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45.お出かけ⑤

四連休中の更新を目指して書いていましたが、書き終えたのが水曜だったので、今日の更新にしました。

今週分は半分は書いていたのですが、パソコンの電源ケーブルがちゃんと刺さっていなかったらしく、猫の要請(餌くれ)に応じている間に、全てが消えていました……。

今、思い出しながら、書いています。

「永住はしませんよ」


 一体何処からそんな話が出たのだろうか?


「え、永住しないにしても、何年かは居ますよね? ね?」

「年はちょっと……」

「じゃあ、何カ月ですか!?」

「ええっと、一カ月も居ないと思います」


 私の返答を聞き、ガロスさんは目を閉じて俯き、ユエンさんは天を仰ぐかのように背もたれに寄り掛かった。

 そして、ほぼ同時に両手で顔を覆い。


「怒られる……」

「……終わった」


 そう小さく零した。


「あっ、あの、短い期間ではありますが、全力で頑張ります。毎日メニューは変える様にしますし、勿論第二騎士団の皆さんの分は一般販売とは別枠で用意します。おまけも付けますから、元気出して下さい」


 ユエンさんは顔を覆っていた両手を退かし、縋るような眼で見つめた。


「あの、滞在延長って無理ですかね?」

「これでも結構延長した方なんで……」


 当初は倉庫の肥やしとなっている武器防具を売って、そのお金で三四日観光するだけのつもりだったし。


「何か、帰らないといけないのっぴきならない用事があったりするんですか?」

「用と言うか、元々半年くらいで故郷に帰る予定だったので、それまでに出来るだけ多くの国を見て歩きたいと思っているんです」

「そう……ですか。それなら仕方ないですね」


 ユエンさんは一口分残ってたチーズケーキを口に放り込むと、徐に立ち上がった。


「俺、夜風にあたってきます」

「俺は厠へ行ってます」


 既にコーヒーもケーキも食べ終わっていたガロスさんも立ち上がり、二人で部屋を出て行った。

 さっきまで賑やかだった部屋の空気が沈んでしまった。


「何かすみません」

「いや、いい。それより、半年後に故郷へ帰るのは、婚約者との約束の為か?」


 違うけれど、そう言う事にしておいた方がいいだろう。


「そうなんです」

「そうか」


 レオナルド様は僅かに残ったコーヒーを飲み干すと、静かにカップを戻した。


「明日はどうする?」

「え?」

「行きたい場所や見たいものはないか?」

「そうですね。朝市に行って肉や野菜の仕入れ価格を確認したり、材木屋に行って手に入る木材の確認もしたいですね」

「分かった」


 レオナルド様は立ち上がるとテーブルの上のカップやお皿を集めだした。


「明日は早い。さっさと片付けて早く休んだ方がいい」


 そう言うと、食器類を乗せたトレー手に、トランクの置かれた部屋へ消えて行った。






 カフェ【猫のしっぽ】にて、茹で上げたパスタにキャベツとベーコンがたっぷり入ったコンソメスープかけて行き、時間を確認すると、集合時間の十分前だった。

 彼らの事だから既に集まっているに違いないと、どんぶりを岡持ちに入れ、急いでトランクを出た。

 煌々ここうせきのランプが照らすうす暗いベッドルームから、集合場所である隣の部屋へ移ろうと扉を開くが、見知らぬ男性の姿にそのまま扉を閉めた。

 顔全体を覆う程伸びた髪に、鼻から下は全て髭で覆われた背の高い男性。焦げ茶色のチュニックに太めのベルトを巻き、黒色のズボンとブーツを履いていた。姿勢は正しく、腰に剣を帯びていた。新しく護衛に来た人だろうかと、そっと扉を開いて覗くと、髭もじゃ男性が扉の前で仁王立ちしていた。


「何をしている」

「その声、レオナルド様ですか?」


 長過ぎる前髪の隙間から覗く鋭い眼光。答えを聞くまでもないですね。


「おはようございます。今日は、その、随分とワイルドな装いですね」

「お前が目立ちたくないと言っていたから、顔を隠すようにした」


 羊毛で作られたかのようなカツラとお髭の存在感たるや、別の意味で目立ちそうだが……。

 美形のお忍び貴族に比べれば、髭もじゃお忍び貴族の方が人目は惹きにくいかな?


