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59.対峙②

「平民ごときが私に命令する気?」

「平民も貴族も関係ないね。この店で一番偉いのはこの私だ! 言う事を聞けない奴は叩き出すだけだ!」


 更に店の奥から大型の肉切包丁を持った巨漢がぞろぞろと現れ、剣呑な雰囲気に護衛騎士達が息を呑む。


「自ら出て行くか、投げ出されるか、どちらを選ぶんだい?」


 元冒険者な店主と店員達の圧に、護衛騎士は掴んでいた私の手を放すとアラベラ様を背に庇うようにして立った。


「ここは一旦引きましょう」

「そうですお嬢様。ここは危険です。帰りましょう」

「ふざけないで! 私はまだあのゴミ虫に思い知らせないといけないのよ!」


 護衛騎士と侍女の言葉を無視して私へと手を伸ばすアラベラ様だが、既んでの所でその手は止められた。


「失礼します」


 護衛騎士の一人が断りを入れ、アラベラ様を肩に担ぐ。


「お前、今直ぐ私を下ろしなさい!」


 アラベラ様は力の限り叫び、手足をバタつかせるが護衛騎士は無視して出口へと歩きだすと、もう一人の護衛と侍女もその後を追って行く。


「下ろして! 私の言う事が聞けないの! 下ろしなさい!」


 貴族の令嬢らしからぬ醜態を晒すアラベラ様を見送っていると、その姿は扉の向こうへと消えた。

 息を吐き、胸元に付けていたブローチ型の記録用魔法具スフィアのスイッチを切ると同時にユエンさんが駆け寄って来た。


「アゼリア様大丈夫でしたか!? ああっ! こんなに血が……」

「こんなの母との体術訓練で負うケガに比べたらなんでもないです」

「なんでもありますよ」

「頭のケガって見た目は派手ですが、大した事なかったりするんですよ」


 それっぽい事を言ってみたが、渋い顔をされただけだった。

 ユエンさんから差し出されたハンカチで傷口を抑え、立ち上がると、ドロテア亭の店員とお客にお礼を言った。


「皆さんのおかげでいい映像が撮れました」

「俺らは美味い酒を飲んでただけだ」

「そうだそうだ」


 エキストラ役のお客達は私が奢った酒を片手に笑い。


「俺らは傍観してただけだしな」


 ドロテア亭の店員達は苦笑気味にそう言い。


「頭の傷は大丈夫かい?」


 心配そうに覗き込むドロテアさんに、トランクから取り出したポーションを飲んで見せる。


「もう治りました」


 何とも言えない顔のドロテアさんに改めてお詫びをする。


「事前に断りを入れていたとはいえ、お店を騒がせてすみませんでした」

「いや。店に居た客は常連ばかりだったし、そいつらがいいって言ったんだ。別に問題はないさ。それより珍しい酒を一箱も貰ってよかったのかい?」

「はい。迷惑料だと思って皆さんで飲んで下さい」

「そう言うのなら、ありがたく貰っておくけどね」

「あ! もし、同じものが欲しくなったら第二騎士団に卸す予定ですので、ユエンさんかガロスさんにご連絡下さい」


 話を振られたユエンさんはヘラっと愛想笑いを浮かべ「何時でもどうぞ」と頭を掻いた。

 フルフェイスの兜を脱いだガロスさんから記録用魔法具スフィアを受け取り、アラベラ様とのやり取りが映っているかを確認する。私が胸に付けていたスフィアの映像も確認すると二つをガロスさんに渡した。


「これを今直ぐレオナルド様へ届けて下さい」

「ですが……」

「大丈夫です。ユエンさんが付いていますし、それに私こう見えて結構強いんですよ」


 正確には私が召喚できる魔物や魔獣が強いんだけどね。

 ガロスさんは何か言いたげに私を見つめた後、渋々ドロテア亭を出て行った。


「これでアラベラ様を自宅謹慎にできますから、レオナルド様の眉間の皴も減りますよね?」

「どうでしょう」

「え? やられたりませんでしたか? もっと派手に血を流した方がよかったですか?」

「いえ、そうではなくてですね」


 ユエンさんは顔に貼り付けていた髭をベリベリと剥がすと、炎症を起こし赤くなった頬を撫でながら続ける。


「アゼリア様はフェリックス殿下の賓客と言う扱いなんです。そんな人を罵倒した挙句暴力を振るいケガまでさせたんです。自宅謹慎では済まないかもしれないって意味です」

「え?」

「ん?」

「賓客って誰がですか?」

「アゼリア様ですよ。聞いていませんか?」


 聞いていませんよ!

 平民の女に意地悪する公爵令嬢の姿を撮っていたつもりが、王子の賓客に暴力を働く公爵令嬢を撮っていたなんて……。


「極刑にはならないですよね?」

「流石にそれは無いと思いますが……」

「ますが?」

「アラベラ嬢のヴァーレーン家に嫁ぐという夢は完全に断たれますね」


 一人の女性の夢を奪ってしまって、申し訳ない。


「まあ、身から出た錆ですし、もとより団長にその気が全くないですからね。気にする事は無いですよ」


 カラカラと陽気に笑った次の瞬間。表情を消し、俯いた。


「それよりも俺達ですよ」

「え?」

「護衛対象にケガをさせるなんて……」

「いや、それは私に頼まれたからですし。そもそも予定では罵詈雑言を浴びせられる場面を撮るつもりでしたし、あわよくば果実水を浴びせられたらいいな~って感じで煽りまくった訳で、血を流すのは想定外だったと言いますか、仕方ないと言いますか……」

「危険を察知し止めるべきでした」

「私が合図を送るまで静観して欲しいとお願いしたからですし……」

「お願いされましたけど、俺達の直属の上官は団長です。その命令に背いたんですよ。よくて減俸。悪くて……あうぅ。考えたくない!」


 私の浅はかな作戦の所為で三人もの人を不幸にしてしまったぽい。

 ううっ。申し訳ない。


「言う事を聞かないと二度と料理を作らないと脅されたって事にしましょう!」

「確かにそんな様な事言われましたが、脅されようが頼まれようが、ケガをさせたら駄目ですよ」

「なら、嘆願書を書きます。必要なら署名集めもします」

「あまり効果はないですと思います」

「それなら毎食レオナルド様の好物を作って懐柔しましょう!」

「喜ぶと思いますが、懐柔はされないと思いますよ」


 堅物め!


「うーん。それならレオナルド様の上のフェリックス殿下を懐柔しましょう」

「どうやってですか?」

「美味しい料理や珍しい料理を作ります!」

「まあ、団長よりは懐柔しやすいと思いますが、城に近付いて大丈夫なんですか?」


 忘れてた。

 城には行けないんだった。


「なら、フェンリルを一日貸出とかどうです?」

「そんな危険なモノを連れて行ったら、俺達のクビが確実に飛びますよ!」


 本気のダメ出しだった。

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