50.職業と適性
帰る途中で街の屋台で何かを買うという話だったが、商人のバハムさんの登場と私のポーション作れます発言の所為でかレオナルド様はホテルへ真っすぐ戻ると言い出した。
口が屋台料理を食べる状態になっていたので寄り道をゴリ押ししたいところだが、レオナルド様の纏う空気が若干ピリついているので、大人しく従う事にした。
帰りは人目があるので馬車にでも乗って帰ると思いきや、来た時同様空を駆けて帰ると言う。
「誰かに見られませんかね?」
「雲の上を行くから問題ない」
それは何だか寒そうだと心の中で呟きつつ、見れば、当たり前のようにレオナルド様が背を向けていた。ユエンさんとガロスさんはやはりというか、明後日の方向を向き目を合わせようとしてくれない。
一度乗っているのだ。二度も三度も変わらないと自分に言い聞かせ、向けられた背の乗ると雲の上を目指し駆け上がった。
私もレオナルド様もカツラの為、なるべく速度を落として走ってもらい、来た時の倍ほどの時間をかけて宿屋へ戻った。
移動中、私がお腹を鳴らしていたのに気付いていたのだろう。レオナルド様は部屋へ入るなり従業員を呼び出し食事を注文をした。
内容も量も凄過ぎる食事を四人で食べ、心もお腹も満足。
食後のお茶を淹れようかと立ち上がったのだが……。
ユエンさんとガロスさんは廊下へ出るように命じられ、私はトランクと共にベッドルームへ移動。
そして、カフェ【猫のしっぽ】へ入るように言われた。
「それでは、話を聞こうか」
カフェのテーブル席に向かい合うようにして座ると、何時になく真剣な面持ちでこちらを見つめる静かな青色の瞳に妙な緊張を覚えた。
事件ものの小説でお馴染みの取り調べとはこんな感じだろうか。そう思えるほどに空気が重い。
「どういう事だ」
「えっと、何がでしょう?」
「魔法を使わずにポーションを作れると言ったな」
「そうですね……言いましたね……」
あははっと乾いた笑いを浮かべれば、青い瞳が細められた。
「どうやって作ると言うのだ」
「それは、その……」
職業はともかく、適性は態々人に言う必要がないと母さんに言われていたから誰にも言ってこなかったのだが……。
どうしよう。
ちらりと伺うようにレオナルド様を盗み見れば、嘘は許さんと言わんばかりの厳しい形相でこちらを見ている。
適当な話で煙に巻く事も出来るけど、本当の事を話しても問題ないよね。借金返済後は忘れちゃう訳だし。
「錬金術で……」
「……」
例の如く無言が返された。
もしかしたら、声が小さくて聞き取れなかったのかもと、もう一度言うと「聞こえている」と返された。
「お前は鍛冶師じゃないのか?」
「鍛冶師です」
「なら、錬金術というのは何だ?」
「錬金術を使う鍛冶師です」
「……言っている意味が分からん」
何故分かって貰えないのかが分かりません。
「いいか、アゼリア。人の適正と言うのは生まれてから数年で確定する。確定後に変更はない」
「そうなんですか?」
「教会で鑑定を受ける時に説明を受けただろう」
うーん。説明云々の前にサクリ村に教会がないのだ。
「説明を受けなかったのか?」
「えっと、村に教会という施設がないんです……あっ! 教会って共通の信仰を持つ人々が集会を行う場所であっていますか?」
「あってはいるが……その口ぶりだと教会に行った事がないのか?」
「村にないのにどうやって行くんです?」
「村にないなら教会のある村か町に行くだろう」
「何の為にですか?」
「何のって、それは鑑定で自分の適性や加護のあるなしを視て貰う為にだ」
「それって教会でないと視られないものなんですか?」
「稀に鑑定のスキルを持つ人間もいるが、どこにいるか分からないスキル持ちを探すより、教会にいる神官に視て貰った方が早いだろう」
なるほど。
「鑑定ができるマルマール様が定期的に来ていたんで、うちの村には教会が必要なかったんですね」
「鑑定持ちが居る居ないに関わらず、教会というのは身近にあるものだ」
「何故ですか?」
「何故って、神に祈ったり感謝を捧げたり他にも色々あるが、心の拠り所としてないと困るだろう」
正直、困った事がないので分からない。
「それに、村人が大けがをしたらどうするんだ?」
「大ケガをしたら上級ポーションを飲めばいいじゃないですか」
「村人が上級ポーションを買うのか?」
「ヴァシェーヌ国では買わないんですか?」
私の言葉が余程意外だったのか、レオナルド様が目を見張った。
「えーと、逆にポーションなしでどうやってケガを治すんですか?」
「金を持たない平民はケガや病気になった時は教会に行き、お布施を払って神官に治癒魔法をかけてもらうものだ」
「へー。教会ってそんな事をしてくれるんですか。高価な上級ポーションを買わなくても安価で治療してくれるなんて、良い所なんですね」
私の反応を見て、レオナルド様は困惑の表情を浮かべ、頭を小さく左右に振った。
「そうではない……いや、もういい。話を戻すが、鍛冶師の認定を受けた者が鍛冶師だ」
「……」
「鍛冶師は鍛冶師だ」
駄目押しのように言わなくても……。
「確認なんですが、鍛冶師って錬金術師が選ぶ職業の一つじゃないんですよね?」
青い瞳が細められた。
答えを聞くまでもなく、違うようだ。
母さんめ。また、嘘を教えたな!
