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39.アルフリードの剣②(三人称)

 ヴァシェーヌ国へ行く前に是非ともサクリ村へ立ち寄りたい――。

 そんな事を言い出したバーナムに、美人秘書のケイティは無表情に無情に言い放つ。


「駄目です」

「ほんの少しの時間でいいんだ。何とかならないかね?」


 子供の様に目を輝かせている時のバーナムの危険性を実体験で知っているケイティは、眉一つ動かさずに却下した。


「無理です」

「そこを何とか。優秀な君なら数時間くらいならひねり出せるだろう?」

「無茶を言わないで下さい」

「無茶って程のものでもないだろう。何かトラブルがあってもいいように、早めに王都を出ているのだから」

「その余裕は何時も入国審査で消費するではないですか」

「なら、隊商はこのままヴァシェーヌ国へ向かい、私一人だけ村に寄るという案はどうだろう?」

「どうもこうも、会長を一人になどさせません。必ず護衛は付けます。ですが、そうなると隊商の護衛のバランスが崩れる事になりますが、会長はそれでいいのですか?」

「う~ん……」

「隊商の安全より、ご自身の好奇心を優先されるのですか?」


 バーナムは考え込むように眉間に皴を寄せ目を閉じるが、次の瞬間目を見開き、拳を握りしめ高らかに言い放った。


「ビジネスチャンスが私を待っているのだよ!」

「……」


 マルコーから受け取ったチラシを広げ、紙の品質について説明をし、次にポケットから饅頭の包装紙を取り出して饅頭の味について語り出した。


「分かるかね、ミス・ケイティ。宝の山がそこにあるのだ! 私は村へ行きたい! いや、商人として行かねばならないのだ!」

「言いたい事は分かりましたが、駄目なものは駄目です」


 熱いプレゼンの甲斐もなく、一蹴されたバーナムは顔を強張らせた。


「ええっと、少々早口で説明したせいで上手く伝わらなかったのかな?」

「話は理解しております。ですが、商談に穴を空ける訳には行きません。それに今行っても仕入れられる量は知れています」

「ん?」

「いいですか、会長。我々は商品を届けに行く途中なのです。アイテムボックスも馬車の荷台も容量がいっぱいなのです。そんな状態で仕入れに行っても両手で持てるだけの量です。大した利益にはなりません」


 ケイティの言葉で漸く冷静さを取り戻したバーナムは自身のジャケットの襟を直すと、姿勢を正した。


「素晴らしい商品との出会いで少々我を忘れていたようだ」


 フッ――っと笑みを零し、踵を返すと、バーナムは扉に向かい一歩踏み出した。


「ミス・ケイティ。早くヴァシェーヌ国へ行こうではないか。そして荷を下ろし、さっさと村へ行くぞ!!」








 七日前。意気揚々と酒場から出て行くバーナムを見ていたアルフリードは、宿屋兼酒場に飛び込んで来た人物を見て目を丸くした。


「ああ。アルフリード殿。まだこの宿屋に居て下さってよかった!」


 酒場の中央に設置された席で一人で昼食を取っていたアルフリードに、バーナムは飛びつかんばかりの勢いで近付くと、何時もの優雅な挨拶を省略して、本題に入った。


「サクリ村へ連れて行って下さい!」

「はあ?」


 サクリ村はヴァシェーヌ国からこの村へ来る途中にある。

 ヴァシェーヌ国での用事を済ませた後、直接サクリ村へ向かうと思っていたアルフリードはわざわざ数キロ離れたこの村へバーナムが来た理由が分からず、首を傾げた。


「うちの村は紹介者がいないと入れないようなところじゃねぇーんだ。勝手に行けよ」

「そうしたいのは山々なんですが、場所が分からないのです」

「分からない?」

「マルコーさんから教えて頂いた通りに村があるとされる場所へ向かったのですが、見つからなかったのです。護衛の者に索敵魔法を使わせましたが、村どころか人の気配すらないと言われまして……」


 街道沿いにあるこの村とは違い、サクリ村は少し奥まった場所にあり、看板の類もない。

 だとしても、村一つ見つけられないとは、どれ程無能な魔法使いを雇っているのかと、アルフリードは呆れ顔でバーナムを見上げた。


「俺が案内しなくても、祭りになれば街道にサクリ村の人間が呼び込みに立つだろうから、それまで待てよ」

「そんな。あと三日も待つなんて無理です。どうか村まで連れて行って下さい」


 王都の老舗商会の会長の頼みである。普通の冒険者ならば二つ返事で応じるところだが、バーナムから買った剣に不満のある上、昼食を邪魔された事で更に不機嫌となったアルフリードはフンと鼻を鳴らし「嫌だ」と吐き捨てた。