「それより、何故岡持ちを持っているんだ?」

「朝ごはんには早いですけど、スープパスタを用意ました」

「スープパスタですか!?」


 レオナルド様の肩越しにユエンさんが顔を覗かせた。


「人の耳元で大きな声を出すな」

「すみません」


 そそくさと回り込み、私から岡持ちを受け取ると、


「テーブルに並べますね」


 そう言って、慎重かつ丁寧に運んで行った。


「おお~。スープパスタ。いい匂い~」


 岡持ちから取り出したどんぶりに顔を近付け立ち上る湯気を嗅ぎまくるユエンさんに「行儀が悪いぞ」とガロスさんが注意する。


「だって、森で食べて以来、夢にまで見たスープパスタだぞ」

「いや、気持ちは分かるが、顔を寄せるのは駄目だろう」

「大丈夫。これは俺の分だから」


 そう言って、手にしていたどんぶりを自分の席に置くと、残り三つを丁寧に並べた。


「レオナルド様。アゼリア様。早く食べましょうよ」


 待ちきれないと言わんばかりに身体を左右に揺らすユエンさんに、思わず笑みが零れる。


「レオナルド様。席に着きましょうか」

「何故、呼ばなかった」

「へ?」

「言えば、手伝ったぞ」


 もじゃもじゃの毛の所為で表情は分からないが、声が不機嫌に聞こえる。

 何故に?


「スープパスタはそんなに手がかからないので、レオナルド様に手伝って貰うまでもないですよ。それより冷めないうちに食べましょう」


 一足先に席に着き手招きすると、レオナルド様も席に着いた。

 祈りの言葉も早々にスープパスタを啜るユエンさんとは対照的に、レオナルド様はスープパスタを見つめたまま動かなかった。


「どうかしましたか?」

「髭は取った方がいいだろうか?」


 あーー。

 そのままだと、食べ辛いですよね。






 朝食の後片付けを終え、トランクを背負って部屋を出ると、ユエンさんが駆け寄って来た。


「今日はトランク(それ)を持って行くのですか?」

「仕入れをするかもしれないので、念の為に持って行きます」

「結構大きいですよね。よければ俺が運びましょうか?」

「気持ちは嬉しいのですが、登録された人間にしか運べないように設計された魔法具なんです」

「へー、魔法具なんですか」


 物珍しそうにユエンさんはトランクを見渡すが、外側から見る限り何の変哲も無いトランクである。直ぐに興味は削がれ、トランクを見るのを止めた。


「出発するぞ」


 呼びかけに、私とユエンさんは慌ててレオナルド様に駆け寄ると、ガロスさんが開いてくれている扉を潜り廊下に出た。


「こっちだ」


 レオナルド様に手を引かれ歩き始めるが、何故か玄関ではなく建物の奥へと進んでる。

 正面玄関とは別に出入り口があるのかと、黙って付いて行くと、突き当りを右へ少し歩いた所にドアノブがない扉が現れた。

 扉の横には三角の天辺が上向きと下向きのボタンがあり、レオナルド様が上向きのボタンを押すと、扉は消えるようにして開かれた。

 私の肩を抱くと、レオナルド様は四方壁しかない小部屋へ入り、ユエンさんもガロスさんも後に続いた。


「レオナルド様。この小部屋はなんですか?」

「小部屋? これは昇降機だ」

「しょうこうき? ですか?」

「知らないのか? 上下に動く魔法具だ」


 そう言って、レオナルド様が壁のボタンを押すと、小部屋の扉は閉じられた。

 そして再び扉が開くと、遠くに山の谷間から半分ほど姿をのぞかせた太陽とその光に照らされ、黄、橙、紫、青の順に染められた空が広がっていた。

 レオナルド様に肩を抱かれたまま、芝生の生えた床に下りる。朝の澄んだ空気を吸い込みながら辺りを見渡すが、八階建ての建物の屋上からは民家や店などの屋根が僅かに見えるだけだった。


