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65.パジャマパーティー

「話は以上で終了か?」

               

 報告しそびれた事は無いだろうかと記憶をさらい、何も引っかからなかったので、頷いた。

 マルマール様は無表情な顔で私を見つめ。


「予定より早く戻るようにする」


 そう告げると、こちらの返事を聞かないままドレッサーは元の鏡へと戻った。


「予定って、何か聞いてる?」

「うーん。全然だねぇ」

「だよね」


 お願いだから、誰が、何時、何処で、何を、何故、どのようにを明らかにして欲しい。

 マルマール様が何処で何をしているのか知らないし。どれくらいで戻る予定だったのかも聞いていない。

 早く戻る――が何時くらいを指しているのか、全く分からない。

 魔法に関しては一を知って十を知るマルマール様だが、こと会話に関しては色々足りな過ぎて困る。


「そんな難しい顔しちゃ駄目だよ。ほら、眉間の皴を戻して。大丈夫、待っていればそのうち帰って来るってぇ」

「そのうちが何時なのかが知りたい」

「季節を指定しないって事はぁ、マルの旦那にも読めないんだよ。きっとぉ」


 まあ、そうなんだろうけど。


「気をもんでいても仕方ないしぃ、パジャマパーティー始めよぉ」






 わだかまりを抱えつつキッチンに戻り、予定していた料理を全て作り終えるとザジさんのアイテムボックスに入れた。

 後はお風呂に入ってパジャマに着替えるだけだと、一番風呂の権利をかけてじゃんけんをしようと提案すると。


「俺ちゃんはいいからぁ、アーちゃん入ってぇ」


 そう言って、ザジさんは私の両肩を掴みキッチンから追い出した。


「温泉入れておいたからねぇ。あっ! 俺ちゃんの事は気にしないでゆっくりね」


 何時の間にお風呂の用意をしたのだろうか?

 本当に抜け目がない。

 ゆっくりと態々言うのだから、何かあるのだろうと何時も通り映像と音楽を楽しみながらゆっくりと温泉に浸かり、一時間半の時間を経てお風呂を出るとレオナルド様には不評だった部屋着のキャミソールに短パン。丈が腰までの短いガウンに着替え廊下に出た。すると猫を模したパジャマ……と言うより繋ぎに近い物を着たザジさんが立っていた。

 えっと……突っ込んだ方がいいのかな?


「パジャマパーティーじゃなくて、仮装パーティーだったっけ?」

「え? パジャマパーティーだよぉ?」

「それ、パジャマなの?」

「パジャマパーティー用のパジャマだねぇ」

「はい?」

「パジャマパーティーの時はこれを着るって決まりじゃなかったっけ?」


 パジャマパーティーにドレスコードがあるなんて、聞いてないけど!?


「パジャマなら何でもいいんじゃないの?」

「そうだっけ? まあ、でも、リッカさんに着るように言われてるから、俺ちゃんはこれでいいや」

「いいの?」

「だって、可愛いでしょ?」


 可愛い……。

 茶トラ猫の繋なんだろうけど、百九十センチ近い大男が着ているのでネコ科の猛獣にしか見えない。

 可愛いか可愛くないかで言うと微妙である。

 が、元が色男な為、有りと言えば有。かな? どうだろう。


「いいと思う」


 消極的な感想を述べると、何時もの甘ったるい笑みを浮かべた。


「それはそうと、ザジさんお風呂は?」

「総司ちゃんにキレイにして貰ったから大丈夫ぅ。それより準備できたから、行こう」


 背中をそっと押され、トランクの外へと続く階段を上り外へ出てみると、満天の星空が広がっていた。

 耳に心地よい波の音が繰り返される中、砂浜に張られた天幕の正面に置かれた小さな焚火がパチパチと破裂音を響かせている。


「さぁ、お嬢様。お手をどうぞ」


 まるで舞台俳優のような大仰な礼と猫を模した繋ぎの所為で、幼い頃に読んで貰った『お姫様と野獣』の一幕の様だと、笑みが零れる。

 差し出された手を取り天幕へ入ると、大人が五人は余裕で眠れる広さの天幕の中には赤い花柄のカーペットが敷かれ、その上には一人用のベッドが向かい合うように置かれており、間には小さなテーブルが二つ並んでいた。