「そこを何とか!」

「面倒くせぇ」

「この通り!」


 そんなやり取りを繰り返していると、日課である鍛錬に出ていた<金色の獅子>のメンバー四人が酒場に戻って来た。


「外にデカイ馬車が止まっていると思ったらハマゴウの旦那じゃねぇーか。こんなところで何してんだ?」


 槍使いのジュードが尋ねれば、バーナムはサクリ村への案内を頼んでいるところだと説明をした。

 アルフリードの態度から案内を渋っていると判断した魔法使いのヤルドガルは、静かな声で簡素に言った。


「行こう」

「あ? 何処にだよ?」

「お前の故郷にだ」

「はあ? 今行っても祭りの準備の最中だぞ」

「なら手伝えばいい。お前を称える祭りだ。我々が手伝うのはおかしな事ではない」

「主役の俺が手伝うとか、おかしいだろう」

「やりたくなければお前は何もしなくていい。私が勝手にやる。だから、行こう」


 ヤルドガルの意見に賛同し、ジュードも「行こうぜ」と言い出した。


「この辺の魔物狩りつくしてやる事ねぇし。退屈で死にそうなんだよ」


 ジュードの言葉に斥候役のルートと弓使いのサミュも同意して頷く。

 二階の部屋で寝ているソフィ以外が、村へ行く事を望んでいるにも関わらず、アルフリードは首を縦に振らなかった。


「なら、お前らだけで行けばいいだろうが」

「アルフリード。お前が村へ戻った時に別行動を取っていた我々は、村の正確な位置が分からない」

「だったら地図書いてやるから、適当に行けよ」


 そう言いながらも地図を書く気配がない。

 その事から村に行きたくないのではなく、ただ単に癇癪を起しているだけだと察したヤルドガルはパーティーメンバーに目配せをした。昨日今日付き合いではない。視線の意味を理解した三人はすぐさま行動に移した。


「やっぱさぁ~英雄ってカッコイイよな?」


 ジュードの放った唐突な誉め言葉に、ルートが乗っかる。


「デスネ。英雄ハ皆ノ憧レデスモン」


 若干棒読み気味なセリフを引き継ぎ、サミュが続ける。


「憧れの英雄が祭りの準備を手伝ったりしたら、皆喜ぶし、感謝するし、感動するはず? 好感度は天井知らずに跳ね上がり、英雄万歳! 子々孫々まで語り継がれる伝説となるのではなかろうか?」


 言った本人ですら適当だと感じる口上だったが、アルフリードは気を良くしていた。

 その証拠に鼻の穴が僅かに広がっていた。


「祭りが始まれば否が応でも主役であるお前は大人に囲まれてしまうのだ。人が集まっていない今のうちに子供たちに英雄の冒険譚を話してやったらどうだ?」


 ヤルドガルの言葉に更に鼻を膨らませたアルフリードは椅子の背もたれに寄り、長い足を組み替えると、蜂蜜色に輝く髪をかき上げて言った。


「フッ。子供達に夢を見させるのも英雄の仕事だからな」


 キメ顔のアルフリードに対し、各々心の中で『ちょろい』『単純』『素直』『幼い』と呟く中、バーナムだけは『<金色の獅子>の皆さん有難う!』と感謝の言葉を呟いていた。







 二階で寝ていたソフィを起こし、宿を引き払うと<金色の獅子>はバーナムと共に村の出口へ向かった。

 魔物の襲撃に備え設けられた防護柵の手前には、簡素な村に不釣り合いな豪勢な荷馬車が三台止められられており、秘書のケイティと御者は打ち合わせの為に二人で書面を覗き込み、護衛の八人は荷馬車に寄りかかるようにして立っていた。


「ミス・ケイティ。直ぐに出発だ」


 バーナムの言葉に各自所定の位置に着き、案内役のアルフリードはバーナムと共に先頭の御者台に座り、<金色の獅子>は荷台に乗る事になった。

 鬱蒼と茂る木々に挟まれた街道をヴァシェーヌ国方面へ進んで行くと目印の大木が現れ、アルフリードは左へ曲がるように指示したが、先程通った時に馬車が入れるような道は無かったとバーナムは慌てて荷馬車を止めた。


