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15.アンリエッタ、餌付けされる!

「遅い! 火を通しすぎて、もうくったくたよ。くったくた!」


 アンリエッタたちが戻ると、ルーティが怒涛の勢いで文句を言う。


「ご、ごめんなさい……」

「いやまあ謝らないで良いんだけどさ。美味しくなくても文句言わないでよ?」


 そう言いながら、ルーティはテキパキとおわんに食事をよそう。

 涙ぐんでいるミントと、どこか清々しい顔をしているアンリエッタを見て、声をかけたのはエドワードであった。



「ミント、ちゃんと伝えられたのか?」

「はい! お姉さまは、ちゃんと聞き届けてくださいました!」


 ミントは元気よく答える。


(なにさ、なにさ。ふたりして分かりあっちゃってさ)


 一方のアンリエッタはご機嫌ななめ。少ない言葉で意思疎通するふたりを見て、自分は蚊帳の外なのを感じて――ちょっとだけ面白くなかったのだ。



(これから、どうしよう?)


 勇者パーティで過ごすのは決定だ。

 ミントと仲を深めながら、魔王に挑んで全滅する未来を変えなければならない。


 頼るべきは現世の記憶だ。

 アンリエッタは、どうにか小説の内容を思い出そうとする。


(魔王は、ミントちゃんが力を覚醒させれば一撃で倒せるのよね)

(……いいえ、忘れそうになってたけど、もうひとつのキーアイテム――地底迷宮にあるという聖剣エクスカリバーも必要か)


 エクスカリバーに聖女の加護を付与して、魔王を倒す伝説の剣となる。

 たしかそんな設定だった気がする。



(魔王ね……。たったの3行で倒されたから、そんなに情報が無いのよね)


 ウェブ小説は、あくまでミントがヒーローに溺愛される様子が中心に描かれている。

 魔王討伐はプロローグで終わり。以降、一度も現れない。



(こんなに魔王がヤバい世界観なら、もう少し丁寧に討伐方法を書いておきなさいよ!?)


 アンリエッタは、小説の原作者を内心で罵った。というかそもそも論として、アンリエッタというキャラクターの扱いにも物申したい。



「お姉さま、どうされましたか?」

「ううん、何でもないの」


 お椀を手にしたまま、ぼうっとするアンリエッタを見て、ミントは心配そうに言った。



「口に合わなかったかな? その……知り合ったばかりで好みもわからず――申し訳ない」

「いえいえ、普通に美味しいですよ?」



 そうか、とエドワードは安心したように微笑んだ。

 食事中に気を飛ばして考え事など、作ってくれた彼らに失礼だ。

 だいたい魔王のことは、考えてもとうにかなるものでもない。


「その……。少しだけ考え事をしていただけです」

「それは、これからの巡礼についてかな?」


「はい。それもそうですし、何よりどうすれば魔王を倒せるか。魔王を倒さないと、私たちは生き残れませんから」


 逃げられない今、アンリエッタにとって魔王を倒すのは必須事項であった。

 こちらにはミントと勇者がいるのだ。王子にやれるなら、勇者がやれない同義はない。


 アンリエッタは小説でしか魔王を知らないため、いまだに楽観視していた。3行で死ぬ扱いが可愛そうな魔王――ぐらいの印象しかないのだ。 



「……そうだな。すまない、浮かれている場合ではなかったな」


 エドワードは、自分を恥じるようにそういった。


「不甲斐ない俺たちに代わって、アンリエッタはひたすら魔王を倒す策略を練っていた。そんな苦労も知らずに、俺は能天気に食事の準備をしていたのか。パーティのためになることは何もしていない――」


 エドワードはアンリエッタに良いところを見せたかったのだ。

 腐りきった心をを叩き直してくれた恩人。


 必死に剣の腕を磨き、自分にできる精一杯のことをした。モンスターを狩り、とっておきよ朝食――そんなことをしている暇があるなら、少しでも建設的な意見を出せるよう頭を働かせないといけないのに。



(んん?)


 アンリエッタは目を瞬かせた。

 ときどきエドワードの思考についていけなくなる。

 それでも確かに言えること。それは――



「いいえ、とても美味しかったですわ。このような楽しい時を提供すること――リーダーとしてとても大切なことですわ」


 数多のウェブ小説を読んできたアンリエッタにとって、魅力的なパーティーにはいくつかの条件があった。

 メンバーが互いを尊重しているとか、強いメンバーが多いとか、いろいろな条件があるが――アンリエッタは、食事が一番大切だと考えていた。

 


(せっかくの異世界よ!? 食べなきゃ損じゃない!!)


 アンリエッタは、面倒なことは考えたくない性分だ。

 美味しいものを食べて、毎日を面白おかしく過ごせれば十分なのである。

 故に――エドワードは、非常に魅力的なリーダーであった。


 ……胃袋を掴まれたとも言う。



「エドワードさんが狩ってきたんですよね? 私たちのために、わざわざ早起きして」

「これもミントに押し付けるつもりだったことだ。……そうだな、これはせめてもの償いだ。許してもらおうなどと、都合の良いことは考えていないがな」


「ふえ? なんですか?」


(か、可愛い)


 エドワードの言葉をよそに、ミントは、ふーふーと冷ましながら、肉を小さな口で頬張っていた。

 そんな様子を見るパーティメンバーの顔も、どこか暖かい。


(昨日の夜はどうなることかと思ったけど――。良かったわ。ミントちゃんは、順調にパーティに溶け込んでる)


 仲間とこうして食事を共にすること。

 小説では除け者にされていたミントも、しっかり輪の中にいる。


 旅はまだ始まったばかり。

 否、アンリエッタにとっては始まってもいない。


(やってやるわよ! 何がなんでも生き残ってやる!!)



 目下の目標は、ミントにお姉さまと呼んでもらいながら、魔王に対抗する方法を見つけることだろう。


「まずはエクスカリバーね」


(破滅に近寄らない部分は、小説に寄せていきましょう)


 もう遅い!

 そうざまぁされ、バリバリ喰われたアンリエッタにとって、あの小説はバッドエンドである。だとしても大多数にとってはハッピーエンドなのだ。

 基本的には乗っかるべきだ。


 


「エクスカリバーがないと、魔王は倒せないものね」


 アンリエッタの何気ないひとりごと。

 その言葉を勇者パーティの面々は、驚きの表情で迎え入れ、


「もしやと思っていましたが――お姉さまは【預言者】の生まれ変わりなのですね……」


 ミントは何かを納得したように、深々と感嘆のため息をついたのであった。

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