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夜会とか


翌週、ラリーに連れられて例の仕立屋に行った。

気後れしそうな程シャンとしたマダムが、笑顔で迎えてくれた。


奥のスペースで、仮縫い状態のドレスを試着する。ウエストなどサイズが変わったところ以外は、怖いくらいにピッタリだった…。


…マダムの目視採寸、凄すぎる…。


超高級店の技術の高さに震えていたのだけれど、試着した私を見たラリーが


「ああ、やっぱり凄く似合うね」


なんて優しく目を細めて手を取るものだから、思わず真っ赤になってしまった。そして


もう本当、頑張らなきゃ。

このドレスに見合うよう。

この人に見合うよう。

凄く頑張らなきゃ。


と気合いを入れ直した。



…だって注文されてたドレス、一着どころじゃなかったんだもの………



◇ ◇ ◇



ドレスが出来上がれば、今度は当然それを着て出かける事になる。

そのドレスに相応しい場所に。

そう。ラリーの婚約者になった以上、私はそういう場に出なければならなかったのだ。


ラリーに誘われて、ようやくそんな当たり前の事に気がついた自分の迂闊さに、思わず頭を抱えた。


今までは昼間のデートにしか誘われてなかったから、と言ってもうっかりが過ぎる。

あんなお店のドレスも必要になる訳だ。



夜会に参加するようになってから、もう一つ気がついた事がある。

ラリーは今まで、敢えて私をこういう場所に連れ出さないでいてくれたんだなって。

ちゃんと私の気持ちがラリーに向くのを、待っていてくれたんだなって。

だって…


「こんばんは、ドノヴァン侯爵」


「こんばんは、ラリー殿。こちらは?」


「僕の妻になるローズです」




「あら、ラリー様」


「マール公爵夫人、ご機嫌麗しゅう。こちらは私のローズ。近いうちに私の妻になりますので、私ともどもよろしくお願いいたします」



そう。夜会でラリーの隣に立つなら、私が「何者なのか」紹介しなければならないから。

今までの中途半端な状態で婚約者だと紹介されていたら、私はきっと凄く困ってた。

だからその事には感謝してる。

あの頃から本当に大切にされてたんだなって、嬉しくも思っている。


…たとえ今、「婚約者」ではなく「未来の妻」と紹介されて、大いにたじろいでいたとしても…。



………意味は同じ筈なのに、響きの重みが段違いだと感じるのは何故なのか……

逃げる予定もない逃げ道が、どんどん塞がれていくのが目に見えるようで複雑な気分だ…。

何というか、私がそこに見合う人になる前に居場所が次々用意されていくようで、かなり焦る。

もう絶対逃げないって決めたけれど、プレッシャーが半端ない。

……頑張るけど。


そう。慣れない夜会だって頑張ってみせるけど!



実は私は、今までほとんど夜会に出た事がなかった。子爵家男爵家の娘なんて、そんなものなのだ。

だって、夜会グレードのドレスってもの凄く高いから!



ドレスのグレードの下限は、主催する家の家格に合わせないと失礼にあたる。だから伯爵は元より、侯爵家公爵家主催の夜会用のドレスとなると、値段が跳ね上がるのだ。

逆に王宮で開かれる全員参加のパーティーは、そこまで厳しい目で見られないんだけどね。

じゃないと娘のいる子爵家男爵家が、軒並み潰れちゃうから…。


何年も着回せる、飾りの少ないスーツでオーケーな男性と違って、ドレスは色もデザインも流行があるし、センスが無いと陰ですぐ叩かれる。同じドレスを何度も着ていくのもアウト。おまけに、ドレスに合わせた靴やアクセサリーも必須…


そんな訳で、下級貴族の女は、同格の親戚や知り合いの屋敷で開かれるこじんまりとした集まりに出るくらいで、伯爵家以上で開かれるかっちりした夜会からは自然と足が遠のく。

まさに『着て行く服がない』ってやつだ。


結婚相手なら親が見つけてくるか、学園や職場で自力で見繕えばいい。だから結婚する為だけに、夜会に出席する必要はない。

そういった事情で、子爵家の私は王宮の夜会に数回参加した事があるだけだった。



けれどラリーと結婚すると決めたので、そんな事は言っていられない。

夜会は上流貴族の社交の基本だ。

ドレスもアクセサリーも凄いのを贈られたので、着ていくものなら大いにある。

だからラリーに誘われるままに出席している。…ラリーの「未来の妻(確定)」として…。


会場では、ただラリーの隣で笑っているだけなのに、終わるとグッタリしてしまう。

マナーの先生に教わった通りにピンと背筋を伸ばして優雅に微笑んで、お辞儀の角度やグラスの持ち方やら何やらに神経を張り巡らせて数時間過ごすと、屋敷に帰れば泥のように眠れる。



そうそう。

夜会に出るのに先立って、ラリーのお姉様方の紹介でマナーの講師を付けていただいたのだ。


「丸腰だとヤられてしまうわよ!」


と、嫋やかな微笑みで叱責されて……。

笑顔も、優雅な仕草も豊富な知識も、ユーモアに富んだ会話も、全て淑女に必須の武器なのだそうだ。


本当はフル装備で臨ませたいところだけれど、いっぺんには無理という事で、とりあえず今は手っ取り早く笑顔と仕草を中心に学んでいる。


幸い、同じ方に学んだ妹様曰く、私は講師のマチルダ夫人に気に入られているらしい。

妹様は、一週間不眠と極度の食欲不振に陥ったそうだし、妹様の知り合いは毎回泣くまで教育されたのだとか……


その夫人には「実践に勝る練習は無し」とばかりに習っては夜会に放り込まれ、結構スパルタで鍛えてもらっている。最近は「そこそこものになってきましたね」と褒めていただいた。

決して安くはないであろう夫人への謝礼も、当然のごとく公爵家持ちだ。だから絶対に教えを無駄にはできないので、褒めてもらえてほっとした。


その成果もあってか、ラリーは


「最近、益々綺麗になったね」


なんて言ってくれる。

正直、夜会に出ると周りは綺麗な人だらけなので、もの凄く贔屓目が入った評価だと思う。

でも彼にそう言ってもらえると、やっぱり嬉しい。釣り上げられた魚だけれど、これからも可愛がって欲しい。



そのラリーはというと、日々大人っぽさが増してきている。時々格好良すぎて、倒れそうになる。会うたびに格好良さが増すとか、どういう魔法なの…。


毎回惚れ直して困っ…てはいないけれど、心臓がそろそろ限界なので、やっぱりちょっと困っているかもしれない。



もう、なんなんだろうこの人。

差が開く一方なんだけど…






…でも好き。



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