46.お出かけ⑥
長い事更新ができずにいてすみません。
ぎっくり腰のあと、数年前に手術した箇所が猛烈に痛み、通院生活をしておりました。
現在は手術の箇所は問題なくなった(自己判断)のですが、今度は足の筋を痛めてしまい五分くらいの距離でも連続で歩けない感じです。
ぎっくり腰と違って座っている姿勢が楽なので文字書きには関係ないですが、常にどこかしら痛めています(苦笑)
八階建ての宿の屋上から更に空高く上がった事で、眼下に広がる景色が全て小さく見える。まるで小人の国を見下ろしているかのようだ。
彼誰時の為、空中を駆ける騎士三人の影が路上に落ちる事は無く、道行く人に気付かれはしないが気配に敏感な動物達の鳴き声があちらこちらから上がるのが聞こえた。
「早過ぎないか?」
「え?」
「通常よりだいぶ速度を落として走ってはいるが、辛くはないか?」
私に気を使って速度を落としてくれていたのか。
道理でゆっくりだと思った。
「もっと早くても大丈夫ですよ」
獲物を前にすると私の存在など忘れて、全速力で走りだす霽月に鍛えられているので全然問題ないです。
「そうか。なら少し速度を上げるぞ」
馬で言うところの速歩から駈歩程の速さとなり、風が一気に強くなった。
昨日は染める時間がなかったので用意されたカツラを被ったが、今日は染める時間があったので地毛である。更に市場を歩くのに邪魔にならないよにズボンを履いている。
どんなに強い風でもカツラが飛ぶ心配もスカートがはだける心配もいらないので、調子に乗ってもっと早くても大丈夫だと告げた。
すると駈足から一気に襲歩の速さになった。
「おぉ~。早~い」
レオナルド様の左右の肩を掴み、強過ぎる風を感じながらはしゃぐ私。
子供の頃リッカ母さんやマルマール様の背に乗せてもらった事を思い出し、空を仰ぐ。
こんな年になってまで人の背に乗って運ばれるとは思わなかったと黄昏つつ薄暗い空から視線を戻すと、レオナルド様の頭部が震えていた。
いや、震えているのではなく風でカツラが浮き上がっているのだ。
「ぬおっ!」
今にも飛び立ちそうなカツラを留めようにも両手はレオナルド様の左右の肩を掴むのに使っている。かなりの速度が出ているので片手を放すのは危険だと、レオナルド様の背中に抱き付くようにしてカツラを挟んだ。
「レオナルド様! カツラが飛んでいきそうなので速度を落として下さい!」
風の所為で言葉が聞き取れないのか、速度が落ちない。
「レオナルド様! 速度。速度を落として下さい!」
声を大にして訴えたが速度は落ちず、顔からはみ出すようにちらちらと見えていた髭は徐々にその面積を増やして行く。
何とか髭をレオナルド様の顔に留まらせねばと密着度を上げ身体を固定し、手を口元へと伸ばすが……。
「あっ!」
残念な事に髭は私の手をすり抜け飛んで行ってしまった。
「レオナルド様。速度を落として下さい!」
何度となく訴えたが、速度を落とす事なくレオナルド様は走り続けた。
市場まで数十メートルというところで適当な空き地にレオナルド様は降り立った。
「ここからは徒歩で向かう」
そう言われ、広くて硬い背中を下りて回り込むと、酷いありさまだった。
もじゃもじゃ毛のカツラはピン数本とともにかろうじて引っかかっいる状態で、地毛をまとめるためのネットは頭半分ほどまで後退し、前髪やら何やらが覗いてた。
「えっと。直すので、そのまましゃがんでいて下さい」
「いや、いい。自分でやる」
レオナルド様は立ち上がると手探りでピンを外し始めたが、鏡が無いせいで悪戦苦闘している。
それはそうと、肩で息をしているように見えるのだが、気のせいだろうか?
私が早く走る様に言ったせいで余計な負担をかけてしまったとしたら、申し訳ない。
「お疲れでしたら、少級ポーションをお売りしますよ?」
「疲れている訳ではないので、いい」
変な汗を掻いているのは慣れないカツラを被っているせいなのだろうか?
