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11. ミントちゃんを虐めるってことは、私への宣戦布告も同然!

 翌日の朝。


(目が覚めたら現実、なんてことはないのね……)


 ウェブ小説に転生する夢。

 それもざまぁ対象に転生する夢とか、見るにしてはちょっと業が深すぎる。


 現実から逃げられないなら、現実逃避しよう――アンリエッタは目の前の少女の寝顔を、しげしげと眺めた。


(作者よ。こんな可愛いキャラを産んでくれてありがとう!)

(いいえ、小説ではやっぱ現物の可愛さには勝てない! ミントちゃん、生まれてきてくれてありがとう!)


 作者を拝み、ミントを崇め、何故か神に祈りを捧げる。

 なかなか寝付けず寝不足のアンリエッタは、朝からテンションがおかしなことになっていた。


 何を思ったのだろう。

 アンリエッタは、ミントの柔らかな頬をツンツンとつつく。


「ううん……?」


 苦しそうな声を上げて、ミントはこてりと寝返りを打った。


(可愛い〜〜!)

(……って。正気に戻れ、私!)


 飽きもせずミントを観察していると、




「あんたは、朝っぱらから何してるのよ……」


 魔女っ子姿のルーティが、テントの入口から呆れたように顔を覗かせた。


「な、何もやましいことはありませんよ?」

「ふ〜ん、まあ良いけど……」


(だいぶ不審者っぽい挙動だったけど、堂々としてれば何も問題ないわよね!)


 ルーティはアンリエッタの秘密(女の子にしか興味がない事)を探ろうとしている――アンリエッタはそう信じ込んでいた。

 もしそうなら、すでに隠しようがないほどにボロが出ている気もするが――力押しで隠し通すことを選択!


 バチバチと視線を交わしてルーティと騙し合いをしていると、



「あれ。お姉さまと――ルーティ様?」


 ミントがぽやーっと眠そうに目をこすって起きてきた。



(お姉さま……?)

(ゆめうつつなミントちゃん可愛い!!)


 可愛い女の子にお姉さまと呼ばれたい! アンリエッタの夢がひとつ叶った瞬間である。


「おはようございます、ミントさん」

「あらまあ。優しい優しいアンリエッタに守って貰って、随分と遅いお目覚めじゃない」


「ルーティさん、どうしてあなたはそういう……」


 チクリと嫌味を言うルーティに、アンリエッタは目を尖らせる。



「申し訳ありません。すぐに朝食の準備をさせて頂きます!」


 やがて意識がはっきりしてきたのか、ミントは顔を青ざめて地面に頭がめり込まんばかりの謝罪を繰り広げた。


(ミントちゃんが謝る必要はないわ!)

(悪いのは全部、この毒舌ロリっ子よ)


 そして迫る巻き添えざまぁ。

 アンリエッタの破滅センサーは、迫りくる危険を察知した。



「もう必要ないよ。エドワードが朝食を、用意しちゃったからね」

「エ、エドワード様が?」


「うん、アンリエッタに良いところを見せるんだってさ。狩りに行くときも、ボクの助けもいらないって――無駄に張り切ってたよ?」

「はあ、エドワードさんが。いったいどういう風の吹き回しですかね?」


(あの勇者が、率先して雑用を?)


 アンリエッタは首を傾げた。

 エドワードという少年は、アンリエッタにとってスローライフ大作戦を阻止した厄介な人物でしかない。

 良いところを見せたい? モンスターを屠って「逃げたらおまえもこうなるぞ」と釘を指すつもりだろうか。



(逃げないわよ! ミントちゃんが聖女として覚醒すれば、魔王だって一撃なんだから!!)


 死んだような目になるアンリエッタ。

 ルーティは「勇者にそんな風に思われてるのに、なんの興味もないのね」と、呆れたように肩をすくめた。



 そんなやりとりを余所に、ミントは絶望の声を上げる。


「私がやらないといけない仕事だったのに。こんな初日から寝過ごすなんて。私、どうお詫びしたら――」

「別に謝る必要なんて無いでしょう?」


 ミントの中では、すべての雑用は自分の役割なのだろう。パーティ内の歪んだ関係は、間違いなくそのうち破綻する。

 

(勇者パーティだけでなく、ミントの意識も変える必要がありそうね)



「え?」

「料理も雑用も当番制が当たり前でしょう? パーティメンバーは基本的には対等だもの。理不尽を押し付けられたら、ピシャリと拒絶するべきよ」


「そ、そんな恐ろしいこと……!」


 ブンブンと首を振るミント。

 パーティメンバーは対等なもの。それは小説にあった一文であった。


(ギルドの理念だっけ? 小説の最初にバッチリ書いてあったもんね!)


 小説で一文だけ書かれた設定と、実際の世界は違うのだが――アンリエッタが知ることは無かった。日本人であったころの感覚で、物事を考えてしまったのだ。


「文句を言う人がいたら、私に言いなさい。魔法でこんがり焼き払ってやるわ!」


(ミントちゃんを虐めるってことは、私への宣戦布告も同然!)


 アンリエッタは燃えていた。

 ミントを虐める時点で許せないというのに、破滅を呼び込む危険な行為でもあるのだ。

 断固、許すわけにはいかない!



「はい。やってやります、お姉さま……!」


 アンリエッタの発言を受けて、何故かミントは感極まったように瞳を潤ませて、気合いを入れ直していた。




◆◇◆◇◆


 パーティメンバーは対等な関係である――ギルドの掲げる理念は、残念ながら建前でしかなかった。

 貴族が黒といえば白も黒くなる世界。貴族の意向に逆らえるほど、冒険者ギルドの権力は強くないのだ。


(お姉さまが、そんな当たり前の事に気づかない筈がない)


 貴族の命令に真っ向から逆らえば、悪ければ犯罪者扱いだ。良くてもギルドに居場所が無くなるだろう。


 それでも勇者パーティで意見してみろと、アンリエッタは覚悟を問うているのだ。

 ミントが勇者たちを恐れていては、真の意味で仲間に成れるはずがないと。


(勇者たちは怖いけど……)


 集合時の見下したような笑み。

 居丈高な命令たち。

 ――たった一日の間に刷り込まれた恐怖。


(お姉さまのためにも、乗り越えないと……!)


 魔王討伐という、アンリエッタ様の目標につながる道だ。

 ミントの浮かない表情を見たのだろう。



「文句を言う人がいたら、私に言いなさい。魔法でぶっとばしてやるわ!」


 アンリエッタは、そんなことを言って胸を張った。彼女は冒険者ギルドでもどうにも出来なかった問題に、真っ向から立ち向かおうというのだ。

 それすらも魔王討伐に繋がると信じて。



(お姉さまに庇ってもらって、勇者パーティでかろうじて居場所を手にしたとして)


 あまりにおんぶ抱っこすぎる。

 ミントは、アンリエッタの負担になりたいわけではないのだ。

 傍にいて力になりたいのだ。

 


(立ち止まっている暇なんてない)


 聖女の力?

 雑用でも何でも良い。

 まずはパーティで役に立てるようになる。

 そうして居場所を認めさせるのだ――



「はい。やってやります、お姉さま……!」


 大切な人のため。

 ミントが前に進むのをやめる日は、もう二度と訪れない。

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