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42.お出かけ②

体調不良の為二カ月も更新が止まってしまってすみません

6000文字以上ありまず、読んでやって下さい。

 街を見たい――。

 そんな漠然とした私のリクエストに、三人は顔を突き合わせ、こそこそと何処へ行くかを相談し始めた。


「馬車を飛ばせば演劇や歌劇の夜の部に間に合うと思うが……」

「団長。アゼリア様は街が見たいのであって、観劇に行きたい訳ではありません。それに馬車で移動したら街を見れません」

「確かにそうだな」

「女性が好きな物と言えば、ドレスに靴。それから宝飾品です。そのての店に行くのはどうでしょうか?」

「ユエン。そういった店には詳しいか?」

「一応、人気の店は押さえていますが……」


 ユエンさんは横目で私を見ると、レオナルド様に耳打ちした。


「アゼリア様が気に入る商品があるかは不明です」


 気に入る物があるかどうかは見てみないと分からないので、とりあえず店に連れて行って欲しいなぁ……。


「そう言えば、女性の騎士達がフォルテ通りにジャマール国料理の美味しい店ができたと騒いでいました」


 ガロスさんの言葉に、今度は三人共にこちらを見た。

 そして――。


「アゼリアの料理以上に、美味い物が出てくる店なのか?」

「それは……」

「アゼリア様の料理を基準にしたら、料理店は全滅じゃないでしょうか?」


 私の料理を気に入ってくれたのはとても嬉しいけれど、持ち上げし過ぎではなかろうか?

 あと、食べてみないと気に入るかどうかは分からないので……以下略。

 このままでは行き先が決まりそうもないので、私から具体的な提案をしてみる。


「あのぉ。屋台とか露店が多く出ている所が見たいです」

「露店?」

「はい。まだ未定ですが店を出す時の参考にしたいので、お願いします」


 店を出す――と言う言葉に、三人は顔を見合わせ、固く頷くと。


「そう言う事なら直ぐに行くぞ」


 レオナルド様は私の肩を抱き。


「さあ。どうぞ、どうぞ」


 ユエンさんは素早く且つ優雅に扉を開いた。


「レオナルド様……」


 一人で歩けます。と、言うか、一人で歩きたいです。

 そう言い出すより早く。


「行くぞ」


 歩き出されてしまった。

 森での強制連行再び。

 金細工の施された壁掛け燭台に照らされた廊下を進んで行くと、大広間ホールと呼んでも差支えがない程に広く豪華な玄関へと出た。

 受付では従業員と一見して貴族と分かる客が対面で話しており、平民の装いをした私達に気付くと驚いた表情を浮かべたが、レオナルド様を見て『貴族のお忍び旅行』だと勝手に解釈してくれたらしく直ぐに視線を逸らし、見ない振りをしてくれた。

 部屋の鍵を受付に戻す為に強制連行が解除されたのでこれ幸いと、受付とやり取りしているレオナルド様を置き去りにして、私は一足先に正面玄関へと歩いて行った。

 重厚な扉の両脇にはドアマンがそれぞれ控え、貴族御用達の高級宿屋に不釣り合いな古着姿の私に対して嫌な顔一つせずにうやうやしく扉を開いてくれた。


「うわぁ」


 宿屋を出てまず驚いた事は、人の多さだった。

 道を覆いつくさんばかりの人! 人! 人!!

 そして、何か大きな催し物でもあるのか、引っ切り無しに流れて行く馬車の列。

 道路の舗装や建物の造りはサクリ村と然程変わらないが、とにかく人の多さが段違いである。


「何か、酔いそう」

「田舎から出てきたばかりの頃、俺も思いました」


 何時の間にか私の左横に来ていたユエンさんはそう言い。


「ここはまだマシだ」


 と、背後からガロスさんの低い声が零した。

 体格が良い二人の登場にちらほらとこちらへ視線を向ける人が現れ、それは驚きだったり警戒だったりしたが、レオナルド様が現れた途端に視線の数も色も変わった。

 男性から敵意。女性からはあからさまな好意の眼差しが送られている。

 そんな視線を向けられるのは日常茶飯事なのか気にした風もなく、私へ手を差し出した。

 さて、どうしたものか。

 貴族とは子供の頃から立ち振る舞いや所作を厳しく躾けられて育っている為に、意識せずとも動作が美しく自信に満ち溢れている。それ故にどれ程ボロい衣服を纏っていようが平民には見えない。

