60.ギルド
ケガをしてしまい痛み止めを使う事となり、とにかく眠い日々を送っていました。
その所為で更新がストップしてしまってすみません。
痛み止めは卒業したので、週一ペースに戻れるように頑張ります。
フェリックス様を懐柔する良い案が浮かばないまま、ドロテア亭を後にした。
肩を落とし俯き気味なユエンさんを宥めすかしつつ、宿へ向かい通りを歩いていると肉の焼ける香ばしい匂いと共に呼び込みの声が四方から耳に届いた。軽快な売り文句が上がる屋台にへ次々に目を向けていると、ある事が気になった。
「ユエンさん。屋台の大きさに制限とかってあるんですか?」
「あると思いますが、正確な数字は分からないです。すみません」
今歩いている通りに出ている屋台は荷車を改造して作られたものが殆どだが、その大きさはバラバラだ。荷車一台分しかない物から天幕や机に椅子を加え大きくしているものもある。
それ程大きな屋台を出す気はないが、適当に作って不可を貰っても困る。
「ユエンさん。商業ギルドって近くにありますか?」
「帰り道から少し外れたところにありますけど……」
「じゃあ、ちょっと寄ってもいいですか?」
「えぇ!? 駄目ですよ」
「何でです?」
「護衛が俺しかいないのに、何かあったらどうするんですか」
「大丈夫ですよ。ちょっと寄って屋台出店に関する書類を貰うだけですから」
「書類なら後日俺が貰ってきますから、今日の所は帰りましょう。ね?」
「うーん。でも、商品が決まったのでなるべく早く屋台を作ってしまいたいんですよね。準備が遅れれば遅れるほど販売期間が短くなりますから。ほら、私何時までもヴァシェーヌ国に居る訳ではないですから」
私の言葉にユエンさんは痛みを堪える様な顔になった。
これはもう一押しだろうと、晩御飯のメニューについて囁いてみた。
「ユエンさん。串揚げ食べたくないですか?」
「くしあげって何ですか?」
「具材を串に刺して衣をつけて油で揚げたものです」
「そう言われても想像がつかないですよ」
「フィッシュサンドやレッドボアカツレツサンドの具を覚えていますか?」
「勿論ですよ! 外はサクサク、噛むと幸せが広がるやつですよね!」
「あれはパンに挟むために大きかったですが、串揚げは一口サイズ具に衣を付けて油で揚げるんです」
「おおっ!」
「レッドボアだけでなくロックバードやレッドホーンブルの肉。海の幸だと赤マグロの残りや冷凍庫にある白身魚やエビにタコやイカ……貝柱もあったな」
「なんと豪勢な!」
「勿論、野菜だって揚げられますよ~。一口大に切った具材を用意しておいて、テーブルに設置した油鍋で自ら揚げるんです」
「自分で揚げるんですか?」
「これが結構楽しいんです」
「そうなんですか?」
「はい。そして揚げたて熱々の串揚げに専用のソースを付けて食べると!」
「食べると?」
ゴクリとユエンさんが喉を鳴らした。
「最高です! エールにとにかく合うので、エールと串揚げの無限ループです」
「だ、駄目ですよ。俺の食欲を誘惑しないで下さいよ」
目が泳いでいるって事は心が揺れている証拠だ。
「私はエビやれんこんの串揚げが好きなんですけど、チーズや餃子の串揚げも美味しいですよ」
「うがっ!」
ユエンさんは胸の辺りを抑えて俯いた。
「だっ……!」
「だ?」
「駄目ですよ。そんなうまい話……」
ユエンさんは俯いていた顔を上げると、私の手を取った。
「ちょっとだけですからね!」
そう言って足早に歩き出した。
やってきました。
ヴァシェーヌ国三区の中央通りにある商業ギルド。木造五階建ての豪勢な建物に商業ギルドを表す天秤の描かれた看板が掲げられている。
想像より大きな建物に圧倒されつつ扉を開けると、中は人でごった返していた。
飲食店の様にテーブルと椅子がいくつもあり、そこで書類に記入している人や談笑している人。椅子だけが並べられ受付待ちの為に座っている人。フロアーの一角に設けられた図書コーナーで本を読む人や壁に貼られた情報をメモする人。とにかく部屋の密集度が凄い。
屋台出店の書類を貰うだけならそうは時間がかからないだろうと、受付に声をかければギルドカードの提示を求められた。
もしかしたらとギルドへ来る途中の路地にてトランクからギルドカードを取り出しておいたので、それを受付職員に渡すと、眉を顰められた。
「こちらの番号札を持って、お待ちください」
元は母のギルドカードだったものを母の死後、マルマール様が名義変更してくれたはずなんだけど……。
もしや名義変更がされてなかったのだろうか?