だとしたら、本当に申し訳ない。
「まだピンが残っています」
「いい。自分でやる」
「あの、俺が手伝います」
道中吹き飛んでしまったもじゃ髭をキャッチしていたらしいガロスさんがレオナルド様に近寄り、手伝い始めた。
「何か色々とすみません」
「アゼリア様が謝る事なんてないですよ」
背後からの声に振り向くと、人懐っこい笑顔を浮かべたユエンさんと目が合った。
「変装は団長が目立ち過ぎるせいだし、あの変装を選んだのは団長自身ですしね」
そう言われるとそうなんだけど。
「我々がじっと見ていたら変装を整え辛いかもしれません。少し離れておきましょう」
その言葉を肯定するようにレオナルド様に手を振られ、私とユエンさんは少し離れた場所へ移動した。
整えている様子を見ないようにと背を向け、雑談の話題を考えていると小声で問われた。
「ところで、団長の乗り心地はどうでした?」
突然の質問に即座に浮かんで来た答えは『霽月に比べれば硬かった』である。
だが、騎士団長の背中を借りておいてそんな事を言う訳にはいかないし。かと言って、素晴らしかったと言うのもアレだし……。
「あ……悪くはなかったです」
私の答えにユエンさんは噴出した。どうやら答えを間違えたらしい。
「えっと、そういう意味じゃないですよ。恐れ多くも騎士団長様の背中です。緊張やらなにやらで、辛かった的な意味で……」
あれ?
遠回しに乗り心地悪かったって言っているよ、私!
「いや、その、レオナルド様の背中は素晴らしかったです。広いし逞しいし。鍛え上げられた筋肉の弾力は最高でした。早くて安全でしたし、乗る事が出来て光栄で……光栄過ぎて恐縮と言うか何と言うか……」
最早、自分でも何を言ってるのか分からなくなっていたところに、静かな声が落とされた。
「何の話だ?」
ほぎゃあ! レオナルド様!
「な、何でもないですよ」
「俺の話をしていなかったか?」
「いや、まさか。全然ですよ。そ、それより、早く市場に行きましょう」
もじゃもじゃのカツラと髭の向こうで怪訝な顔をしているのが安易に想像がつくが、無視し、急かすように腕を引く。
「道が分からないので、案内をお願いします」
何か言いたげだったが。
「さあ、行きましょう」
それも無視して、歩き出した。
まだまだ薄暗い明け方の道を歩く事数分。やってきました、卸売市場。
港の隣に建っている為、潮の香り……と言うより磯の香りが漂いまくっている。
荷馬車が五台は同時にすれ違えるほどの大きなゲートを潜り、中に設けられた受付所にて何人かの業者が並んでいた。帳面に何かを書き込み、割符のような物を渡すと、一人、また一人と受付向こうにある建物へ入って行った。
私達の番になり、代表でレオナルド様が帳面に記帳し、割符の代わりに鷹と王冠が刻まれた懐中時計を見せると、受付の人間は一瞬表情を硬くしたが、すぐさま笑顔を作り、中へ通してくれた。
「何から見たい?」
「う~ん。一番近い所からでいいです」
「なら香辛料や薬草になるが、いいのか?」
「はい」
白い廊下を真っすぐ進むと潮風に流され、生鮮食品なのど匂いにまじり香辛料の香りがした。匂いを辿る様に歩みを進めて行くと三号館と書かれた立て札があり、中へ入ると小さな店舗が所狭しと立ち並んでいた。
香辛料はそのままの状態の物を取り扱っている店もあれば、乾燥させた物を吊り下げている店や、磨り潰した物を瓶に入れ陳列している店もある。
薬の原材料となる草や魔物の一部を取り扱っている店も同じような感じた。
サクリ村では見た事もない薬草や香辛料に店の人にあれこれと質問をしたものの、一番聞きたい事は聞けなかった。
これって適正価格なんですか? と……。
初めて見る香辛料もだが、サクリ村で取り扱っている香辛料も、とにかく高い。
「レオナルド様」
「ん?」
「砂糖の値段を教えてもらった時、砂糖だけが特別に高いのだと思っていましたが、そうじゃないんですね」
「言っただろう。お前が扱っている調味料はどれも高額なものだと」
「はい」
どれもこれもサクリ村の百倍のお値段でした。
サクリ村で売られている調味料は基本マルマール様が運んで来てくれるので、輸送費や人件費がかからない。
だから安かったのかな?
