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魔法少女は世界を救わない   作者: 釈 余白(しやく)


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少女たち

「勇者たちよ、汝らへこの神具を授けよう。汝らが魔竜を倒し、この混沌とした世界へ平和をもたらさんことを。神は我々とともにある!」


「神官様、必ずや魔竜を倒しこの世界へ平和を届けましょう。我々が授かり賜ったこの神具の力をもってすれば、平和は決して絵空事ではございませぬ。ところでこの眼鏡の使い道は?」


「我にもわからぬ。神のご意思が働き産み出されたものの中にあったものだ。手に取ってみよ、なにか感じたりはせぬか?」


「いいえ…… 武器を持てば強大な力が、盾や鎧には強固な守りの力が感じられます。しかしこの眼鏡からはなんの力も感じませぬ。ただ紛れ込んだだけの物なのではありませんか?」


「うーむ、まさかとは思うが職人の忘れものだろうか。魔竜と対峙した際に眼鏡が役に立つとも思えん。こんな役に立たない物は処分してしまうとしよう」


「神官様、では私がいただいてもよろしいでしょうか。目利きをする際に眼鏡をかけるとそれっぽく見えますからな」


「古物屋か、別に構わぬぞ。他の失敗作の処分も頼んでいるのだ、今更一つ増えても変わらぬ」


「ありがとうございます。神官様より賜ったものとして家宝に致します」



◇◇◇



『遠い遠い昔、さかのぼること数千年前、人々は神へ祈りその力を自分たちの物としようとした。その実現のために空へ届くような高さの柱を四本建てたのだった。四本の柱の中心には祭壇と溶鉱炉が作られ、その場で作った武具には神の力が宿ったと言う。


 しかし人々はそれでも満足せず、遥かなる性能を求め武具を作りつづけた。長い時間、膨大な資源、多くの人力を費やし神具を産み出そうとした。


 人々の想いが実ったのか、はたまた執念の産物か、神具と呼ばれる品が複数産まれることとなる。その幾多の逸品から選ばれた剣、槍、錫杖、盾、鎧、兜、そして眼鏡が三人の勇者へと与えられた』



『パタン』



「ちょっとさあ、いつもここで笑っちゃうんだけど、やっぱ眼鏡が神具ってのは無いよねえ。勇者の装備に眼鏡っておかしくない? 必修だから仕方なく学んでるけど、この英雄譚うさん臭すぎるでしょ。童話だって今時もうちょっとまともなストーリーだと思うけどねえ」


「まあ神話だから事実とは言えないでしょうね。だいたい数千年前に今と同じように人が住んでいたとも限らないわ。その頃にはラーフ川だって無かったって言うけど誰かが証明したわけじゃないもの」


「その時勇者が倒した竜が落ちた場所が川になったって言われてもねえ。国をいくつもまたがる大きさの竜なんているはずないわ。やっぱり昔話は作りこみが甘いわね」


「でもちゃんと勉強しておかないと成績に響くから頑張らないとね。モミジの追試っていつだっけ?」


「明後日だよ、しかも放課後居残りで。ホントやんなっちゃうわ。カタクリとサクラは優等生だから追試ないんでしょ? ああ、うらやましすぎるー」


「サクラはともかく、ウチは実技あるからねえ。授業では痛い思いするし生傷も絶えないし、武芸科は辛いよ。」


「勇者の末裔も楽じゃないっスね。戦闘適性があるだけで将来の就職は安定ですけど」


「それもどうだか、勇者は魔竜と刺し違えて死んだはずでしょ? じゃあなんで末裔が残ってるのって話よ。親族の子孫ってことらしいけど、それなら勇者の血は受け継いでないじゃん」


