下級騎士の苦難①(三人称)
大変お久しぶりです。
身体共に日和っていてパソコンを立ち上げる事も出来ませんでした。
私が日和っている間、電子書籍化の話はどんどん進み、昨日小説の一巻。本日コミカライズの一話がフォーユー出版(@foryou_pu)さまからkindleにて発売となりました。
現在漫画は二話まで作成済みです。
小説&漫画の反応が良ければ三話目の作成が決定となりますので、宜しくお願い致します。
kindle unlimited対象商品なので会員様は無料で読めます。
成人の儀式が執り行われるフロアダカルにて、現れるはずのないA級の魔物が五体も出現した。
外部から運び込まれた可能性がある為、見張りとして残留していた第二騎士団だったが、救援兼調査を行う<望み挑む者>がやって来た事で漸く首都を目指し出立できる事となった。
通常なら普通に歩いて帰るところだが、急ぎ城へ戻るようにと王命が下っている為に、前を行く魔法使い達が築いた結界魔法の道を筋肉強化の魔法を使い全力で駆けていた。
最後尾を走る下級騎士のユエンは昨日から今日にかけて食べた絶品料理の数々を思い出し、頬を緩ませ締まりのない顔をしては絶望の表情を浮かべる。それを繰り返していた。
「いい加減、疲れないのか?」
隣りを走る下級騎士であるガロスに問われ、返事の代わりに頭を抱え、呻いた。
「俺は色んな場所の美味い物を食べる為に冒険者になったんだ……」
「酒の席でそんな事を言っていたな」
「ユーリシア大陸を制覇はしていないけど、結構な種類を食べて来た」
「……それは凄いな」
「下級騎士になれば、もっと美味い物が食べられるという俺の考えは間違いじゃなかった。森に残留中に食べた料理はどれも初めて見る物ばかり。その上、絶品だった!」
満面の笑みでそう言った次の瞬間。表情を曇らせた。
「それがもう食べられないと思うと、残念て言うか……悲しいと言うか……」
「出発前の話では、件の商人は後からヴァシェーヌ国に来るんじゃなかったか?」
「来たとしても貴族か王族のお抱え料理人にされるに決まっているだろう。俺らの口に入る訳がない」
あの味を知る前の自分には戻れないと嘆くと、ガロスは大袈裟だと一蹴したが、決して大袈裟ではないとユエンは空を仰いだ。
日が西の山へ傾くと第二騎士団は足を止め野営の準備に入った。
調理の担当に当たっていたユエンは狩り担当の騎士が獲って来た魔物を捌き、それが終わると串に刺して皿に積み上げて行った。
全ての工程が終わっても食事は通常上位の者から取る決まりの為、下級騎士のユエンは風によって運ばれてくる焼けた肉の匂いに喉を鳴らしながら上位の者達が食事を取っているのを見ているしかなかった。
今朝までは下町の酒場のように騒がしかった時間が、酷く静かだ。
ぽつりぽつりと聞こえてくる言葉は「醤油」「マヨネーズ」「ご飯」「カレー」などの溜息交じりの呟きばかり。
上級騎士達の気持ちは分かるが早く食事を終えて欲しい。でないと、何時までもお預けを喰らわされる。
今か今かと腹の虫を鳴らしつつ、待っていると、漸く食事の順番が回って来た。
新鮮な肉に塩と胡椒を振って焚火で焼く。好みの焼き加減まで待ち、齧り付けば程よい肉の弾力と共に肉汁が口に広がった。これだけでも十分に美味い。
美味いのだが……足りない。
マヨネーズの甘酸っぱさがあればもっと美味しく食べられるのに。
ご飯と一緒に食べればもっと幸せな味になるのに。
味噌汁が飲みたい……。
ただただ、破壊力満点のカレーが恋しい。
