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7.旅立ち-2-

 とんでもない風圧に身体が後ろに持っていかれそうになる。

 今まではリッカ母さんがベルト代わりに支えてくれていたから、問題なかったが、これはヤバイ。

 全握力をもってしがみ付いているが、そう長くは持ちそうにない。

 それはそうと、私、行き先を告げたっけ?


「ねっ、ねぇ! 待って! 何処へ向かっているの?」

「ん? 首都ビジェツの方向ではないのか?」

「違う違う! 真逆! ヴァシェーヌ国へ向かって!」

「ぬぬ!?」

「ひやぁ!!」


 急な方向転換に遠心力で吹き飛ばされそうになるが、必死にしがみ付く。

 なっ、何とか耐え切った!

 けど、次はもう無理な気がする。


「せっ…霽月。急がなくていいから……優しく走って!」

「ぬぬ?」


 停止とも思えるような急な減速に、耐える事ができなかった私の身体は……。

 宙を舞った。

 ポーンと、円を描くように……。

 木の天辺が足よりずっと下に見える。

 空を飛ぶ鳥達と目が合っちゃった。

 このまま落ちたらヤバイよね?

 せめて足から落ちないと!

 空中でじたばたともがいていると、私を助けるべくジャンプした霽月がやけに大きく見える。

 あれ? 元の大きさに戻ってない?

 え? 何で?

 訳が分からないと混乱している間に、ぱくっとされた。

 ええ。頭から丸呑みの形で。

 喰われた……。

 では、なく。キャッチされた。

 助かった。

 でも、上顎と舌で挟まれ、息ができない。

 一難去ってまた一難!

 くっ、苦しい。

 ズシン――と言う振動から着地したと分かり、足をバタつかせて解放を促すと、直ぐに口から吐き出された。

 当たり前の事だが、全身涎まみれである。


「うわぁ……」


 引き攣った笑顔で霽月を見ると、そっと目を逸らされた。

 救出の方法を間違えたと、霽月も分かっているんだろう。早口で捲くし立てだした。


「喜べ、アゼリア。我の唾液には魔物を追い払う効果と病魔を寄せ付けない加護があるぞ。下手なアーマーなぞ着るよりも効果絶大だ。普通なら人に我の体液を分け与える事はせんが、我とアゼリアの仲だしな。特別だ。これで道中魔物に襲われる心配も病魔に侵される心配もいらんぞ。枕を高くして眠れるというものだ」


 それはとても素晴らしい加護だけど……。


「着替えてくる」

「なっ、何故だ!」

「びしょびしょ。ぬるぬるが耐えられない」

「そんなものは直ぐに乾くぞ」

「うん。でも、着替えてくる」


 乾こうが何しようが、涎まみれなのは変わらないからね。

 トランクを下ろして開き、ダイアルを浴室へ合わせる。


「直ぐに戻るから」


 霽月の返事を待たずにトランクの中へと下りて行った。






 シャワーと着替えを済ませトランクから顔を覗かせると、再び身体を半分に縮めた霽月が背を丸め、拗ねていた。


「我の唾液は汚くないのに……」


 うん。だとしても気持ち的に無理なの。ごめんね。

 しなだれた尻尾が可哀想やら可愛いやらで、顔がにやけてしまう。


「霽月。待たせてごめんね。お詫びにお肉持って来たよ」


 髪を乾かす間にオーブンで焼いておいた大量のソーセージを差し出すと、尻尾が揺れた。

 左右にブンブンと忙しなく。

 うん。可愛い。

 お皿を置くと、勢いよく霽月はソーセージに喰らい付いた。


「やはりリッカが作るソーセージは絶品だな」

「ふふっ。残念。それ、私が作ったんだよ」

「ぬっ。そうなのか。会わない間に随分と腕を上げたな」

「ありがとう」


 ちゃんと噛んでいないのか、一噛みが凄いのか、大皿に山盛りにあったソーセージは瞬殺だった。


「中々美味かったぞ」

「お粗末さまです」

「これを食べたら、久し振りにアレも食べたくなった」

「何?」

「リッカがよく作ってくれた、コカトリスのから揚げだ」

「あー……。それ当分むりかも……」

「ん? リッカの奴、またマルマールと一緒にダンジョンに潜っているのか?」

「そうじゃなくて……」

「ならなんだ?」

「……死んじゃったの。リッカ母さん」


 暗くならないように笑顔で言ったつもりだが、上手く笑えていなかったのだろう。

 霽月の瞳が僅かに揺れた。


「人族の生は短いな」

「霽月みたいに何百年も生きられたらいいのにね」

「リッカが何百年と生きたら、賑やかだろうな」


 母は良くも悪くも元気一杯の人だった。

 母の元気に引き摺られて、下を向いていた人は顔を上げ、泣いていた人は笑い始めたり。

 母の元気に付き合わされ、限界まで頑張ってしまったり、何度となく窮地を迎えたりしたと……。

 冒険者時代の思い出話を寝物語としてマルマール様に聞いていた私は、思わず噴出してしまった。


「リッカ母さんが何百年も生きたら、国が幾つか滅びそう」

「ああ、そうだな」


 霽月と顔を合わせ笑いあう。


「あのね。コカトリスのから揚げなら何度も母さんと作った事があるの。ただ、一人でコカトリスを捕まえられなくて全然練習できていないから、霽月、捕まえるの手伝ってね」

「ああ。任せろ。コカトリスなぞ、何万匹でも捕まえてやる。とびきりの美味い物を喰わせろよ」

「うん。任せておいて」

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