 現にレオナルド様の立ち姿の美しい事。そして滲み出る品位と威厳。見た目の良さもあり、貴族にしか見えない。

 そんな人間の手を取ったら、目立つどころの騒ぎじゃない。


「こちらをどうぞ」


 ポケットに忍ばせていたハンカチを手渡すと、睨まれた。

 誰がハンカチを寄こせと言った――と、目が訴えている。


「目立ちたくないので」


 眉間の皴が深まったが、無視しして。


「レオナルド様の後をついて行きますので、どうぞお進み下さい」


 微笑と動作で歩みを促すと、レオナルド様は渋々歩き出した。






 レオナルド様から発せられる圧を感じ取って、通行人達が道を開けてくれるおかげで足を止める事無く歩いて行ける。

 何て素晴らしい道先案内人だろうか。

 マントに覆われた大きな背中に無言のまま付いて行くと、程なくして大きな通りへと出た。


「ここが宿から一番近くて大きな露店街だ」


 ボス!!

 突如歩みを止めたレオナルド様の背中に顔面を突撃させてしまった。

 怪訝そうな表情で振り返ったレオナルド様は私の手を取ると、自身へと引き寄せた。


「俺の隣を歩け」

「ですが……」

「ここなら並び歩いても邪魔にはならないだろう」


 そう言う理由で後ろに控えていた訳じゃないんですけどね。


「あのぉ、私が隣を歩いたら、お忍び貴族と従者という設定に問題が生じるかと……」

「何だそれは?」

「貴族のお忍び旅行に同行者三人という設定ですよね?」

「は?」

「護衛役を元冒険者のガロスさんとユエンさんが選ばれたのはその為ですよね?」

「ガロスとユエンを選んだのは、その方が普通の旅行者に見えると思ったからだ」


 普通とは一体?


()()の旅行者は無理がありますよ」

「なら行商人の方がよかったか?」


 気にするところはそこではないです。


「貴族のお忍び旅行にお供が三人の設定で行きましょう」

「そうは言ってもこの通り、かなりの古着を着ている。貴族には見えんだろう」


 ……。

 いや、何処からどう見ても貴族です。

 まごうことなき貴族です。


「何を着ていても、レオナルド様はレオナルド様です」

「どういう意味だ?」

「言葉通りの意味です。そう言う訳ですので、私は後ろに控えさせて頂きますので、どうぞ前をお進み下さい」


 レオナルド様の隣を歩くを回避しようと、背中を両手で押すがびくともしない。


「そんなに俺の隣を歩くのが嫌か?」

「嫌なんじゃなくて、目立ちたくないんです」

「もう十分目立っていると思うぞ」


 言われて周囲を見渡すと、通りを行き交う人たちがチラチラとこちらを見ていた。


「ですから、これ以上目立ちたくないんです」

「分かった。分かったから、押すのを止めろ」


 手を放すとレオナルド様は私へ向き直った。


「それで何が見たい。目当ての物はあるのか?」

「えっと、そうですね。どんな物が好まれているのか。どの程度の金額のものが売れやすいか。逆に無い物や、忌避されるものがあれば知りたいです」


 何故か、レオナルド様が変な顔をした。


「まさか、露店を出すつもりなのか?」

「ん?」


 そりゃあ、初めて訪れた国でお金も実績もない人間が商売をするとしたら露店なのでは?

 あっ! もしかしてここに出すと勘違いしているんじゃ……。


「勿論、最初からこんな大通りに出せるなんて思っていないですよ。もっとこうひっそりとした路地で細々と始めるつもりです」


 レオナルド様の表情が更に変になった。


「アゼリア……」

「取り合えず露店を見て回りましょう!」


 レオナルド様の言葉を遮るようにしてユエンさんがそう提案した。


「露店を出すにしろなんにしろ、市場調査は欠かせませんからね。あっ! あの串焼き屋なんてどうです?」


 ユエンさんが指し示した先には、煙を巻き上げ直火で焼いた肉を売る屋台があった。


「いいですね。丁度小腹も空いてきましたし」


 率先して屋台に近寄ろうとするものの、両肩を掴む力強い手があった。


「設定はどうした?」

「すみません。つい……」


 レオナルド様の後ろへ回り、小声で囁く。


「とりあえず串焼きでお願いします」

「分かった」







 煙がもうもうと立ち上る屋台で買った串焼きを食べながら、改めて露店街を見渡す。

 住居と思わしき四階建ての建物に挟まれた通りには簡易テントで作られた露店が所狭しと並んでおり、果てが見えないほど長く続いている。

 木箱に敷物を敷いただけの簡易テーブルに僅かばかりの金物細工が並べられている店もあれば、テントの柱から垂れ下がる紐に無数の草履が吊り下げられ店主の座るスペース以外は竹籠が積み上げられた窮屈な店もある。