そんな事を心の中で呟きつつ隣を見れば『あの味を知る前の自分には戻れない』と嘆いた自分を大袈裟だと一蹴したガロスが神妙な面持ちで串焼きを食べていた。
「だから言ったろ?」
ユエンの問いかけにガロスは無言のまま串焼きに食らい付き、咀嚼して飲み込むと
「これはこれで美味い」
負け惜しみのような言葉を零し、一本。また一本と串焼きを食べるガロスを横目に。
「ご飯が欲しい」
そう呟くユエンだった。
食事の後始末を終えると、冒険者上がりの下級騎士二人はフェリックス王子からの呼び出しを受けた。
何か面倒な事を命じられる。そんな予感に、せめてローレンの怒りに触れる内容でない事を祈りつつ王子の待つ天幕へガロスと共に行けば、中には組み立て式の椅子に座るフェリックス王子とその横に立つレオナルド騎士団長の姿があった。
片膝を就き、頭を垂れると頭上から声がかけられた。
「顔を上げてくれ」
言われた通り顔を上げれば、見る者を魅了して已まない王子の優しい微笑にユエンは目を細めた。そして天幕の中にお目付け役であるローレンが居ない事で絶対に面倒な案件だと、諦めの気持ちからそのまま目を閉じた。
「君達に特別任務を命じる」
一体、どんな無理難題を言われるのかと内心ドキドキしていたが、任務内容はフェリックスの命の恩人である商人(料理人)の護衛だった。
商人が言うには城などの権力者が多く居る場所へは近付きたくない。との事。
いくら王子の命の恩人とはいえ、本来ならいち商人の意思など無視されるものである。だが、さすがに伝説の魔獣であるフェンリルを連れている人間の意思を無視はできない為、商人への褒賞などが決まるまでは貴族階級の人間が少なく、他国の人間の出入りが多い故に身分制度にうるさくない三区での滞在を予定しているらしい。
「聖女の噂もあって、黒髪の女性を貴族数人で護衛していると悪目立ちしてしまうだろう。故に元冒険者である君達に護衛を頼みたい」
自分達が選ばれた理由は分かった。だが、黒い死神と呼ばれている騎士団長が護衛に着いていたら目立たない訳がない。変装をしようが、風格や圧で絶対に目立つ。絶対に。
世渡りに欠かせない愛想笑いを浮かべつつ視線で確認を取れば、フェリックス王子からは暖かい視線が返され、団長からは鋭い視線が返された。
団長が護衛に着くのは覆る事のない決定事項だと察したユエンは、ただ頭を垂れるだけであった。
王子の天幕を出てから、ユエンの足取りは軽かった。
団長が居ながら『目立たず』などと言う無理な任務ではあるが、商人が作る絶品料理を食べられるチャンスである。
――下級騎士バンザイ!
――下級騎士素晴らしい!
自分の選択が間違っていなかったと歌交じりで天幕へ戻った十五分後。ユエンはガロスと共に上級騎士の天幕に居た。
上級騎士の天幕はいくつかあるが、よりにもよってここの呼び出しなのかと、片膝立ちの状態で俯いていると、頭上から声がかけられた。
「顔を上げて頂戴」
甘ったるく優し気な声に命じられるままに顔を上げると、毛布を丸めただけの簡易の椅子に座り、嫣然と微笑む公爵令嬢であるゼアヒルドの姿があった。
左手には伯爵令嬢のサリーシャ。右手には子爵令嬢のソフィア・ソフィレ。その両隣には男爵令嬢のハイデとマチルダが座っている。
今度こそ絶対に面倒な頼み事をされる。予感と言うより確信に近い。
今すぐにでも逃げたい。
そんな気持ちを悟られないように神妙な面持ちでいると、ゼアヒルドが微笑を深めた。
「わたくし、あの味が気に入りましたの」
唐突な言葉に面食らっていると、ゼアヒルドは更に言葉を続けた。
「何とかして下さらない?」
――何とかとは一体……?
