僕のローズ
柔らかなキスは、馬車が家に着くまで続いた。
馬車が止まりカチャリと扉が開けられ、誰かの息を飲む音と
「っ…申し訳ありませーー」
酷く慌てた低い声に我に返った。
焦って身を捩ると、ラリーの手が離れた。
「…もう着いたのか」
ラリーの落ちついた声と
「っ…はいっ…」
護衛の人の、焦った返事。
スッと馬車から降りたラリーが、手を差し出してくれた。
「ほら、ローズ」
ラリーは平然としている。
私は護衛にラリーとのキスを見られてしまって、恥ずかしくてたまらないのに。
手を取るのを躊躇っていたら、
「それとも今日は、僕の部屋に泊まっていく?」
そんな際どい冗談を色気を含んだ声で言われて、慌てて手を掴んだ。
馬車から降りると、背中を手で支えられた。腰にぴったりと添えられた手に、いつになく緊張する。
その手に気を取られていたら、そのまま引き寄せられて当たり前のように唇にキスされていた。
護衛の見ている前で。
「っ…!」
思わず胸を叩くと、すぐに離れてくれたけれど、思いきり見られてしまった後だった。
思わず護衛を見ると、気まずげに目を逸らされた。
私の視線を遮るように、ラリーが手をかざす。その手で頬をそっと包まれ、もう一度ラリーの方を向かされた。
じっと見つめられて鼓動が跳ねる。
「おやすみ、僕のローズ」
満足そうに笑うラリーの表情に目を奪われて、何も言えなくなる。
そんな顔…されたら……
言葉を失くした私をクスリと笑い、額に軽くキスしてラリーは帰っていった。
「僕の」ローズ。
そう呼ばれたことに気づいたのは、ベッドに入って目を閉じた後だった。