 採れたてを謳う野菜や果物を売る店もあれば、何カ月もの期間寝かせて作られた発酵食品の店。生花を売る店に乾燥させた薬草を売る店。木彫りの食器類の店もあば刺繍が施された布を取り扱う店。

 多種多様な露店が雑多に並んでいるのが面白く、途中からレオナルド様の存在を忘れて夢中になっていると、あっという間に時間は過ぎて行き、薄暗かった空は真っ暗となり煌々石の街頭が通りを照らしていた。


「そろそろ食事にしよう」


 声をかけられ振り返ると、レオナルド様とガロスさんだけになっていた。


「ユエンさんは?」

「あいつにはレストランの席を取りに行かせた。そのうち戻ってくるだろう」


 レオナルド様の言葉通り、程なくしてユエンさんは戻って来た。


「ドロテア亭の席が取れました」

「ドロテアか。あそこなら変な客もいないだろう。アゼリア、少し歩く事になるが構わないか?」

「はい。勿論です」


 ユエンさんを先頭にレオナルド様、その一歩後ろを私とガロスさんという配置で歩き出す。


「ガロスさん。ドロテア亭ってどんな店なんですか?」

「元冒険者がやっている店です。味もいいですし、何より一皿の量が多い店です。なので、三区に来た際には第二騎士団でよく利用しています」

「あーー、皆さんたくさん食べますよね」

「魔法を使う人間は、魔力を作るために大食漢になります」


 言われてみれば、マルマール様もかなりの大食いだったな。


「因みに普通の量のメニューもあったりしますか?」

「串焼きの肉や魚は、露店のものと同じくらいの大きさだったはずですが……」

「量など気にせず、アゼリアが食べたい物を頼めばいい」


 背中越しに私達の会話を聞いていたレオナルド様が話に入って来た。


「私は皆さんみたいにたくさん食べれませんよ」

「食べ残しは俺が食べる」

「は!? いや、駄目ですよ!」

「何故だ?」

「平民の私が食べ残した物を貴族であるレオナルド様が食べるとか、ありえないですよ」

「今の俺は平民だ。問題ない」

「それは設定であって、事実じゃないですから」

「俺がいいと言っているんだ。問題ない」

「いやいや。駄目ですから」


 そんな不毛な遣り取りをしながら、露店街を抜け大通りを歩き続ける事二十分。件の店に着いた。


「ここが我が第二騎士団行きつけのドロテア亭です」


 ユエンさんが大仰に両手で指示した立て看板には文字でドロテアと書かれ、文字が読めない人用に食事処の標章が描かれている。木造三階建の大きな店を見めてるとユエンさんが扉を開き、レオナルド様がさりげなく私の腰に手を回し歩くように促した。

 店に入ると、元冒険者が運営している店だからか、お客のほとんどが冒険者だった。中には貴族と思わしき服装の男性もいるが、腕に覚えがありと言わんばかりの厳つい見た目をしている。

 料理とお酒の匂いが入り混じる店内には、楽し気な話し声や笑い声が響いている。

 第二騎士団のお気に入りとあって、店の雰囲気も良さそうだ。

 会計台に置かれた呼び鈴をユエンさんが振ると、頭の高い位置で髪をお団子状にまとめた女給さんがそれに気付きやって来た。


「ご予約のお客様ですか?」

「はい。これ」


 ユエンさんが懐から取り出した紙を渡すと、お団子ヘアの女給さんが席へ誘導し始めた。

【猫のしっぽ】の五倍の広さはある店内を歩きながら、他のお客さんのテーブルを横目で見てみれば、飲み物は全て大ジョッキ。大皿には肉料理や魚料理が山のように積み上げられ、中でも驚いたのは人の顔の倍はあるパンに野菜ベーコン玉子チーズ肉肉野菜肉チーズ肉肉野菜ベーコン玉子チーズ肉肉野菜肉チーズ肉肉野菜と言った具合にやたらと具材を挟んだ巨大サンドイッチだった。