 天幕の柱には鳥や葉、星や月などをかたどったアルミ製の装飾品が下げられ、床には枯れ木の入った花瓶や煌々石の入ったランプが置かれている。


「ふふっ。どーお? かなりそれっぽいでしょ?」


 どれっぽいのかよく分からないけれど、誰に対しても手を抜かない姿勢が凄い。


「さすがはザジさん。いい仕事してるね」

「気に入った?」

「勿論」

「よかったぁ」


 誘導されベッドの端に座ると、ザジさんがアイテムボックスを開いた。


「ご所望の可愛いヤツです」


 そう言って、テーブルの上に置かれたお皿にはドーナッツと飴細工で作られた猫が乗っていた。


「ふわぁ!」


 ドーナッツをクッションのようにして飴細工の猫が仰向け、いわゆるヘソ天状態で寝ている物や、ドーナッツの中央の穴から上半身だけ覗かせている猫。ドーナッツの上でお尻を高らかにして伸びをしている猫や片足を上げて毛繕いしている猫。ドーナッツによじ登ろうとしている子猫やずり落ちたかのように転げている子猫。とにかく猫まみれな一皿に興奮とときめきが止まらない!


「続いてこちらもどうぞ」


 テーブルに置かれたのは、サクリ村で唯一のプリン専門店。マーゴおじさんの一日十セット限定のプリン詰め合わせの箱だった。


「開店前から並んでも中々買えないプリンセット……」


 本当に、何と言うか、女子の心を掴むのが上手いな。


「その顔、俺ちゃんに惚れちゃったなぁ?」

「物心ついた時からザジさんの事は大好きだって」

「嬉しいなぁ。でも、ごめんねぇ。俺ちゃんには心に決めた人が居るんだよねぇ」

「何で私がフラれたみたいになっているの!?」

「振ってないよぉ。今世では無理って話なだけ」

「だから、何で私がフラれたみたいになっているの!?」

「振ってないって。その証拠にぃ」


 アイテムボックスから取り出されたのは、アイスクリームだった。

 それもただのアイスクリームではない。

 カップの縁から零れんばかりに盛り付けられた生クリームの上には、半分に切られた苺が花を描くように飾られ、カップの中央にはチョコレートで作られた耳や目やヒゲが施された猫型バニラアイスが鎮座した物だ。


「ほわぁあ!」

「どお? 俺ちゃんの愛、信じてくれるぅ?」

「信じる。信じるけど、何でご飯前にデザート出すの!? もう、バカバカ!」


 今直ぐに食べられないジレンマに茶トラ柄の肩をバシバシと叩くと、ザジさんは笑いながら「ごめんごめん」と謝り、アイテムボックスから別の皿を取り出した。


「デザートは後にして、先にこっちだねぇ」


 見ると、海苔を使って顔を作った猫の顔のおにぎりが五個、周りに魚の形に切ったチーズやハート型の厚焼き玉子が並んでいた。


「ふもぉお!」


 可愛いに打ち震えていると、ザジさんはデザート類をアイテムボックスに戻し、別の皿を出した。


「はい。これも食べてねぇ」


 今度はミニトマトを同切りにして大きい方を身体に見立て、輪切りのチーズを乗せゴマで目を小さく切り取った人参で鼻を作り、チーズの切れ端で髭や髪を付け、小さく切ったトマトを帽子に見立てた小人のおじさんが五体。それと同じように目と鼻が付けられたソーセージの犬が仲良くベビーリーフの船に乗っていた。


「私がお風呂に入っている間にどれだけ作ったの!?」

「お風呂に入ってる間にやったのはパーティー会場の用意だけ。可愛いシリーズは村に居る時に作り置きしておいたんだよ。何時でもアーちゃんの可愛い笑顔が見られるようにねぇ」


 くさいセリフがくさく聞こえないから不思議だ。


「有難う。あーーでも、食べるの勿体ないな~」

「食べないと腐っちゃうよ?」

「分かっているけど、罪悪感が……」

「アーちゃんが食べないなら、俺ちゃんが食べちゃうよ?」

「あーー駄目駄目。私が食べるから。ザジさんは私が用意したから揚げでも食べながら飲んでて」

「ふふっ」


 ザジさんは悪戯ぽく笑うと、お酒のあてとして用意した料理をテーブルに並べ出した。


「はい。アーちゃん用のお酒」


 目の前に置かれたのはグラスの下層が一番赤く、上に行く程に色が薄くなっているカクテルに苺やブルーベリーなどの果実とバジルの葉が添えられた物だ。

 何時だったか母が飲んでいたのを覚えている。


「私、リッカ母さんほどお酒強くないけど……」

「大丈夫ぅ。ちゃんとアーちゃんに合わせてあるからぁ」


 ザジさんがグラスを持ち上げるので、合わせるようにグラスを持ち上げた。


「それじゃあ、二人の旅路にカンパ~イ」


 グラスを合わせカツンと鳴らすと、そのまま一口飲んでみると、お酒と言うより果実水に近かった。

 猫の形を崩すのは忍びないと、ハート形の厚焼き玉子を食べる。

 ――うまっ!

