかね」
「それを私たちで倒そうって言うわけね! 面白そうじゃない、私乗ったわ!」
「ちょっとモミジったらそんな安請け合いでいいわけ? ウチはちょっと信じられないなあ。だいたいお父さんが隠し事なんてするはずないもの」
「隠しているんじゃなくてまだ早いってことかもしれないっスよ? アタシたちはまだまだ子供ですし、仕事につくのは十八になってからじゃないですか。それまでは資質を確認する時期とか?」
「確かにサクラの言い分も一理あるわね。パパはウチよりもすごい魔法使うけど警備兵だし、まずはパパを超えないとだわ」
「そうと決まったら特訓再開よ! 工芸師が士族に勝るなんてことになったら楽しいわ」
「モミジったら何言ってるのよ。ウチが負けるはずないじゃないの。サクラ、出来てるかどうかちゃんと見ててよね」
「はい、わかったっス。二人とも今のところは順調ですから楽しみですねえ」
うむ、サクラの言う通りこれは楽しみだ。特に裁縫屋の娘には非凡な才能がある。もしかしたら神具を作ることが出来るかもしれない。それにはまずあの小さな魔竜ぐらいは倒せるようになってほしいものだ。
「今日はいっぱい練習しましたねえ。二人とも乗り気になってくれてよかったです。神具様も退屈しなかったんじゃないですか?」
『そうだな、二人とも資質はあるように感じる。心配なのは士族の娘が親に知られるかもしれんと言うことくらいか』
「どういうことっスか?」
『上達が早すぎるとなれば追及されるのではないか? どこかで誰かに教わっているか、なにをどこまで知っているのか、などとな』
「なるほどそれはありそうっスね。自宅での練習で本気出さないよう連絡入れておきますね」
『それにしても魔竜は消えてしまったな。街へ出て餌を探していることがないといいのだが、おそらくは悪い予想が当たるだろうな』
魔竜が成長して街で暴れ出すようなことがあれば討伐隊が出てきてしまう。そうなると小娘どもが苦労して戦い、それを見て楽しむと言う俺様の計画が狂ってしまうのだ。
明日は街へ探しに行かねばなるまい。俺様の娯楽継続のために!