最低
ビュウっと夜の冷たい風が吹いて、やっと動き出すことができた。
出迎えたメイドに晩ご飯はいらないと断って、真っ直ぐ自分の部屋に戻った。
別れ際のラリーの言葉が、何度も頭の中で響く。
『………たとえこの婚約がダメになっても、君の家に何かしようなんて思ってないから安心していいよ』
その声を思い出すたびに苦しくなる。
ラリーが、私とは別々に進む未来を初めて口にした。
それにショックを受けている自分に気づいて自覚した。
………あの時私は、ラリーに「そんなことないよ」って言って欲しかったんだ。
「大丈夫だよ」「結婚しよう」「僕が守ってあげるから」って……
………なんて面倒くさい女。
嫌になる。
自分に自信がないのを、全部相手にカバーして貰おうだなんて。
将来何かあった時「あの時「大丈夫」って言ってくれたじゃない!」って言質を取れるように……
自分では、その差を埋める努力もしないで……
最低。
優しいラリーにつけ込んで、そんなことを言わせようとするなんて。
それこそラリーに相応しくない。
そんな女、ラリーに相応しくない。
二つも年下のラリーに寄りかかろうとするような女。
そんな女、彼には絶対、相応しくない。