そんな事を思いつつ、レオナルド様の服の裾を引っ張る。
「香辛料は十分見ましたので、次行きましょう」
だだっ広い館内を突っ切り、隣の館へ移動すると野菜や果物の店が並んでいた。
香辛料のように野菜も高いのだろうかと、ドキドキしながら店を覗けば、サクリ村と変わらない値段で売られていた。
ヴァシェーヌ国から遠く離れた国から輸入している珍しい野菜や果物はさすがにそれなりの値段であるが【猫のしっぽ】のメニューには関係ない野菜なので問題ない。
ざっと館内を見て回り、次の館へ向かうと、そこは肉と魚をメインに取り扱っている館だった。
入って直ぐの場所に設置された店を覗けば、解体され切り身となったお肉が抗菌作用のある葉の上に並べられていた。
札には商品名であるコカトリス。部位であるモモ肉に続きグラム数と値段が書かれているが、桁の見間違えかと、もう一度見直す。
が、見間違えではなかった。
二百グラム六万クレ……。
リッカ母さんや霽月は言うまでもないが、サクリ村の兵士達も簡単に獲ってくる魔物だ。
そこそこ強いというのは事は知っていた。サクリ村以外では高値で取引されていると予想はしていた。でも、二百グラムで六万って……。
なにその法外な値段!
そんなレベルの魔物だったのかと、両手で顔を覆う。
「ううっ……」
「どうした、アゼリア?」
「現実を直視して、辛くなっているだけです」
肩に大きな手が置かれ、優しくぽんぽんと叩かれた。
顔を上げレオナルド様を見ると、硬く頷かれた。
「こんな物は序の口だ」
「慰めになっていません!」
つい、突っ込んでしまった。
「慰めで言った訳じゃない。事実を言っただけだ」
「追い打ちをかけないで下さい」
静かな声で真面目に返さないで欲しい。本当に。
それはそうと、本当にどうしよう。
店には肉や調味料の在庫がたくさんあるから今までの値段で売る事も出来るけれど、そうするとヴァシェーヌ国で健全な商売をしている人達に迷惑が掛かってしまう。
『あの店は油も調味料もふんだんに使っていてこの値段なのに、お前の店は油も調味料も大して使っていないのにこんなに高いんだ!』と、クレームをつけられたり『あの店がこの値段で提供しているんだ。うちも値段を下げないと客が来てくれないかもしれない』と、値下げ競争が始まったり……。
考えただけで申し訳ない。
そんな事にならないように屋台で出す料理は使う肉や調味料の量を見直して、メニューも揚げ物は止めて焼き物にしよう。
騎士団の皆さんに今更『唐揚げは止めました』と言い辛いので、森での食事の値段はスーパーメガポーションを購入してもらった事に対する割引だと説明し、正規の値段を伝えて、買う買わないを決めてもらおう。
ああ。でも、騎士団の方で肉を用意してもらうなら、その分は安く提供できるかな……。
いや、いっその事使う材料全てを用意してもらって、人件費だけ請求とか……。
あれこれ考えていると、ぬめりを帯びた物を踏んずけてしまいバランスを崩した。半歩後ろのレオナルド様にぶつかると、逞しい腕が私の身体を支えた。
「す、すみません」
レオナルド様に支えられたまま態勢を整えていると、突き刺すような視線を感じた。
何だろうかと、そちらへ向こうとするが、私を支えている腕とは反対の腕が強制的に正面へ向かせた。
「見るな。見たら負けだ」
「えっ……」
と。
一瞬だったけど、金髪の縦ロールが見えた気が……。
読んで下さって有難う御座います。
続きはなるべく早く更新できるように頑張ります。