若干不安になりつつ、番号札を持ってユエンさんと受付待ちの椅子に移動し、会話をする事四十分。いまだに呼ばれない。混んでいるから仕方ないのだろうと諦めの溜息を吐く。
「書類を貰うくらいだからと、なめてました」
「俺もです」
「何かごめんなさい」
「謝らないで下さいよ。それより本当に遅いですね」
「ですね」
それから雑談する事三十分。やはり呼ばれなかった。
正直、待ち疲れた。
そしてドロテア亭で果実水を二杯飲んだせいでお腹が厳しい。
「ユエンさん。厠に行きたいんですけど、いいですか?」
「それなら俺もついて行きます」
立ち上がりギルド内を見渡すと男性用の厠を示す表示は見つかったが、女性用のは見つからない。
仕方なく受付に尋ねると、奥で事務作業をしている女性職員を呼んだ。
「何でしょうか?」
「こちらの方を女性用の厠へ案内して頂戴」
「ああ。こちらへどうぞ」
受付の内側へ続く扉が開かれ、意味が分からず職員さんを見つめ返していると、優しい微笑が返された。
「女性用の厠は当ギルドにはないので、女性の方には職員用のを使って頂いているんです。どうぞ中へ」
促されて中に入ると、背後で待ったの声が上がった。
振り返ると私に続いて中へ入ろうとするユエンさんを女性職員さんは制止していた。
「男性の方はこちらでお待ち下さい」
「ですが……」
「犯罪抑止の為に女性用厠を女性職員用と同じにしている事をご理解下さい」
そう言われてしまえば、ユエンさんにはどうする事も出来ない。
「ギルド内ですから大丈夫ですよ。直ぐに済ませて戻りますから、番号札を持って待ってて下さい」
ユエンさんに番号札を渡すと、女性職員さんの後を追うようにして部屋の奥へと進んだ。受付業務用の部屋を抜け、廊下を少し歩いた所に女性用の厠があった。
「案内を有難う御座いました」
軽く頭を下げ中へ入ると、一刻も早くユエンさんの元へ戻るべくさっさと用をすませ厠を出た。すると廊下で先程の女性職員さんが待っていた。
部外者を一人にする訳がないか。
「お待たせしてすみません」
「ギルド長がお呼びです」
は?
意味が分からず目を瞬かせる。
「えっと…何でギルド長が?」
「ギルドカードの件と言えばお分かりになりますでしょうか?」
うーん。
分かるような、分からないような……。
「あの、受付前に連れを待たせているので……」
「お連れ様は先にギルド長室でお待ちです。さあ、行きましょう」
そう言うと女性職員さんは私の背に腕を回し、歩き出した。
昇降機に乗り最上階の五階で下ろされると、一際豪華な装飾が施された扉の前に立たされた。
女性職員さんが扉を叩き声をかけると扉は静かに開かれた。
目の前に現れたのは壁に金の装飾が施された煌びやかな部屋。そしてギルドに必要なのか問いたくなる程豪華絢爛なシャンデリアが中央に大きい物が一つ。それを囲むように小ぶりの物が四つ吊るされていた。
目が眩むほど光り輝く部屋の奥には圧迫感を覚えるほどの巨大な肖像画が掲げられており、描かれている本人は部屋の中央に設置されたワイン色のベルベッド張りのソファにふんぞり返っていた。
年のころは三十後半だろうか。育ちの良さを感じさせる甘い顔立ちではあるが、人を見下すような嫌な目つきをしている。
「入れ」
正直入りたくないな……と、足を止めていると、入室を促すように女性職員さんに背中を押された。
渋々部屋へ入り中を見渡すと、壁に魔物の剥製が飾られ、その下に億の値が付くだろう剣やナイフがいくつも飾られている。反対側の壁には鍵付きの棚が設置されており、金や宝石が施された置物や装飾品がこれ見よがしに並べられている。
なんとも自己顕示欲が強い部屋である。
それはそうと、やはりと言うべきかユエンさんは居ない。
「座れ」