「あ? どうしたよ」

「いえ、曲がろうにも道が無いので……」

「は? 何言ってんだ?」


 アルフリードは御者台から飛び降りると、目印の大木を追い越し、両手を振った。


「ほら、ここだ。ここ」


 バーナムは荷馬車をゆっくりと歩かせ近付くと、木と木の間隔が不自然に空いている空間があった。


「先程は無かったのに……」


 自分の見落としだろうかと訝しみながら、御者台に戻ったアルフリードと共に荷馬車を進ませる。

 道と言うより、踏み固められた獣道に近い悪路は荷馬車がギリギリ通れる程度の幅しかない為、バーナムはゆっくりと注意深く進んだ。

 草に覆われた道はやがて砂利道へ変わり、舗装路に変わる頃には王都の城壁には劣るものの、立派な外壁が見えていた。


「本当にあった……」

「あるに決まってんだろ」


 門の手前で荷馬車を止め、門番へ村に入る許可を求めると、アルフリードが一緒に居る事もあり、検査も審査もなく通された。

 門を潜り、目の前の広がる光景にバーナムは言葉を失った。

 王都から離れれば離れる程に物流も人の往来も無くなるので、村は質素となる。

 道は草を引き抜き大きな石などを除け、歩きやすいように整えられただけのものであり、建物は木や藁で作られた簡素なものが主である。

 街道沿いにある村では冒険者や行商人などの旅人相手の商売ができる為、宿屋や飲食店などがあるが、街道から離れた村には民家と畑しかないところもある。

 だが、サクリ村の道路には石畳がひかれ、レンガや石造の建物が等間隔で並んでおり、街でしか見かけない煌々石を使った街灯まで立っている。

 村と言うより街に近いサクリ村の様相にバーナムは興奮のあまり叫んだ。


「おおおお! 素晴らしい! 何ですかここは!?」

「何って、ただの村だろう?」

「ただの? ただのと仰いますか!?」

「うるせぇな。耳元で大きな声出すなよ」

「失礼しました。私が持っている村のイメージとはかけ離れ過ぎていて、つい大声になってしまいました」


 謝った次の瞬間、バーナムは前方を指し、大声で叫んだ。


「あれ! あれは何ですか?」

「何って、ただの屋台だろ」

「ガラスケースの中で白い物がはじけ飛んでいますが、あれは何ですか?」

「はあ? そんなのポップコーンだろうか」

「ぽっぷこーん? ではあちらの屋台は何ですか?」

「ただのアイス売りだろ」

「あいす? なら、あっちのあれは……」


 まるで田舎から都会へ出てきた人間のように矢継ぎ早に質問をするバーナムにうんざりし、アルフリードが答えるのを止めた。

 無言を返される事で冷静さを取り戻したバーナムは、掻いてもいない額の汗を拭うと、咳払いをした。


「失礼しました」

「いいけどよ。別に」


 暫し車輪が石畳を踏みしめる音だけが続き、不意にバーナムは口を開いた。


「ずっと不思議だったのです」


 独り言の様な呟きにアルフリードは相槌を打つ事をせず、視線だけを向けた。


「アルフリード殿の剣。あれ程までに素晴らしい剣を打てる鍛冶師が小さな村に居る事が……。ですが、この村を見て謎が解けました」

「謎ぉ~?」

「ここにはアルフリード殿のような高位ランクの冒険者が多く居るのですね」

「はあ? 何言ってんだ?」

「高位ランクの冒険者が居るからこそ、竜を捕らえる事ができたのでしょう?」

「さっきから何の話をしていんだ? 俺の剣と竜が何の関係があるってんだよ」

「何って、アルフリード殿の剣に使われている素材ですよ」

「は?」

「以前剣の修理依頼をされた時、我が商会お抱えの鍛冶師ではどうにもならず、名匠グララガボルドに見て貰ったのですよ。その時言っていました。アルフリード殿の剣には竜の鱗が使われていると」

「竜の鱗……?」


 寝耳に水。

 初めて知った剣の秘密に、アルフリードは心の底から叫んだ。


「聞いてねぇーし!!」

サクリ村へ行くと駄々を捏ねるが、秘書に引きずられて行く感じにする予定だったのですが、書いているうちに変わってしまいました。

次回もアルフリードの剣の話です。

宜しくお願いします。

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