散策
手を繋いでラリーと歩く。
ラリーがしばしば私を振り返っては笑う。そのたびにドキドキする。
道の角に、炭の上に網を置いて貝を焼いているお店があった。大きな貝がパカっと開いて、良い音と匂いを発している。
視線が惹きつけられる。
ラリーが大きく笑った。
「食べよう、ローズ!」
「はい」
頷くと、繋いでいない方の手でおでこをつつかれた。
「「はい」じゃなくて「うん」」
「…は………うん…」
咄嗟にまた「はい」と言いかけた私を、ラリーが揶揄うように笑った。
恥ずかしくて、むくれた振りをしながら網を見る。
美味しそう。
「おじさん、二つね」
「あいよ」
ラリーが慣れた調子で注文して、葉の上に乗せられた貝を一つ渡してくれた。
まだジュウジュウいってる。
凄く美味しそう。
一緒に渡された木の串でつついて、中身を持ち上げる。
ポタリポタリと汁が貝殻に落ちる。
熱そう。
だけど食べたい。
ジレンマにジリジリしている私の横で、ラリーはパクリと自分のを食べた。
そして凄く美味しそうな顔になる。
羨ましくなって、とりあえず貝に唇を付けて垂れそうになっていた汁を啜った。
…………美味しい!!
貝の味と塩の味がぎゅっと詰まってる。
でももう少し我慢。
私は猫舌なのだ。
何故かラリーが、赤くなった顔を手で押さえた。
「…ちょっと刺激が強い…」
とか呟いている。
どうしたんだろう?
護衛の人は、そんなラリーを面白がるように、ニヤニヤしながら見ていた。
貝を食べ終えて、また歩き出す。
道の脇では、時々貝殻を使ったアクセサリーを売っている。
貝をそのまま繋いだネックレスや、削って磨いたブレスレット。
通りを歩いている女の人たちも割と付けているから、きっと人気なのだろう。
この街の雰囲気によく馴染む。
「そこのお二人さん、ちょっと見ていきなよ」
一人の露店商に手招かれた。
「彼女に一つどうだい?ネックレスとかイヤリングとか。髪飾りもあるよ?」
鮮やかな布の上に、色々な種類のアクセサリーが並んでいる。
なんか凄く可愛い。
いいな。
一つくらい買っていこうかな。
旅先の気分も手伝って、欲しくなる。
「んー、ペアのがいいな」
「じゃあ指輪はどうだい?」
そしたら、ラリーはもう買う気みたいだった。
彼の注文に、露店商はすかさず白い貝殻を削ったらしき指輪を見せてきた。
「ムクルル貝の指輪だよ!」
「ムクルル貝?」
聞き慣れない名前に首を傾げる。
「おや、知らないのかい?深い海の底に、必ず二つ並んでいる不思議な貝さ。その様子から「恋人たちの貝」なんて呼ばれてて、若い子に人気なんだよ」
「疎いねぇ」と笑われてしまった。
狼狽えている間に
「じゃあ、それちょうだい」
と購入が決まっていた。
小銭と引き換えに小さな二つの白い指輪を受け取ったラリーに、当たり前みたいに手を取られる。
スッと、買ったばかりの指輪を嵌められた。
真っ白な、削り出しただけの表面。
そっと撫でてみる。
素朴だけど、とても素敵。
視線を感じて目を上げると、青い瞳にじっと見つめられていて顔が真っ赤になった。
ラリーは楽しそうに笑うと、自分の指にもう一つを嵌めた。
また手を繋いで歩き出す。
握られた手の中で、時々コツンと指輪が当たる。
王都の街では、貴族というより商人の娘に近い行動をしている私だけれど、ここまで庶民的なことはした事がなかった。だから新鮮だ。
逆にラリーは、こういうお忍びの行動に慣れているみたいだった。
何だか不思議。
私よりずっと身分の高いラリーの方が、庶民に馴染んでいるなんて。
握った手は汗ばむくらいに熱い。
けれど、離したくない。