 崩れないようにと真ん中を串刺しにしているが、食べる時は外すのか、そのまま食べるのか、どちらにしても食べるのが大変そうだなぁ……そんな事を心の中で呟いていると、店の一番奥にある六人掛けの席に案内された。

 当たり前のようにレオナルド様が椅子を引き、座るようにと指示されたので言われるがままに席に着くと、私の隣に座わり、正面にはユエンさん。その隣にガロスさんが座った。


「ご注文が決まりましたら呼び鈴でお呼び下さい」

 

 軽くお辞儀をするお団子ヘア女給さんにお辞儀を返し、テーブルに置かれたメニュー表を開けば、料理名と値段だけが書かれていた。

 ロックバードの鉄板焼きやレッドボアと野菜の煮物。サーディンの串焼きにマッカレルの煮つけなど、名前からどんな料理かは分かるけれど、量が分からない。

 無難に串焼きを頼んだ方がよそうだと、串焼きのページを見ているとメニュー表に影が落ちた。


「量の事は気にせず、好きな物を選べ」

「ですが、残したら勿体ないですし」

「お前の食べ残しくらい俺一人で片付けられるぞ」

「いえ、それは申し訳ないので遠慮します」

「遠慮しなくていい」

「遠慮したいです」


 何処までも平行線を辿る遣り取りにユエンさんが割って入った。


「あのぉ、食べ残しって考えるんじゃなくて、分け合うって考えたらいいんじゃないですか? 各々食べたい料理を注文して小皿に取ったらいいと思うのですが、どうでしょか?」


 正直。貴族に関する知識はリッカ母さんから聞いた話だけなので、どこまでが許されて許されないのかが分からない。

 レオナルド様を横目で見れば。


「俺は何でも構わない」


 ですよね。


「失礼にならないなら、それでいいです」


 料理が被らないように四人で話し合い、呼び鈴を鳴らすと先程とは別の女給さんがやって来た。

 背中まである長い髪を後ろで一つに結った女給さんはユエンさんに気付き「あっ!」と、小さく声を上げるが余計な事は言わずに注文を取った。


「七色ドードーの丸焼き一つ、ホーンラピッドの肉包みパイ一つ、サーディンの塩焼き一つ、ブラックロブスターの蒸し焼き一つ、レッドボアの腸詰一皿、五種の野菜スープ一つ、白パン一カゴ、果実水四つ……以上で宜しかったですか?」


 注文の確認を終え、女給さんが声が届かないくらいに離れてからこっそりとユエンさんに尋ねる。


「知合いですか?」

「ええ。エマも元冒険者で、その頃からの知り合いです」

「だからユエンさんに気付いたんですね」

「エマだけじゃなく、フロアに出ている従業員や客の何人かは俺達に気付いていますよ」


 ん?

 それって、大丈夫なのだろうか?


「心配しなくても大丈夫ですよ。この店の暗黙ルールは『他人の詮索をするな』『絡むな』『暴れるな』。もしも破ったらドロテア本人か手下……じゃなくて従業員に鉄拳制裁を喰らいますし、二度破った者は出入り禁止になりますからね」


 冒険者はまだしも、貴族も鉄拳制裁するのだろうか?


「団長が変装をしている時点で訳ありだと、ここの客は察してくれます。態々話しかけるような野暮な真似はしませんし、言いふらしたりもしせんよ」


 言われてみれば、店に入ってからこれまで私達を執拗に見るお客はいなかった。見たとしても一瞬。目の端に止める程度だった。

 ドロテアさんがふるいにかけ、質の良いお客さんだけを残したんだろうな。

 そんな事を思いながら店内を見渡していると、如何にも貴族といった華やかなドレスを纏った金髪の美女と、そのお供と思わし男性二名が入店した。

 金髪美女はこちらを見るなり笑顔の花を咲かせ、カツカツと足音を響かせて私達の座る席にやって来ると。


「レオナルド様ぁ~。この様な場所でお会いできるとは運命ですわね」


 無遠慮に声をかけてきたのだった。

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