「アゼリア。お前は錬金術師で間違いないんだな?」
「適性という意味ではそうです。マルマール様にそう言われました」
黒衣の騎士は頭を抱え込むと、独り言のように呟いた。
「よりによって、大陸に数人しか居ない錬金術師か……」
深いため息を吐いた後、レオナルド様は顔を上げ、珍獣を見るような目で私を見た。
「漸く合点がいった。お前の持ち物が異常な訳が」
異常って……酷い。
大体、店にあるものはリッカ母さんの発案したものばかりだし。サクリ村では何処にでもある物ばかりだし。
「物作りに関しては魔法使いよりも優れていると言われているからな」
そうなんだろうか?
リッカ母さんとは別の方向で、マルマール様も魔法で色々なものを作っていたから何とも言い難い。
「ポーションが作れる理由は分かったが……もしかしなくとも、動物用以外のポーションも作れたりするのか?」
「ええ、まあ。そもそも動物用のポーションって普通の中級ポーションですし」
「同じ、だと?」
「使っている材料も効果も同じです」
「それであの値段か!?」
あの?
……あっ!
「つかぬ事をお聞きしますが、ヴァシェーヌ国の中級ポーションの値段っていくらでしょうか?」
「品質の劣った物でも五千クレ以上はする。貴族が購入する高品質の物だと十万クレを超えるぞ」
十万! そんなにするのか!?
「あの、値段に随分と開きがありますけど、何でですか?」
「材料の質や作り手の腕の良し悪しで品質が変わるからだ」
サクリ村にあるポーションは全てマルマール様が作った物だから、品質の良し悪しなんか考えた事がなかったけど、作った人間が違えば同じ物でも違うのは当たり前か。
それにしても値段の差がえげつない。
「森で購入したポーションの値段が異様に安いのは品質がよくないのと、スーパーメガポーションを購入した事での割引だと思っていたのだが、元々の価格が安かったんだな」
「そう……みたいですね」
えへへっ。と、笑ってごまかそうとしたが、顔を顰められた。
「動物用ポーションと中級ポーションが見たい。ここから倉庫へはどうやって行くんだ?」
「倉庫に行かなくても売り場にありますので……いえ、あの、取ってきますので少々お待ち下さい」
住人専用の通路から【猫のひげ】に向かって走り、目当てのポーションを掴むと急いでカフェに戻り、ポーションをテーブルに置いた。
レオナルド様は中級ポーションを手に取ると繁々と見つめ、次に動物用ポーションを手に取った。
「動物用の方はよく分からないが、中級ポーションの方は明らかに高品質なものだ。何故これほどの物を安く売っているのだ?」
「マルマール様の作った商品はマルマール様が値段を決めていますので私には……。あっ! もしかしたらうちの村には教会がないのでそれで安くしてくれているのかもしれません。多分……」
「なるほど。なら、お前のポーションはどうなんだ? 態々色を変えて安く売る理由はなんだ?」
「わざと色を変えている訳じゃないです。錬金術で作っているせいかどうしても色がおかしくなってしまって……。全く同じ効能だと言っても普段飲んでいる物と色が違うと気味が悪いらしくて、誰も買ってくれないんです」
目の前に普通のポーションが売っているのに、態々ゲテモノを買っていく酔狂な人は居ない。
「なので動物用として中級ポーションの価格から三割から五割引きで売っているんです」
「ただでさえ安いのに、そこまで値を下げる必要があるのか?」
「人間用と動物用が同じ値段だったら、大概の人は人間用を買います。動物より自分の身体の方が大切ですから」
「うむ」
「でも、家族同様に思っている動物がケガや病気になった時、助けたいと思うじゃないですか」
「まあ、そうだな」
「ただ、人間用のポーションを使うには勇気がいります。高価ですし、何より人用を使っても大丈夫なものか、不安になります」
「確かに」
「そこで、動物用と銘打たれ、人間用より安いポーションがあれば手を出し易い。と、言う訳です」
「言いたい事は分かったが、儲けにならないのではないか?」
「正直、大した利益にはなりませんけれど、誰かの大切な動物が助かるなら、それでいいかなって思っています。それに売れない商品を抱えていても意味がありませんから」
「そうか」
青い瞳を私から外し、顎をひと撫でするとすぐに視線を戻した。
7000文字を超えたので2話に分けました。
続きは明日か明後日に更新します。