 さすがはリッカ母さんの料理の一番弟子。

 同じレシピで作っているのに何故だろう。私の作る物より美味しく感じる。


「それでぇ、アーちゃんは何処か行きたいところはあるぅ?」

「特に行きたい所はないけど……」

「なら、ユーリシア大陸を時計回りに回ってみるとかするぅ?」

「うーん。それわ構わないけど、レオナルド様を連れ回してもいいものか……」

「大丈夫だよぉ。本当に嫌なら、どんな事をしてでもお金をかき集めて奴隷から外れるだろうしぃ」


 まあ、そうだろうけど。


「そもそも、何でレオナルド様を巻き込んだの?」

「巻き込んでないよぉ」

「巻き込んだでしょ。私がレオナルド様に気があるような事を言ったから、マルマール様が奴隷から解放をしなかったんだし」

「まあ、それはそうなんだけどねぇ」


 ザジさんはやみつきキャベツを齧ると、ロックの焼酎を一口飲んだ。


「アーちゃんも黒騎士くんも楽しそうにしていたからさぁ、もう少し一緒に居れば何か始まるかもって思っちゃったんだよねぇ」

「お貴族様と村娘で何が始まるって言うの?」

「男と女の事は分からないよ~」

「もし仮に何かが始まっても、破局の未来しか見えないって」

「始める前から諦めちゃ駄目だよぉ。俺ちゃん全面的に協力するしぃ」

「協力も何も、レオナルド様の事、そういう目で見てないから」

「アーちゃんの回りって村育ちの山猿みたいなのしか居なかったでしょ?」


 洗練された大人の男であるマルマール様とザジさんが居ましたけどね。


「王都育ちの黒騎士くんを初めて見た時、何か思わなかった?」


 初めて会った時……。


「胸の高鳴りとかぁ?」


 恐怖レベルの探知者との邂逅かいこうに、驚きと焦りで脈が速くなったかもしれないけど、胸の高鳴りはなかったな……。


「え? 何、その顔? どんな出会いだったのぉ?」

いて言うなら、ザジさんとのかくれんぼを彷彿とさせる出会いだったかな……」

「え~~何それ、どういう事?」

「もーー私とレオナルド様の事はいいでしょ。それより山猿で思い出したけど、トッドについてマルマール様、何も言ってなかったけど、大丈夫かな……」

「トッド?」

「既に消されてたりしないよね?」

「アーちゃんに関する事は、事前に確認を取るはずだから、大丈夫だよぉ。何も言わなかったのは村で起きた事だし、相手は村人だから、何時でもどうとでもできるから重要とは思わなかったんじゃない?」


 それならいいんだけど。

 あんなろくでなしでも、死んだら寝覚めが悪いからな。


「そんな事より、黒騎士くんとの出会いを教えてよ~」

「わざわざ話すような出会いじゃないし」

「え~~そんな事言わないで教えてよぉ。恋バナはパジャマパーティーの醍醐味なんだからさぁ」

「そもそも、恋バナなんかしてないし……」

「いいからぁ、話して話してぇ」


 そう言いながらアイテムボックスから取り出された皿には、親指の先程の大きさのマッシュポテトに目やくちばしが付けられ、雛鳥の姿の物が並んでいた。

 ――可愛い!


「これも食べてねぇ」

「ああ、食べるの勿体ない」

「それで、どうやって出会ったのかなぁ?」

「別に大した出会いじゃないんだけど……」


 お酒の所為か可愛い物の所為か、口が緩み、村を出てからの事を語る私だった。

ここまで読んで下さって有難う御座います。

かなり間が空いてしまってすみません。

年に何度かなる首の寝違えになり、三週間、パソコンと向き合えませんでした。


一応、「ヴァシェーヌ国編」(?)はこれにて終了。

次は閑話として下記のタイトル四話を書きます。

「下級騎士の苦難ーユエン視点」

「私の騎士様ーアラベラ視点」

「ギルドの危機ーナザス視点」

「配達人ーザジ視点」


その後「ダンジョン編」(?)が始まります。

はい。ダンジョンにポーションを売りに行くお話です。

勿論それ以外も売ります。


ダンジョン編の後は「偽聖女編」に続く予定ですが、偽聖女編までの道のりが長そうです。


偽聖女編より先にKindleの電子書籍の公開があると思います。

表紙とイラストが滅茶苦茶キレイなので期待していてください。


それでは、亀更新ですがこれからも宜しくお願いします。

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