突っ込みたい気持ちを堪えて口を一文字に結び、次の言葉を待っていると隣に座るサリーシャが口を開いた。
「貴方たち、例の商人の護衛を任されたのよね?」
十五分前に下ったばかりの特別任務の内容を何故知っているのか。
特別任務に関して他言無用と言われている二人は返事ができず、ただ視線を逸らすと、ゼアヒルドが気怠げに溜息を吐いた。
「できれば金と権力に物を言わせて囲ってしまいたいのだけれど、フェリックス殿下のお気に入りでしょ? それに伝説の魔獣を連れているとかでうかつに近付く訳にいかないのよ。だから護衛の任に着いた貴方達に何としても例の商人を懐柔して欲しいの」
常にそうだが、頼む側の人間は頼まれる側の迷惑を考えない。
無理難題を押し付けるくせに、解決案の一つも出さず何とかしろの一点張りだ。
金も権力も持たない冒険者上がりの下級騎士にどうしろと言うのか……。
そんな不満を二人は表情に出す事はしなかったが、上級騎士とはいえ何かと上からの頼み事を受ける事の多い男爵令嬢のハイデには思うところがあったのだろう。
そっと手を上げた。
「ゼアヒルド様。失礼します」
「何かしら?」
「私が聞いた話では、レオナルド団長が商人をとても気に入っていて、片時も離れないそうなんです」
「それで?」
「護衛には団長も就くそうですし、そうすると二人には商人を懐柔するのは難しいかもしれません」
「朴念仁……いえ、身持ちの硬い団長が女性を気に入るなんて、槍の雨が降りそうだこと」
ふふっ――と楽し気に笑うと、ゼアヒルド何か良い事を思いついたのか、微笑を深めた。
「ああ。そうだわ。それよ。団長に何とかして貰いましょう」
ゼアヒルドの発言に他の令嬢達は困惑気に顔を見合わせた。
「家柄、容姿、能力と兼ね備えている団長が本気になれば落ちない女はいないはず」
何とかしてもらうの意味が分かった令嬢達は顔を輝かせた。
「常に不機嫌そうな顔をされていても見目麗しい容姿ですものね」
サリーシャの言葉を肯定するようにハイデは頷きながら「団長の厳しい表情に魅力を感じる令嬢も多いと聞きます」
「団長は貴族男性としては、女性との会話は少々不得手なところはありますけど……」
「しゃべり過ぎる男性よりずっといいですわ」
「そうですとも。普段口数が少ない分、愛を語られた時の重みは何倍にも増します」
「確かに。寡黙で女性に興味がないような顔をした方に、ある日突然愛を囁かれたら……」
「団長の低く色気のある声で囁かれたら、腰が砕けますね」
その情景を想像し、目を細めうっとりとしていた令嬢達だが、ふと我に返り表情を曇らせた。
「ですが、団長が我々の頼みを聞いてくれるでしょうか?」
「これまで浮いた話一つないですものね」
「女性嫌いではないかと揶揄されていましたものね」
「そう言えば、一時、フェリックス殿下との仲を噂されていましたよね」
「ああ。ありましたわね。お二人に婚約者が未だに居ないのは、そういう事ではないのかと……」
話がおかしな方向へと進み始めたのを止める為に、ゼアヒルドが手を打ち鳴らした。
「レオナルド団長は騎士としての誇りと国への忠誠心に溢れた方です」
「そんな方が異常な治癒力のポーションを持ち、伝説の魔獣を従えている女性を他国に奪われる事をよしとはしないでしょう」
「確かにそうですわね」
「大丈夫です。団長も我々と同じ方向を向いています」
本当にそうなんだろうか。
疑問に思いはしたが、余計な口を挟まずに俯いていると紙が差し出された。
受け取った紙を開き、内容を見たユエンは噴出しそうになるのを歯を食いしばって堪えた。
「道は指示しました。貴方達の働きに期待しています」
期待されても困る。
心の中で叫びつつも、恭しく礼をし、天幕を後にした。
この話は去年10月に書いていたものです。
続きはこれから頑張ります。