「レオナルド様。何故屋上に来たのですか?」

「港にある市場までかなりの距離がある。馬車で行く事も考えたが、馬車の揺れはアゼリアにはきついだろうと、走って行く事にした」


 レオナルド様は腰に下げた剣を外すとそれをガロスさんに預けると、


「さあ、乗れ」


 何故か、私に背を向けるとその場に片膝を突いた。

 ……何でしょうか?

 助けを求めるようにガロスさんを見るが、目を逸らされた。次にユエンさんを見るが、笑顔で頷くだけだった。


「どうした? 早く乗れ」

「えーーと、どういう状況ですか、これ?」


 問うと、レオナルド様は肩越しにこちらを見た。


「筋肉強化の魔法を使い、走って行く」

「走るって、屋根の上をですか?」

「いや、屋根の上を直接走ると踏み抜く恐れがあるので、人一人が乗れるほどの結界魔法を空中で展開させ、それを足場として走る」

「よく分からないのですが、普通に道路を走るんじゃだめなんですか?」

「緊急時を除き、筋肉強化の魔法を使って街中を走るのは禁止されている」

「空はいいんですか?」

「空はぶつかる人間も建物も無いからな」


 なるほど。と、理解はしたが。


「レオナルド様の背に乗る必要ってありますかね?」

「お前が筋肉強化の魔法を使えるのなら一緒に走って行けるが、使えるのか?」

「あーー。私、魔法は全く使えませんね」

「なら……」

「でも、身体を強化するポーションなら持っていますよ」


 例の如く、無言が返された。


「飲んだら一時間は超人になれます!」

「そんな貴重なもの、交通手段に使わなくていい」

「数なら結構持っていますので一本くらい飲んでも大丈夫ですよ」

「アゼリア」

「はい」

「超人状態で市場を歩くつもりか?」


 ……。


「何時もの調子で持ち上げたら、握りつぶしてしまった。なんて事はあり得ないか?」


 ……。


「肩先が触れただけで相手を吹き飛ばしてしまう恐れはないのか?」


 超人ポーションはリッカ母さんと素材採取に行った時に使ったけど、どうだっただろう。

 母さん相手だと、超人ポーションを飲んでいても、私の方が負けるからな……。


「あるのか、無いのか」

「……あるかも知れません」

「なら、飲むな」

「はい」


 レオナルド様は前を向くと再び背に乗る様に催促をした。


「早くしろ」


 貴族であり騎士団の団長の背中に乗ってもいいものだろうか?

 下級騎士のユエンさんやガロスさんの背に乗った方がよいのでなかろうか。

 そう思い、ユエンさんを見ると顔を背けられ、ガロスさんを見ればやはり顔を背けられた。

 二人が拒否したくなる程、重量ないですよ、私。

 中々背に乗らない私に痺れを切らせたのか、レオナルド様は立ち上がると私を見下ろした。


「おぶさるのが嫌なら、肩に担いで行くか?」


 荷物の様に肩に担がれたら、お腹への負担が計り知れない。


「横抱きがいいなら、そうするぞ」


 お姫様の様に運ばれるのは精神的に辛い。


「どうする?」

「おんぶでお願いします」


 片膝を突くレオナルド様の背に抱き付くようにして身体を預けると、太腿を固定するようにレオナルド様の腕が回され、立ち上がった。

 呪文を唱え、黄色く光る小さくて薄い板状の防御結界が空へ続く階段として現れた。


「振り落とされないように、しっかりと捕まっておけ」

「はい」


 硬く広い肩にしがみ付くと、レオナルド様は一気に光る階段を駆け上がった。

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