「長居するつもりはありませんので、お構いなく」
「俺が座れと言っているんだ。さっさと座れ」
座る座らないの押し問答をしてもしょうがないと、トランクを背負ったままベルベッド張りのソファに浅く座った。
「<クリューソスギルド>の長、ナザスだ」
「商人のアゼリアです」
挨拶をすると、ナザスさんは私を値踏みするように見つめた後、テーブルの上に私のギルドカードを投げるようにして置いた。
「どういうつもりだ?」
「どうとは?」
「長年ギルドに身を置いているが、こんなお粗末な偽物は初めて見たぞ」
「偽物?」
「何処の田舎から出て来たか知らないが、ギルドカードを見た事がないのか」
見た事はあるが、発行ギルドによってカードが違うんだと思っていた。
「全国共通だったりするんですか?」
「ギルドカードは鋼を魔法で加工した魔法具だ」
ナザスさんは胸元のポケットからカードを取り出し、私のギルドカードの隣に置いた。
大きさは同じでも灰色に鈍く光るギルドカードと黒く光る私のカード。
見比べるまでもなく別物である。
「大体、モフモフギルドだと? 聞いた事もない。ふざけているのか?」
う~ん。
私もギルドカードに書かれた発行ギルド名に疑問を持った。だが世界は広いしそんな名前のギルドがあるのかもしれない。そう思い流していた訳なんだけど……。やっぱりないのか。
「えーと。何と言いますか、行き違い? 勘違い? みたいな感じでして……。間違えてすみません!」
勢いよく頭を下げて心から謝ったが、男性はフンと鼻を鳴らした。
「詐欺を働こうしておいて、謝っただけで許されると思っているのか?」
「詐欺を働くつもりなんて微塵もありませんでした。本当にその黒いカードをギルドカードだと思っていたんです」
「口では何とでも言える」
「あー、えーと、そうだ! 受付前で待っている連れが第二騎士団の方なんで、その方に聞いて貰えば私が詐欺を働こうとしたんじゃないと分かります」
「第二騎士団? 何処の騎士団だ?」
「それはその……第二王子であるフェリックス様の騎士団です」
「言うに事欠いて殿下直属の騎士だと! ふざけるな! 嘘を吐くならもっとましな嘘を吐け!」
「嘘じゃないです」
「嘘じゃなかったら何なんだ! 王家直属の騎士団は貴族で構成されているんだ。お前の連れはどう見ても平民だろうが!」
「平民ですけれど、フェリックス様に認められた逸材なんです」
「ええい。もういい!」
ギルド長が手を打ち鳴らすと、帯剣した大柄な男性が三人入って来た。
「この女を連れて行け!」
相手は三人。ギルド長と女性職員さんを入れると五人。だけどサクリ村三強の兵士に比べると気配も魔力も大した事はない。正直、逃げるだけなら召喚獣を呼ばなくてもなんとかなるだろう。
けど、お金をかけまくった金ぴかなこの部屋を滅茶苦茶にしてしまう。確実に半壊以上だ。そんな事をしたら私の印象は最悪となり、ギルドへの出入り禁止にされてしまうかもしれない。
商人としても鍛冶師としてもギルドの出禁は痛いのでそれは避けたい。
それに問題を起こしてレオナルド様に迷惑をかけるのも申し訳ない。
大人しく捕まって警吏の駐屯所で迎えが来るのを待っていた方がいいだろうか?
それはそれで迷惑をかけるだろうか?
そんな事をぐるぐると考えている間に。
――カシャン!
硬質な音を響かせ手錠が嵌められ、頭には袋が被せられた。
どうやら駐屯所に行く以外の選択肢はなさそうである。
「その詐欺師をさっさと連れて行け!」
ギルド長の言葉に誰かが私の腕を力任せに引っ張った。
乱暴な扱いに抗議しようと口を開くが、被せられた袋は言葉封じの魔法がかけられているらしく、声が出せなかった。
雑な扱いに思う事はたくさんあったが、大人しく誘導に従う事にし、歩き出した。