「まあまあ、おかげで高い身分なんだから感謝すればいいのよ。平和な世の中だから危険も少ないしさ」


「ウチも工芸科が良かったなあ。モミジみたいにカワイイ洋服着たいもの。武芸科だけ制服とかダサくて参っちゃうわ」


「工芸科イイっスよねえ。ま、アタシの場合はカワイイ服なんて似合いませんけど」


「そんなことないって、もっと自信もちなよ。サクラは十分カワイイんだからさ」


「ありがとう、でも慰めは不要っス。アタシは別に自分のこと嫌いなわけじゃないですから」


 女同士のカワイイを信用してはいけない。客観的にどう見ても可愛らしく裁縫が得意なモミジ、学年で一、二を争う剣技を持ち端正な顔立ちのカタクリ、どんよりと重苦しくぼさぼさの黒い髪と覇気のない黒い瞳、頬にはそばかすが目立ち視力も良くないサクラ。はなから勝負になっていない。


「そろそろいい時間ね。語学のノートだけ借りて行っていいかな。歴史と一緒に丸暗記するわ!」


「もちろん問題ないっスよ。来期まで使うこと無いですしね」


「さすがサクラ、いつも助かってるよー。今度またおやつ作ってくるね」


 やれやれ勉強会もようやくお開きか。まったく、子供とは言え女が三人も集まると騒がしくて仕方ない。モミジはテストのたびにサクラのノートを頼って図書館へ招集をかける。だが実際に勉強するのはモミジだけでその間サクラとカタクリは本を読んでいることが多い。


 身分の違う者同士が仲良くなることは珍しいが、商人であるサクラの父はモミジの家の裁縫店から衣類を仕入れている縁があり、カタクリはモミジ家の上客である、まあいわゆる幼馴染というやつだ。



「お母さん、ただいま。先にお風呂入る時間ある?」


「これからご飯の支度だから入っちゃっていいわよ。今日はから揚げにするけどいいかしら?」


「やった! いっぱい作ってね。もうお腹ペコペコなの」


 サクラは部屋へ荷物を置いてから風呂場へ向かった。勢いよく服を脱ぎ捨てて風呂場へ入ると体を洗い始める。正面の鏡に映っている裸体はまだ十二歳の子供なので貧相なものだ。


『おい、また俺様ごと顔を洗うんじゃないぞ。学問は優秀なわりにずぼらなところがあって敵わん』


「もう、うるさいっスね。やっぱり部屋へ置いてくるようにしようかな。裸も見られちゃうし」


『何を言うか、俺様が見てるのはお前が見てるものだぞ? 自分自身を見ているだけで覗いているように思うのはおかしかろう。大体一日酷使したのだからきちんと汚れを落とすのが下僕の役目だろうに』


「そうやってすぐ下僕扱いして…… あくまで対等な関係って言ってるのに。また何千年もほっとかれたいっスか?」


『はっはっは、そうだったな。つい子供だと思って口が悪くなってしまった、すまん』


「わかってくれればいいっスよ。それじゃキレイにしてあげますからね」


 サクラの顔から離れ手の中で泡だらけになって洗ってもらうのはなかなかに気持ちがいい。視界がキレイになると世界も美しく見えるし食べる物もウマく見える。味はわからんが。


 ただ外されている間は何も見えないし意思疎通も出来なくてつまらないのが玉にキズだ。だが人に触れてさえいれば魔法は使えるので風呂が冷めないよう加熱しておくことにするか。


「さ、キレイになったっスよ。今日も一日お疲れさまでした」


『ごくろうであった。さてと、ここで伝えておきたいことが二つある』


「なんスか? 随分とかしこまって。珍しいことがあるもんっスね」


『一つは親父がから揚げにレモンをかけるのを阻止せよ。いきなり全てへかけるのはマナー違反だ』


「それはもっともっスね。いつもやられていて慣れちゃったけどアレはダメっスね。じゃあもう一つは?」


『うむ、さっき図書館から外を見ていて気が付いたのだがな。どうやら復活しておるようだ』


「なにが復活してるんスか?」


『俺様が復活と言ったら決まってるだろうが。お前は今更なにを言っているんだ?』


「だから何が復活っスか?」


『だから魔竜だと言っているだろうに!』


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